第54話・I love it when……
「ジャック、敵本隊はどうなってる?」
〔すまない、確認できそうにない。これ以上近づくとドローンが撃ち落とされてしまう〕
ジャックが指示を出すためのドローン三機。多角的に情報を処理している以上、一機でも落とされたら作戦に支障が出るだろう。
「どうやってトラックを見つければ……」
〔——よく見てください、零士さん〕
「え?」
〔HuVerが密集している所。隠れるならそこです〕
その視点で見てみると、明らかに不自然な機体が十機ほど目についた。前線に出るでもなく、部隊後方に密集して銅像のように動かない。
あの中に紛れてしまえば、トラックが見えなくなるのは当たり前だ。だが……
「敵本隊中央に切り込むのは自殺行為だろ」
〔お、No.10。目標の位置がわかったのか?〕
「え……キング?」
彼は、いつの間にかオレとジョーカーのすぐ後ろまで追いついていた。
〔こっちの方が楽しめそうじゃねぇかよ〕
左翼側の政府軍をあっさりと屠って、それでもなお、戦い足りないのだろうか。
軍用HuVerは、製造国や年式、グレードによって様々な性能がある。そしてキングが搭乗しているのは、イギリス製のクルセイダー。高機動型の機体だとジャックが言っていた。
型落ちだが特殊な性能を有している。背中にあるブースターと脚部のローラーを使い、十数秒だけスポーツカー並みの速さがでるらしい。
「リーダーの援護に行ったんじゃないのか」
〔必要ねぇだろ。あの程度でやられるヤツじゃねぇ。それよりも……〕
「敵本隊中央右。十機くらい固まっている先にいる可能性が高い」
〔おう、そうか〕
と、キングが敵本隊に突っ込もうと方向を変えた時だ。
〔おっちゃん待って、突っ込まないでよ〕
〔なんだよ、作戦でもあるってのか? ガキ〕
〔当然でしょ。脳筋と違うんだからさ〕
ジョーカー、本日二度目の『脳筋』発言。
レシーバーからは、ドスの効いた『あ”?』というキングの声が聞こえてきた。……もう、帰ったら取っ組み合いになるだろうな。また室内がめちゃくちゃになりそうだ。
〔そこに放置されているミサイルを撃ち込もうよ〕
〔アホぬかせ。こんな場所で……っておい!〕
キングの言葉が終わる前に、さっさとHuVerから飛び降りるジョーカー。
銃弾が飛び交う戦場のど真ん中で、生身のまま外に出るなんてかなりのハイリスク。しかし彼は、さっさとトラックの運転席に乗り込んでしまう。
〔……ったくよぉ。こんなとこで危険な事してんじゃねぇよ〕
この時のキングの口調は、とても落ち着いた優しさを感じさせるものだった。突然見せた違和感の残る声。キングの真意がどこにあるのか、全く読めない。
〔こんな作戦が上手くいくと思ってんのか?〕
「I love it when a plan comes together」
〔は? なんだって?〕
「作戦は奇を持ってよしとすべし。オレの好きな言葉だ」
子供の頃に観ていた海外ドラマ。その主人公の口癖がこれだった。
「正攻法で行くよりもずっと成功率が高いと思う」
……そういえばあのドラマも傭兵チームの話だったな。
「それに、敵のど真ん中を崩せれば、ドゥラ軍本隊が押し返せるかもしれないじゃないか」
〔ちっ、仕方ねえ。おいNo.10、死んでも守れよ〕
とってつけたような理由だったが、キングは納得してくれたようだ。もっともこのひと言には、自分自身でも『そうかもしれない』と納得してしまうくらいには整合性が存在していたと思う。
キングは守りの一助にと、オレに大剣を手渡してきた。深緑機が持っていた物よりも一回り大きい。長さは6メートル強、幅が2.5メートル、見るからに分厚い鉄板だ。
HuVer-WKを運転席の前に出して壁を作り、キングの大剣を地面に突き刺して防弾範囲を広げた。
――瞬時にECLIPSSが反応し、視線の先を次々と拡大表示する。
トラック前方はオレが、後方はキングが、それぞれ守りについた。いつ敵が居住区にミサイルを撃つのか、タイムリミットがわからず胸中がモヤモヤじりじりとざわついている。
〔あれ?〕
〔どうした、ガキ〕
〔どこか壊れてるよ。発射台の角度が変えられなくて……発射ボタンは問題なさそうなんだけど〕
故障なのか、それとも操作がロックされているのか。ミサイルランチャーは上の方を向いたままだ。キングの目算だと、このまま撃ったら敵本隊を飛び越えてドゥラ軍に撃ち込む事になってしまうらしい。
〔めんどくせぇな。無理矢理押し込むか〕
〔バカ、脳筋、発射台が壊れたら撃てないでしょ!〕
〔さっきから脳筋脳筋うるせえぞ、クソガキ!〕
ったくもう、こいつらは……
「発射台が動かないのなら、トラックを動かせばいい」
〔は? ケツを持ち上げろってか?〕
「ああ。この大剣の柄に発射台を載せて固定すれば、ブレずに撃ち込めるはずだ」
件のドラマで観たエピソード。低い位置の敵にミサイルを撃ち込むため、対空ミサイルを横倒しにするシーンだ。
〔ちっ、そんなのが上手くいくのかよ〕
「やる事はシンプルだ。トラックの後ろを持ち上げて撃つ。必要なのはその際の角度計算だけだろ?」
半信半疑だけど、無謀に突っ込むよりはマシだ。計算で成り立つ攻撃方法なら勝算は十分にある。
「キング、角度を算出してくれ」
〔そのくらいテメェでやれよ〕
「オレの機体は軍用じゃないんだ。弾道計算アプリなんて入ってないんだよ」
〔あ~、もうめんどくせえヤツだな。なんでそんな機体で戦場に出てんだよ〕
……知るか。
※ 「作戦は奇を持ってよしとすべし!」 "I love it when a plan comes together!"
元々の語源は孫氏の兵法「兵は奇道なり」
ちなみに、この言葉の元ネタはAチームですが、ミサイルランチャーを倒して撃つネタはアニメ:ギルティクラウンからインスピレーションを頂きました。
※ミサイルとロケットについて。
分類上の話として、目標に対するレーダーがついているかいないかで、ミサイルと呼ぶかロケットと呼ぶかが分かれます。その法則に従うと、作中に出てくる兵器はロケットになります。しかしながら……
①そもそもレーダーの有無が根幹に絡んで来ない事(重要ではないので描写として省いている)
②主人公が二人ともミサイルとロケットの違いを知らない事
③表記ゆれに見えてしまう事
以上の点から、全て”ミサイル”という表記にしています。




