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ファントム・シェイド ~5000マイルの絆~  作者: 幸運な黒猫
第五章:命の代償(中東)

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第47話・ぶっつけ本番

 HuVer-WK(ホーバーク)のシートに座ると、妙に落ち着いた気分になる。喧噪から隔離された、ただひとりの空間。


 普段から賑やかな場所が好きだったのに、オレはここ数日でペシミストにでもなったのだろうか。 


「に、しても……すげー視界悪いな」


 軍用HuVer(フーバー)が持つ銃火器には、防弾ガラスなんて役に立たない。あの時は腕でガードしてなんとかなったが、今後もそれが通用するとは思えなかった。


 銃を向けられる恐怖と焦燥感。身を守るにはどうすればいいかと考えた結果、軍用HuVerのコクピット装甲を、HuVer-WK(ホーバーク)に取りつける事にした。


 幸い、ここには、スクラップになった機体が山ほどある。


 メンテナンススタッフは腕がよく、コクピットを囲むように僅か半日で装甲板を溶接してくれた。


 ……ただし、質実剛健を最優先とした結果、美的センスは最悪だ。


 取りつけた装甲板には、10センチ幅のスリットが、正面から左右に向けて真っ直ぐに入っている。『戦車の操縦手が覗く、窓のようなもの』とよく言われるが、これで本当に戦えるのか不安になってくる。


 電装系のスイッチを入れるとOSが起動し、各アプリケーションの制御が完了するのと同時に、メインモニターに点滅するSSSの文字がオレの目に飛び込んできた。


「通信がきていたのか……」


 そのすぐ下でTalk((会話))の文字が点灯、直後、コクピット内のスピーカーから声が聞こえてきた。


〔はい。あの……藤堂です〕

「あ……えっと……あの……零士、です」


 藤堂堅治の声に慌ててしまった。先輩だと思って気を抜いていたからだ。彼も妙にたどたどしい。会った事のない者同士なのだから、仕方がないのだろう。


〔大丈夫ですか? 二人とも〕

「はい、無事ですよ、妹さん。捕虜だけど、今は士官待遇です」

〔捕虜で士官待遇……ですか〕


 藤堂堅治は言葉を失ったようだ。捕虜と士官、本来相反する立場がひとつになっているのだから当然の反応。本当なら経緯を話すべきだけど、それは後回し。


 先に確認しなければならない事が、いくつもある。


 一つ目は、言問先輩の事。どんな時でも前に出たがる先輩が、通信に出る気配が全くない。なにかあったのかと危惧したけど、あのあと望月部長の所に向かったそうだ。さすがに女一人に負ける事はないと思いはしたが、それでも無事だと確認できて本当に安心した。


 二つ目は……


「それで、あの女は?」


 ――織田真理。オレを騙し、先輩や穂乃花(ほのか)まで危険にさらした、許せない元凶だ。


〔と、とりあえず捕まえて、警察に引き渡しましたよ〕


 テロ組織と繋がりがある人間なんて、キッチリと法の裁きを喰らわせるべきだと思う。……本音をいうと、女であろうと一発殴ってやりたいくらいだ。


〔え、と……。それで、望月部長から零士さんにHuVerの扱いを教えるようにと、この通信機を預かったのですが〕

「ああ……部長らしいっす」

〔俺もただのオペレーターなので、戦闘のレクチャーはできませんけど。とりあえず、なにか不具合とかありますか?〕


 腕が思うように動かせない、移動スピードが上がらない。オレが設計したマシンだ。限界値は心得ている。自分が未熟なせいもあるけど、これはどうしようもない事。


 なにを質問すればよいのか考えてあぐねていたら、ドゥラ軍の通信機のランプが点滅し、レシーバーから微かな声が漏れて聞こえた。


〔藤堂、政府軍が動いた〕


 ――ジャックの声!?


「くそ……」

〔零士さん、どうしました?〕

「政府軍が攻撃しかけて……」


 ジャックに藤堂堅治との通信がバレてしまうだろうけど、戦場(ここ)では判断の遅れが致命的になる。このままやるしかない。


「ジャック、敵の数は?」

〔先発隊は十機ってところだ。先行できるかい?〕

「ああ、やってみるよ」


 十機なら前回よりも小規模。HuVer-WK(ホーバーク)の堅さなら、傭兵部隊(みんな)がくるまでなんとかなりそうだ。


〔零士さん、出るのですか?〕

「ええ、穂乃花(ほのか)は安全な所にいます、心配しないでください」

〔待って!〕

「——どうしました?」

〔通信は切らないで。このまま操作方法をレクチャーします〕

「な……マジっすか」


 そんな滅茶苦茶な事を、ぶっつけ本番でやろうってのか……藤堂堅治、彼も相当ぶっ飛んでるな。


〔起動したらすぐに、操作をエンゲージ・アームに切り替えてください〕


 ……今、なんて?


 確かに“直感操作が可能なエンゲージ・アーム”なら動かしやすいけど、災害現場で瓦礫等を慎重に動かす為の機能だ。とても戦闘で使うようなものじゃない。


〔信じてください。俺のやるべき事は、君を死なせない事ですから!〕


 それでもここまで言うのなら……そして、部長が確信をもって彼に指示したのなら、まだ見ぬ同僚を信じてみる価値はある。


〔俺たちで、生き残りますよ〕


 そして、オレの知識と技量だけで戦うよりも、生存率が格段に上がる予感がした。


「わかりました、預けます」


 生き残るため、そして穂乃花を無事に日本へ帰すため、また悪夢の戦場に身を投じなければならなくなった。だけど戦争は肯定しない、してはいけない。これは生きるための闘いなのだから。


 大丈夫、埃を掃えば真っ白なんだ。


 ……オレは、なにも変わらねぇ。


※ペシミスト

悲観論者。 厭世家。一人でいる事に抵抗がない人が多い。


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