第41話・厨二病仕様
「藤堂、お前さ……」
「なんだよ……」
「唐変木通り越してバカだろ、バカ」
「普通そこまで言うか?」
「ったく……」
もうこの話を続けるのは無駄だと悟ったのか、八神は話を切り上げ、トリスの側面を覗き込んだ。『ん?』と目を細め、指でなぞる。
「なあ、ここってカードスロットじゃないか?」
「そこは放熱口だろ」
「でも熱が出てねぇし、丁度カードサイズだぜ?」
……言われてみると、そう見えなくもない。
「説明書は?」
「読んでない」
「すまん、聞いた俺が馬鹿だった。説明書より先にゲーム始めるヤツだったな」
「うっさい」
……眠気と死にかけで読んでいる暇なかったんだ。
そもそも試作機だから、ボタンやスロットになにひとつ表記がない。電源ボタンのみ、マジックでマークが書いてだけだった。
「あ~、めんどくさいな……」
「どうせ待ってるだけなんだろ? 今のうちに読んどけよ」
機能説明ファルダから、操作説明のPDFファイルを開く。解説ページはスクロールして、図解が描かれているページまで一気に飛ばした。
……図で見た方が早い。
「そこ、HuVerのライセンスカードスロット、だそうだ」
「通信機なのに免許証入れるのか? お前んとこの部長って、相当変わってるな」
……否定はできない。
どうやらこれは、災害時の状況を司令部等でも情報共有するために、HuVerのモニターをダイレクトに表示できるシステムらしい。
微弱な電波でも通信が可能になる、トリスの強みを最大限に生かした運用方法だ。電波塔が壊れても回線がパンクしても繋がるのだから、被災地支援機に乗せるには申し分がないシステムだった。
これを考案・開発し、HuVerに載せた部長の慧眼には恐れ入るしかない。
部屋ではエアコンの風音、窓の外からは買い物客の話し声。絶え間なく聞こえてくる店の喧騒。
そのどれもが全く聞こえなくなる瞬間が、突然に――そして、やっと訪れた。
――ザザザ……ザザ……
モニター表示がCallからTalkに変る。
――つながった!
「はい。あの……藤堂です」
〔あ……えっと……あの……零士、です〕
ものすごい微妙な空気が漂ってきた。電話じゃないから『もしもし』と言うのはなんか違う気がして、わけの分からない挨拶になってしまった。
それは彼も同じだったようだ。多分、このおかしな空気を感じながら苦笑しているのだろう。改めて、言問さんの持つ営業スキルの凄さを痛感してしまった。……スパイだったけど。
「大丈夫ですか? 二人とも」
〔はい、無事ですよ、妹さん。捕虜だけど、今は士官待遇です〕
「捕虜で士官待遇……ですか」
……なにを言われているのか理解できずに、俺は八神と顔を見合わせてしまった。一体どうすれば捕虜のまま士官待遇になるのか、今度ゆっくりと聞いてみたい。
〔だから組織内で危険が及ぶ事は、まずないと思います〕
「ありがとうございます。零士さんも問題なく?」
〔ええ、今のところは。ところで、先輩はどうしていますか?〕
――きた。当然の質問だ。とりあえず織田さんの希望通り、彼が味方で彼女が敵という事にして話を進める。
「言問さんは一旦、富士吉田支社に戻りました。望月部長に報告があるそうで」
〔そうですか。無事なんですね、よかった。……それで、あの女は?〕
(チッ……)
あれだけ零士・ベルンハルトの事を想っている彼女の事を、『あの女』と恨みの籠った言い方をするのを聞いて……無性に心が痛かった。
それでも、間髪いれずに聞こえてきた八神の舌打ちが、俺にとっての救いだった。
「え、えっと……捕まえて、警察に引き渡しましたよ」
〔そうですか、よかった〕
(——よくねぇよ、アホが)
俺は慌てて八神の口をふさいだ。マイクが拾う音量ではないけど、もし聞こえてしまったらいろいろ面倒だ。
「え、と……それで、望月部長から零士さんにHuVerの扱いを教えるようにと、この通信機を預かったのですが」
〔ああ……部長らしいっす〕
「俺もただのオペレーターなので、戦闘のレクチャーはできませんけど。とりあえず、なにか不具合とかありますか?」
〔そうですね……〕
と、そこまで会話したところで、零士・ベルンハルトは黙ってしまった。一瞬、通信が切れたのかと思ったが、すぐにトリスのレシーバーから色々な音が聞こえてきた。人の話し声やエンジン音、微かにサイレンの音も。
まさかこれは……
〔くそ……〕
「零士さん、どうしました?」
〔政府軍が攻撃しかけて……hey Jack,How many enemies?〕
英語が混じっている。どうやら向こうでは、テロ組織内の無線まで繋がっているようだ。
彼は『敵の数』と口にしていた。戦闘が、始まるのだろうか……。
「零士さん、出るのですか?」
〔ええ、穂乃花は安全な所にいます、心配しないでください〕
「待って!」
〔どうしました?〕
「通信は切らないで。このまま操作方法をレクチャーします」
〔な……マジっすか〕
俺はHVライセンスカードを取りだし、トリスのカードスロットに差し込んだ。メインモニターに-LINK START-の文字が表示されると同時に、今まで武骨な四角いモニターだけだったトリスが変形を始める。
メインモニター裏から回転しながら飛び出てくる左右のサイドモニター。そして下部からもDVDトレイのごとく、小さなモニターがシュッと現れた。
出力メーターやフューエルゲージ、機体状況等が表示され、システムメッセージが流れる。
――まさしくこれは、HuVerのコックピット配置そのものだ。
「なんだよこの厨二病仕様は……」
と、呆気にとられる八神。もちろん俺も驚きはしたが、『部長がやりそうな事だ』と考えたら、自然に、スッと受け入れられた。
トリスのモニターには、色あせた古い機体が動き出す様子や、銃を持ち目出し帽をかぶった人たちが映し出された。これは、今まさに零士・ベルンハルトが見ている映像なのだろう。
これなら、これを見ながら指示を出せるのなら、生存確率は格段に上がるんじゃないか?
「起動したらすぐに、操作をエンゲージ・アームに切り替えてください」
〔え、でもあれは精密作業用で……〕
「信じてください。俺のやるべき事は、君を死なせない事ですから!」
できる、できないじゃない。——やるんだ!
「俺たちで、生き残りますよ」
※ エンゲージアーム
HuVer-WKに搭載されている、精密作業用のインターフェース・マニピュレーター。肩~手に装着したアームが、操縦者の動きにリンクしてHuVer-WKの腕を動かすシステム。
詳しくはこの後に記載する【設定資料:メカ好きに刺さる。HuVer-WK・コクピット解説】にて。
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