表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ファントム・シェイド ~5000マイルの絆~  作者: 幸運な黒猫
第一章:身をもって知るは世界の現実(日本~中東)

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/86

第3話・シュクラン・カティーラン、そして闇。

 せっかく鉄面姫女史から逃げたのに、結局ラウンジでは休めなかった。ふかふかした高級ソファに身体を沈めた直後から、先輩が何度もメッセージを送りつけてきたからだった。


 プロジェクトの資料を預けておいた社員が無断欠勤。連絡がつかず、現場はパニック状態になっているらしい。


「もう、なんなんだよ。直接そいつの家に行けばいいのに」


 疲れて死んだように寝ているかもしれないし、仕事に嫌気がさして、燃え尽き症候群にかかったのかもしれない。そもそも、今まさに渡航しようとしているオレに、なにかできるわけないだろ?


 そんなこんなで貴重な時間を浪費してしまい、結局機内で寝るしかなくなってしまった。だけど、結果的にそれはそれでよかったのかもしれない。誰の邪魔も入らず、ガッツリと九時間も眠れたのだから。


 ……おかげで身体がバキバキだ。


 ドバイ国際空港から会場であるエキスポシティ・ドバイまでは、車で四十分ほどの距離。そこは以前、“ドバイ国際博覧会”で使用された跡地で、遺産(レガシー)として再利用されている広大な施設だった。


 会社が手配した現地スタッフと合流。まずは港へむかった。会場入りの前に、HuVer-WK(ホーバーク)を受け取る必要があるからだ。


 その間、アラビア語会話の本を片手にコミュニケーションを試みるが、あえなく撃沈。全然話が噛み合わない。


「上場大手企業だろ。通訳くらいつけてくれよ、もう……」

 

 港に着くと、すぐに会社のマークが入ったHV専用コンテナを探し、中に固定されているHuVer-WK(ホーバーク)のコクピットに乗り込んだ。言葉が通じないスタッフといるのが辛かったからだ。


 しかし、想定外といえばよいのだろうか、新品のマシンに搭乗して妙にテンションが上がってしまった。


 シートにはビニールがかかっていたり、モニターにはフィルムが貼ってあったりと、とにかくすべてが新しいパーツだ。微かに感じる機械の匂いがなんとも心地よい。


 フットペダルに貼ってある養生テープをはがし、足をかけてシート位置を調整。そして、オペレーターの登録をして起動準備完了だ。


 あとは固定ワイヤーを外すだけだが、それはHV専用トレーラーがきてからでいいだろう。


 コンテナの床には長距離輸送用の固定フックが設置されている。機体は前後左右に二本ずつ、合計八本のワイヤーでガッチリと固定されていた。


 平均で7メートルの機体。高さがある分横揺れに弱く、海上輸送が主なHuVer(フーバー)の場合はかなり頑丈に固定しておく必要がある。


 ……それにしてもトレーラーの到着が遅い。渋滞に巻き込まれたって連絡が入ったけど、ドバイみたいな広い道路でも渋滞なんてあるものなのか。


「تناول بعض الماء من فضلك」


 その時、現地スタッフの一人がタラップを登り声をかけてきた。なにをいわれたのわからずにキョトンとしていると『ど~おう……ぞ? のみます、ヨ』と、たどたどしい日本語でペットボトルの水をさし出してきた。


 多分、気を使ってくれたのだろう。手に持っていたのは日本メーカーの天然水だった。


「あ、ありが……じゃなくて、えっと……|シュクラン・カティーラン《(どうもありがとう)》」


 オレはドイツ生まれだが、日本人の母親のおかげで、物心ついた頃から日本語には慣れ親しんでいた。そして英語と合わせて三カ国の言葉を話せる。


 しかし、アラビア語だけは勉強する気すら起きなかった。とんでもなく難解で、日本語の比じゃないからだ。


 それでも最低限の礼儀として、挨拶とイエス・ノー、お礼の言葉だけはちゃんと覚えてきた。発音は微妙だけど、なんとか感謝の気持ちは伝わってくれたらしい。彼はニコッと笑顔を見せ、他の暇そうにしているスタッフたちの元へ戻っていった。





「……っと、やべえ、眠ってたか」


 HV専用トレーラーの到着があまりに遅く、いつの間にかコクピットで眠ってしまっていたらしい。フライトであれだけ寝ていたというのに、ここでもまた眠ってしまうなんて。


 寝過ぎたせいか、頭の中がふわふわと揺れているような感じがして、少し気持ち悪い。


 辺りは真っ暗で、一瞬夜になったのかと思った。しかし、おそらくここはコンテナの中だろう。そう判断できたのは、微かな光が四角く、扉の形にぴったりと漏れているからだ。


 とりあえず明かりが欲しいと思い、オレはシートの下に常備しているハンディライトを取ろうとした。


「え……?」


 その時初めて、()()()()()()()()()に気がついた。


「……なんで縛られてるの、オレ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ