第53話・カモネギショット
「見えた、正面だ」
200メートル先、そこにミサイルランチャーを積んだ軍用トラックがポツンと見えた。予想はしていたけど、数機のHuVerが護衛についている。
〔はあ? こっちからは見えねぇぞ〕
今オレたちは、お互い50メートルほど離れている。『三機が固まっていると危険』と、リーダーが提案した作戦だった。ミサイルランチャーの破壊には、誰か一人が到達できればいいのだから。
そして、リーダーが侵攻しているルートはオレの左側。そこは敵本隊の後詰が近く、リーダーの存在に気がついた敵HuVerが、わらわらと周りに集まっていた。
〔おい、こっちくんじゃねぇよ!〕
……虚しい叫び。
リーダーを囲んでいる敵は、こちらに向かってくる様子はなかった。勝手に持ち場を離れられないのだろう。
つまり、オレとジョーカーは軍用トラック周りにいる数機だけ相手にすればいい。
〔リーダー、外れ引いたね〜。頑張って〜〕
〔ちょ、待てよジョーカー。おいぃ〜。少しは手を貸せって。コラ、No.10。聞いてんのか?〕
「クイーンがいるから大丈夫だろ?」
リーダーは放っておいて問題ない。広く展開した為に、オレとジョーカーはクイーンの射程から外れている。
つまり、現在クイーンの狙撃によるバックアップを受けられるのはリーダーとキングのみだ。これで文句をいわれる筋合いは全くないだろう。
戦場見取り図→https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/3631496/
「それよりも、あと一台はどこだ?」
これだけ見通しのいい場所で、ミサイル満載のトラックが見えないのはおかしい。前方の一台も挙動が変だ。一発も撃たず、逃げもしない。
「なんか、おかしいんだよな……」
〔よくわかんないけど、あのモレクを潰していいんだよね?〕
ジョーカーはミサイルランチャーを悪魔と呼ぶ。自身のトラウマにも関係しているのだろう、大事な人たちの命を奪った兵器を、悪魔に見立てる気持ちはよくわかる。
「ああ、そうだな。まずはアレを無力化しよう。もう一台は……リーダー、気に留めておいてくれ」
〔俺にそんな余裕があると思うのか?〕
「アンタには無理なのか? オレならできるけど」
……もちろん嘘だ。素人のオレにそんな余裕はない。
〔いうじゃねぇか、Tough Boy〕
雑な煽りだったけどリーダーはあえて乗ってくれた。強引に囲みを押し開けて前方に躍り出ると、振り向きざまに敵HuVerの一機を小型ライフルのストックで殴り倒した。
〔オラァ! かかってこいや、雑魚ども!〕
吠えるリーダーの正面には、先ほどまで自分を囲んでいた敵が七、八機。普通に戦ったらまず勝てないだろう、まさしく多勢に無勢。
――しかし、囲みを突き抜けた今の位置取りは、リーダーとクイーンで敵を挟む形になっている。
リーダーに気を取られている敵機体は、一機、また一機とクイーンの超長距離射撃を喰らって行動不能に陥っていく。
HuVerの背面は弱い。関節部や排熱板がむき出しになっている部分が多いからだ。スナイパーにさらせば『破壊してください』と言っているようなもの。
「……カモネギショット」
〔はあ? なんだそりゃ〕
なんとなく声に出してしまったが、リーダーのツッコミで少し恥ずかしさを感じてしまった。そもそも説明しようにも、鴨と葱の組み合わせがなにを意味するのかは、日本文化に触れていないとわからないだろう。
「あ、いえ、なんでもないです……」
〔堅ちゃん、前見て!〕
護衛の機体が走りながら撃ってくる。照準が定まっていない。間が詰まる。オレがとる戦術は、先ほどと同じ。サイドに回り込んでのゼロ距離射撃だ。
二度目ともなれば、腕を使った姿勢制御も引き金にかけた指もスムーズに動く。膝と脇腹フレームの隙間に一発ずつ。それだけで、糸が切れた人形のようにガクッと崩れ落ちる。
〔零士さん、トラックのタイヤを確認してください〕
「タイヤですか?」
〔ええ、ちょっと気になる事があって。最優先でお願いします〕
……気になる事?
件のトラックはタイヤが完全に潰れていた。破壊されたHuVerの残骸でも踏んだのだろう。
「パンクしていますね」
〔やはりか……零士さん、よく聞いてください。もう一台のトラックは、敵本隊の中にいると思います〕
「本隊の中?」
〔目の前のトラックがその位置で撃っていないのは、射程距離外だからでしょう〕
「……なるほど。だから、前方に移動している可能性が高いのか」
そしてそこには政府軍本隊が展開している。これだけ見通しのよい場所だ、隠れられるのはそこしかないのは道理だった。
〔正直テロ組織なんて潰れてしまえとは思いますが、民間人の虐殺までは……〕
これに関してはオレも全く同じ意見だった。他人を傷つけて自己主張した所で、ほとんどの人を敵に回すだけ。その一点において、オレの意見は今も昔も変わらない。
……ただここにきて、そうせざるを得ない状況がある事も知った。
問題解決を図ろうとする間に人がどんどん死んでいく現状。大人しく殺されるのを待つのと抵抗するのとでは、抵抗する方が“思考を持つ生物”として真っ当だと思う。
だからと言って武力行使が正しいとは思えない。
「矛盾、だよな……ま、オレが考えた程度で解決するなら、戦争なんてなくなってるだろ」
※ Tough 『堅い、頑丈』という意味が一般的だが、『辛い』と訳される場合もある。今回、リーダーは零士に向かって『一筋縄でいかない奴』『手ごわい奴』といった意味合いで「Tough Boy」と発言している。零士はここ数日の言動から、一目置かれたのかもしれない。




