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ファントム・シェイド ~5000マイルの絆~  作者: 幸運な黒猫
第五章:命の代償(中東)

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第53話・カモネギショット

「見えた、正面だ」


 200メートル先、そこにミサイルランチャーを積んだ軍用トラックがポツンと見えた。予想はしていたけど、数機のHuVer(フーバー)が護衛についている。


〔はあ? こっちからは見えねぇぞ〕


 今オレたちは、お互い50メートルほど離れている。『三機が固まっていると危険』と、リーダーが提案した作戦だった。ミサイルランチャーの破壊には、誰か一人が到達できればいいのだから。


 そして、リーダーが侵攻しているルートはオレの左側。そこは敵本隊の後詰が近く、リーダーの存在に気がついた敵HuVerが、わらわらと周りに集まっていた。


〔おい、こっちくんじゃねぇよ!〕


 ……虚しい叫び。


 リーダーを囲んでいる敵は、こちらに向かってくる様子はなかった。勝手に持ち場を離れられないのだろう。


 つまり、オレとジョーカーは軍用トラック周りにいる数機だけ相手にすればいい。


〔リーダー、外れ引いたね〜。頑張って〜〕

〔ちょ、待てよジョーカー。おいぃ〜。少しは手を貸せって。コラ、No.10。聞いてんのか?〕

「クイーンがいるから大丈夫だろ?」


 リーダーは放っておいて問題ない。広く展開した為に、オレとジョーカーはクイーンの射程から外れている。


 つまり、現在クイーンの狙撃によるバックアップを受けられるのはリーダーとキングのみだ。これで文句をいわれる筋合いは全くないだろう。

 

戦場見取り図→https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/3631496/


「それよりも、あと一台はどこだ?」


 これだけ見通しのいい場所で、ミサイル満載のトラックが見えないのはおかしい。前方の一台も挙動が変だ。一発も撃たず、逃げもしない。


「なんか、おかしいんだよな……」

〔よくわかんないけど、あのモレクを潰していいんだよね?〕


 ジョーカーはミサイルランチャーを悪魔(モレク)と呼ぶ。自身のトラウマにも関係しているのだろう、大事な人たちの命を奪った兵器を、悪魔に見立てる気持ちはよくわかる。


「ああ、そうだな。まずはアレを無力化しよう。もう一台は……リーダー、気に留めておいてくれ」

〔俺にそんな余裕があると思うのか?〕

「アンタには無理なのか? オレならできるけど」


 ……もちろん嘘だ。素人のオレにそんな余裕はない。


〔いうじゃねぇか、Tough Boy〕


 雑な煽りだったけどリーダーはあえて乗ってくれた。強引に囲みを押し開けて前方に躍り出ると、振り向きざまに敵HuVerの一機を小型ライフルのストックで殴り倒した。


〔オラァ! かかってこいや、雑魚ども!〕


 吠えるリーダーの正面には、先ほどまで自分を囲んでいた敵が七、八機。普通に戦ったらまず勝てないだろう、まさしく多勢に無勢。


 ――しかし、囲みを突き抜けた今の位置取りは、リーダーとクイーンで敵を挟む形になっている。


 リーダーに気を取られている敵機体は、一機、また一機とクイーンの超長距離射撃アウトレンジ・ショットを喰らって行動不能に陥っていく。


 HuVerの背面は弱い。関節部や排熱板がむき出しになっている部分が多いからだ。スナイパーにさらせば『破壊してください』と言っているようなもの。


「……カモネギショット」

〔はあ? なんだそりゃ〕


 なんとなく声に出してしまったが、リーダーのツッコミで少し恥ずかしさを感じてしまった。そもそも説明しようにも、鴨と葱の組み合わせがなにを意味するのかは、日本文化に触れていないとわからないだろう。


「あ、いえ、なんでもないです……」

〔堅ちゃん、前見て!〕


 護衛の機体が走りながら撃ってくる。照準が定まっていない。間が詰まる。オレがとる戦術は、先ほどと同じ。サイドに回り込んでのゼロ距離射撃だ。


 二度目ともなれば、腕を使った姿勢制御も引き金にかけた指もスムーズに動く。膝と脇腹フレームの隙間に一発ずつ。それだけで、糸が切れた人形のようにガクッと崩れ落ちる。


〔零士さん、トラックのタイヤを確認してください〕

「タイヤですか?」

〔ええ、ちょっと気になる事があって。最優先でお願いします〕

 

 ……気になる事?


 件のトラックはタイヤが完全に潰れていた。破壊されたHuVerの残骸でも踏んだのだろう。


「パンクしていますね」

〔やはりか……零士さん、よく聞いてください。もう一台のトラックは、敵本隊の中にいると思います〕

「本隊の中?」

〔目の前のトラックがその位置で撃っていないのは、射程距離外だからでしょう〕

「……なるほど。だから、前方に移動している可能性が高いのか」


 そしてそこには政府軍本隊が展開している。これだけ見通しのよい場所だ、隠れられるのはそこしかないのは道理だった。


〔正直テロ組織なんて潰れてしまえとは思いますが、民間人の虐殺までは……〕


 これに関してはオレも全く同じ意見だった。他人を傷つけて自己主張した所で、ほとんどの人を敵に回すだけ。その一点において、オレの意見は今も昔も変わらない。


 ……ただここにきて、そうせざるを得ない状況がある事も知った。


 問題解決を図ろうとする間に人がどんどん死んでいく現状。大人しく殺されるのを待つのと抵抗するのとでは、抵抗する方が“思考を持つ生物”として真っ当だと思う。


 だからと言って武力行使が正しいとは思えない。


「矛盾、だよな……ま、オレが考えた程度で解決するなら、戦争なんてなくなってるだろ」


※ Tough  『堅い、頑丈』という意味が一般的だが、『辛い』と訳される場合もある。今回、リーダーは零士に向かって『一筋縄でいかない奴』『手ごわい奴』といった意味合いで「Tough Boy」と発言している。零士はここ数日の言動から、一目置かれたのかもしれない。


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