第50話・皮肉
戦場で音楽を流しながら戦うなんて、正気の沙汰ではないと自分でも思う。
しかし、曲を止める事はできない。エンゲージ・アームを装着した状態では、スイッチ類の操作が不可能だからだ。
聴き馴染みのあるイントロから『Once upon a time 《昔々……》 』と語りが入り、苦労を絵に書いたストーリーのAメロに突入する。
オレはひたすら敵の銃撃を受けながら、HuVer-WKを走らせた。
……今注意するのは、あのミサイルだけでいい。
〔藤堂、多分そのミサイルは、目的があって持ってきているハズだよ〕
「つまり?」
〔君にだけ全弾撃ち込むわけにはいかないって事。ラッキーだね〕
「……どこがラッキーだよ」
そもそもそんな敵に遭遇する事自体、アンラッキーじゃないか。
〔多分向こうも計算していると思う。限りある残弾と君のHuVerの性能を天秤にかけて『どれだけミサイルを撃ち込めるか?』ってね〕
「過小評価してくれると助かるんだが」
〔まあ、仕方ないよ。いずれにしても……〕
「そうだな、いずれにしても……」
――♪We'll give it a shot!!《やるしかない!!》
三台の軍用トラックのうち二台が、方向を変えて中央の敵本隊方面に移動し始めた。ジャックのいう『目的』かもしれない。とすると、残り一台分のミサイルが左翼側の迎撃に……いや、オレに撃ち込める残弾数って事か。
「……五本も残ってんじゃねぇか。計算したヤツ出てこいよ」
一歩近づくごとに敵の銃撃が激しくなってくる。これだけの集中攻撃を受けると動きが制限され足が鈍ってしまう。
――♪We're half way there《俺たちは、まだ半分しかきていない》
そんな状況を見て気が逸ったのだろうか、軍用トラックの脇にいた暗緑色のHuVerが向かってきた。
〔零士さん、近接型です!〕
いち早く、藤堂堅治から情報が飛んでくる。砂埃が舞う中、暗緑機の背中に見えるのは大剣だった。
〔見た感じ、そいつは脚部の駆動系が弱そうですね〕
「え……そんな事がわかるのですか?」
〔多分、本来は重量武器を扱える機種じゃないのだと思います。一歩ごとに上半身がすごくブレてるから……〕
藤堂堅治のいる部署は”新機種開発時のテスト操縦“も受け持っていたはず。だからHuVerの機体バランスについては人一倍敏感なのだろう。設計技師のオレですら、全くわからないほどに。
〔相手が振りかぶった時、側面に回り込むのは容易いはずです〕
「わかった、やってみる」
――♪Take my hand, we’ll make it I swear《力を合わせれば、絶対に打開できる》
エンゲージ・アームの指先が、反射的に操縦感覚を研ぎ澄ます。99.99%のシンクロ率が、今試される。
――瞬間、穂乃花の顔が脳裏をよぎる。生きて帰らなければ。絶対に。
暗緑機は背負った大剣を抜くと、重さにフラつきながらも上段から一気に振り下ろしてきた。
「ここだ!」
フットペダルを右にチョンチョンと素早く入力。HuVer-WKは機体を横に滑らせ、敵の大剣をヒラリとかわした。ガツンッと大剣が硬い地面に刺さる。フラつく敵機の隙をついて、左側に回り込み肩の関節に銃口を突きつけた。
――♪Livin' on a Prayer《希望を抱いて生きている》
引き金を引く。ドンッと篭った音と、ガキンッという甲高い音が同時に聞こえた。暗緑機の左腕は、力なくだらんと垂れ下がり機能を停止する。
そしてもう一発、今度は左膝裏の油圧シリンダーがむき出しになっている所を狙って撃ち込んだ。
「ふうぅ……」
戦闘機械としての機能を失った暗緑の機体。その場に崩れ落ち、膝をついて動かなくなった。
オレに向けられた集中砲火が途切れている。仲間に当てるわけにはいかないからだろう。このままこの機体を盾にして、敵陣まで攻め込むのが最善策か。
なぜ単騎で突っ込んできたのかはわからないけど、この状況はこちらにとって有利だ。
「ラッキーだな」
〔いや〜、どうだろ?〕
「ジャック? それってどういう……」
〔僕ならそのHuVerから、さっさと離れてるかな~って〕
……つまり、ここにとどまるな、と。
「って、マジかあいつら!」
突然、HVライフルによる銃撃が再開された。しかし、敵部隊の銃口は暗緑のHuVerに向けられていた。
……味方を後ろから撃つのか?
「ふざけんな、てめぇらの仲間だろうが!」
――♪Oh,we’ve got to hold on Ready or not 《耐えるしかない。準備ができていなくても》
〔これが、バジャル・サイーア共和国のやり方なんだよ。そいつはエサって事だね〕
オレは、HuVer-WKの装甲と大剣の剣身で、動けない敵を庇った。動いたらコイツは蜂の巣になるだろう。それはつまり、オペレーターの死を意味する。
――♪You live for the fight 《戦って生き残るんだ》
〔おい、No.10。生きてるか?〕
リーダーの声だ。音が鮮明に聞こえる。かなり近くまできているのだろう。
「当たり前だっての。ジャックとの会話聞こえてんだろ?」
〔上等だ。いいか、そのまま耐えてろ。動くんじゃねぇぞ」
――まさか、リーダーもオレの命をエサにするのか?
と一瞬思ったが、そもそもHuVer-WKの役割は堅牢な盾役だ。扱いとしては最初からなにも変わってない。
それはそれとして……
「人使い荒くね?」
〔無駄口叩くな。さっさと防御行動とらねぇと……死ぬぜ〕
――♪When it's all that you've got 《今ある全てを使って》
ミサイルランチャーの砲口が、ゆっくり、ゆっくりとこちらを向く。心臓が早鐘のように鳴る。
「なにをやらせる気だよ……」
その刹那――。
戦場に、一発の重い銃声が響いた。
遥か後方から放たれた弾丸は、空気を切り裂きながら軍用トラックのボンネットに当たった。かなりの大口径弾だ。大穴が開いた衝撃で車体は跳ね上がり、そのまま横転した。
「クイーンか!」
リーダーがオレに動くなと言ったのは、クイーンの照準がずれないようにするためだった。オレが動かなければ軍用トラックも動かない。理屈はわかるが……。
「オレをエサにすんじゃねぇ!」
〔は? ちゃんと生きていただろ。アホぬかすな、ったくよう〕
――♪Livin' on a prayer《希望を抱いて生きている》
「もう……マジで皮肉すぎるだろ、この歌」




