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ファントム・シェイド ~5000マイルの絆~  作者: 幸運な黒猫
第五章:命の代償(中東)

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第49話・無謀な作戦

 ドゥラ軍から布陣を指示されたポイントは、見渡す限り荒れ地が続く未開発エリアだった。


 幾度となく戦闘が繰り返され、ありとあらゆる所に、黒く焦げたすり鉢状の大穴が開いている。その周りには、破壊された軍用HuVer(フーバー)や車両の残骸と共に、放置されてミイラ化した兵士の死体が転がっていた。


「酷ぇな……」


 乾いた熱風と照りつける太陽が、腐るよりも早くドライフラワーを大量生産する大地。腐臭もなにもないのは、それが本当に生き物であったのかすらわからなくなってくる。


 オレは、そんな灼熱と虚無の世界を目の前にして、やりきれない気持ちになっていた。


〔本当に。こんなの……〕


 藤堂堅治も言葉を失ったようだ。そのひと言きりで、少しの間、通信が沈黙に包まれる。


 しかし、そのわずかな静寂が、オレにひとつの疑問を抱かせた。


「――藤堂さん、もしかしてこれ、見えているのですか?」

〔あ、ええ。すみません、言ってなかったですね。HuVerのモニター映像が、トリスを介してそのままこちらの端末に届いているんです〕


 オレは黙ったままHuVer-WK(ホーバーク)の手をメインカメラの前に出して、人差し指だけ立てて見せた。直後、藤堂堅治の口から『1、ですか?』と反応が返ってくる。


「戦いながら操縦をレクチャーするなんて無理だろうと思ったけど……」

〔ええ、直接見えています〕


 音も映像も、タイムラグがないなんて。5000マイルも離れた場所なのに、なんて技術だ。


「ほんと、トリスっていったいなんすか」

〔ん~、なんなのでしょうねぇ〕

「ま、日本に帰ったら望月部長に詳しく聞いてみます」

〔そうしてください。その時は俺も同席するので〕 

「なら、やっと名刺交換ができそうですね」


 戦場と死体を目の前にしながらも、オレたちは軽く笑い合い……そして、すぐに思考を切り替えた。


 HuVerが隠れるほどに大きく(えぐ)れた穴の中に入り、戦況の確認を始めた。前方に見える政府軍とドゥラ軍、今のところはまだ小競り合いだ。


 熱源センサーで周囲をサーチし、敵の偵察兵やHuVerがいない事を確認したころだ。


〔え〜と、藤堂。話して大丈夫かい?〕


 藤堂堅治と通信していた事が、よほど気になっていたのだろう、ジャックが申し訳なさそうに話しかけてきた。


「ああ、問題ない。ただジャック、後でちゃんと話すから……」

〔わかってる。聞こえてきた声については黙っておいてくれって事だろ?〕

「頼む。穂乃花の命にも関わるんだ」


 聞いていたのがジャックでよかった。理解が早い。


〔それは構わないんだけどさ……〕

「うん。なにか問題でも?」

〔この通信って、戦闘始まったらオープンチャンネルに切りかわるよ?〕

「マジ?」

〔うんマジ。でも、部隊内だけの通信だから。とりあえずあと四人分、言い訳を考えておこうね〕

「……軽く言ってくれるな、もう」


 一瞬心臓が跳ね上がったけど、ドゥラ軍全体に流れないのは不幸中の幸い。ハリファに知られたら、相当ヤバイ事になっていたところだ。


〔あと五分ほどでリーダーたちが合流するはず。それまで頑張って〕

「頑張ってと言われてもなぁ」


 藤堂堅治の提案で、HV用ハンドガンを装備しているけど、正直、心許無い。


 射程距離、威力、弾丸の装填数に至るまでライフル系に遠く及ばないハンドガン。サブウェポンとして、保険的に装備する兵士はちらほらいるが、主力はHVライフルだ。


 ……通常の運用では、出番があるはずもなかった。


 しかし逆に捉えると、相手の懐に飛び込む事ができれば、一方的に仕掛けられる事になる。


 つまり、オレが取るべき戦術は――堅さを最大限に活かして突っ込み、相手HuVerの肩や関節を狙ってのゼロ距離射撃。


 ナイフみたいに振りかぶる必要がない分、ハンドガンの方が有利だ。不慣れでもゼロ距離なら狙いを外さないし、殺さないで無力化できるのは願ってもない戦術。


 ――偶然か必然か、オレの考えに適う作戦だった。


〔藤堂、敵左翼の動きが思ったよりも早い。一旦退けるか?〕 

「いや、無理だ。ミサイルを積んだトラックが、見えるだけで三台確認できる」

〔ヤバイな〕

「逃げようとしたら、後ろから撃ち込まれるよな」

〔それもなんだけどさ。対戦車ミサイルの(たぐい)だとすると……すでに米国か、ヨーロッパ辺りの支援が入っているのかも。少なくともバジャル・サイーア共和国だけでは用意できない兵器だよ〕

「マジかよ……なにか手はある?」


 HuVer-WK(ホーバーク)の装甲がいくら堅くても、後ろから見れば関節や放熱口がむき出しのままだ。そんな部分にミサイルを撃ち込まれなんてしたら多分……


〔あるにはあるけど……〕

「なんだよ、歯切れ悪いな」

〔そのミサイルがどんな性能かはわからないけど、少なくとも味方を爆発範囲に巻き込んで撃つ事は考えにくい〕

「近づけ、と?」

〔そうだね。多分、30メートル圏内なら簡単には撃ってこないはず〕


 だが、次の瞬間——


「――って、言っているそばから!」


 低く唸る推進音が一瞬で膨れ上がり、正面のトラックから白熱の閃光が伸びる。


「くそっ、補足されてた!」


 コクピット内の警報が甲高く鳴り響く。赤い警告灯が点滅し、モニターにロックオン表示が点灯。


 機体を低く沈めながらスラスターを全開。地面を削るような低姿勢で、ミサイルの予測軌道の真下をくぐった。心臓が早鐘のように鳴る。汗が額を伝い、視界が一瞬狭まる。


 すぐ後ろに着弾し破裂するミサイル。凄まじい爆風に押され、HuVer-WK(ホーバーク)は転がされてしまった。


 コクピットの中は嵐か地震か。四方八方に揺らされてミキサーの如くかき回され、固定されていない物はそこら中に飛び散った。


「痛ってぇ……」


 数秒後、妙な音に気づく。今の衝撃でレシーバーが頭から外れ、操縦桿に引っかかってブラブラ揺れている。どうやらその拍子に、()()()()()()()()()()()()()()()()()


〔おい、No.10。なんだこの曲は〕


 聞こえてくるリーダーの声。いつの間にか部隊のオープンチャンネルに切り替わっていたようだ。


〔いいじゃねぇか、リーダー。つーかよ、ロック流しながら戦闘とか、No.10も相当ぶっ飛んでんな〕


 キングが誤解している。しかし今は、エンゲージアームを装着中だ。音楽を止められない。レシーバーのマイクがスピーカーの真ん前にぶら下がり、一方的に音楽を垂れ流すだけの状況だ。


「なんだよこれ……」

〔……それ、俺です。すみません〕


 と、申し訳なさそうな藤堂堅治の声。……お前が犯人か! 


〔エキスポの待ち時間対策にと、音楽データを入れておいたのですが……〕

「だからってこの選曲は……」


 二発目のミサイルがHuVer-WK右脇をかすめる。『うおっ』と、藤堂堅治の声。同じ映像を見ているのだから、その気持ちはよくわかる。


 それにしても、だ。誰でも知っている名曲ではあるけれど、この場、この状況で流れてくるのは皮肉か嫌味か。


「よりによって、なんでLivin' on a prayer《希望を抱いて生きる》なんだよ」


 ……オレに祈れとでも言うのか?


※ Livin' on a Prayer 

 1986年、Jon Bon Joviのシングル曲。タイトルに馴染みが無くても「サビはどこかで聴いたことがある」という人はかなり多いはず。動画サイト等で聴いてみてほしい。次話は是非それをBGMにして読んでください(´艸`*)

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