第47話・ぶっつけ本番
HuVer-WKのシートに座ると、妙に落ち着いた気分になる。喧噪から隔離された、ただひとりの空間。
普段から賑やかな場所が好きだったのに、オレはここ数日でペシミストにでもなったのだろうか。
「に、しても……すげー視界悪いな」
軍用HuVerが持つ銃火器には、防弾ガラスなんて役に立たない。あの時は腕でガードしてなんとかなったが、今後もそれが通用するとは思えなかった。
銃を向けられる恐怖と焦燥感。身を守るにはどうすればいいかと考えた結果、軍用HuVerのコクピット装甲を、HuVer-WKに取りつける事にした。
幸い、ここには、スクラップになった機体が山ほどある。
メンテナンススタッフは腕がよく、コクピットを囲むように僅か半日で装甲板を溶接してくれた。
……ただし、質実剛健を最優先とした結果、美的センスは最悪だ。
取りつけた装甲板には、10センチ幅のスリットが、正面から左右に向けて真っ直ぐに入っている。『戦車の操縦手が覗く、窓のようなもの』とよく言われるが、これで本当に戦えるのか不安になってくる。
電装系のスイッチを入れるとOSが起動し、各アプリケーションの制御が完了するのと同時に、メインモニターに点滅するSSSの文字がオレの目に飛び込んできた。
「通信がきていたのか……」
そのすぐ下でTalkの文字が点灯、直後、コクピット内のスピーカーから声が聞こえてきた。
〔はい。あの……藤堂です〕
「あ……えっと……あの……零士、です」
藤堂堅治の声に慌ててしまった。先輩だと思って気を抜いていたからだ。彼も妙にたどたどしい。会った事のない者同士なのだから、仕方がないのだろう。
〔大丈夫ですか? 二人とも〕
「はい、無事ですよ、妹さん。捕虜だけど、今は士官待遇です」
〔捕虜で士官待遇……ですか〕
藤堂堅治は言葉を失ったようだ。捕虜と士官、本来相反する立場がひとつになっているのだから当然の反応。本当なら経緯を話すべきだけど、それは後回し。
先に確認しなければならない事が、いくつもある。
一つ目は、言問先輩の事。どんな時でも前に出たがる先輩が、通信に出る気配が全くない。なにかあったのかと危惧したけど、あのあと望月部長の所に向かったそうだ。さすがに女一人に負ける事はないと思いはしたが、それでも無事だと確認できて本当に安心した。
二つ目は……
「それで、あの女は?」
――織田真理。オレを騙し、先輩や穂乃花まで危険にさらした、許せない元凶だ。
〔と、とりあえず捕まえて、警察に引き渡しましたよ〕
テロ組織と繋がりがある人間なんて、キッチリと法の裁きを喰らわせるべきだと思う。……本音をいうと、女であろうと一発殴ってやりたいくらいだ。
〔え、と……。それで、望月部長から零士さんにHuVerの扱いを教えるようにと、この通信機を預かったのですが〕
「ああ……部長らしいっす」
〔俺もただのオペレーターなので、戦闘のレクチャーはできませんけど。とりあえず、なにか不具合とかありますか?〕
腕が思うように動かせない、移動スピードが上がらない。オレが設計したマシンだ。限界値は心得ている。自分が未熟なせいもあるけど、これはどうしようもない事。
なにを質問すればよいのか考えてあぐねていたら、ドゥラ軍の通信機のランプが点滅し、レシーバーから微かな声が漏れて聞こえた。
〔藤堂、政府軍が動いた〕
――ジャックの声!?
「くそ……」
〔零士さん、どうしました?〕
「政府軍が攻撃しかけて……」
ジャックに藤堂堅治との通信がバレてしまうだろうけど、戦場では判断の遅れが致命的になる。このままやるしかない。
「ジャック、敵の数は?」
〔先発隊は十機ってところだ。先行できるかい?〕
「ああ、やってみるよ」
十機なら前回よりも小規模。HuVer-WKの堅さなら、傭兵部隊がくるまでなんとかなりそうだ。
〔零士さん、出るのですか?〕
「ええ、穂乃花は安全な所にいます、心配しないでください」
〔待って!〕
「——どうしました?」
〔通信は切らないで。このまま操作方法をレクチャーします〕
「な……マジっすか」
そんな滅茶苦茶な事を、ぶっつけ本番でやろうってのか……藤堂堅治、彼も相当ぶっ飛んでるな。
〔起動したらすぐに、操作をエンゲージ・アームに切り替えてください〕
……今、なんて?
確かに“直感操作が可能なエンゲージ・アーム”なら動かしやすいけど、災害現場で瓦礫等を慎重に動かす為の機能だ。とても戦闘で使うようなものじゃない。
〔信じてください。俺のやるべき事は、君を死なせない事ですから!〕
それでもここまで言うのなら……そして、部長が確信をもって彼に指示したのなら、まだ見ぬ同僚を信じてみる価値はある。
〔俺たちで、生き残りますよ〕
そして、オレの知識と技量だけで戦うよりも、生存率が格段に上がる予感がした。
「わかりました、預けます」
生き残るため、そして穂乃花を無事に日本へ帰すため、また悪夢の戦場に身を投じなければならなくなった。だけど戦争は肯定しない、してはいけない。これは生きるための闘いなのだから。
大丈夫、埃を掃えば真っ白なんだ。
……オレは、なにも変わらねぇ。
※ペシミスト
悲観論者。 厭世家。一人でいる事に抵抗がない人が多い。




