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ファントム・シェイド ~5000マイルの絆~  作者: 幸運な黒猫
第四章:虚言・怨恨・逆恨み(日本)

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第34話・接続

「ちょっと藤堂さん、なぜアレがここにいるのよ!」


 なぜか機嫌の悪い織田女史。俺の胸元を掴み、食ってかかってきた。


「アレって……言問(こととい)さんですか? 部長からトリスの部品を預かって、持ってきてくれたんです」


 彼女が一番気にしている”暑さ“から解放されるというのに、どうしたのだろう?


「帰ってもらってください」

「いや、今きたばかりですし」

「じゃあ、時計を進めて下さい」


 なにか尋常じゃない理由があるのは察するけど、トリスの部品を届けてくれた人に『用が済んだら帰れ』なんて言えるわけがない。


「えっと、織田さん。コンビニにでも行ってくるとか……」

「私が? なんでアレのために私が出かけなければならないのですか!」


 ……本当にこんな彼女を見るのは初めてだ。相当取り乱している。


「わかりましたから。とりあえずトリスの件があるので落ち着いてください。——零士君のためにも!」


 彼の名前を出した瞬間、ス-ッと元の彼女に戻った感じがした。……彼女にとって『零士』というキーワードは精神安定剤みたいなものか。


「ですが、どうなっても知りませんよ? これは藤堂さんのために言っているのですから」


 俺の? ……織田女史の言葉の真意がわからずにいると、言問さんが腫れ物に触るかのように口を開いた。


「え、えっと……二人が一緒にいるのって、まさか、同棲……ですか?」

「いやいや、そんなわけ……」


 ――ドンッ!!!


 彼女の強烈な蹴りが壁に食い込んだ。


 ……おい、マジか。


「ええそうよ。その通り、同棲です同棲。二人は同棲だから私たちの邪魔をしないでくれます?」


 本当にどうしたのだろうか、あの織田女史がめちゃくちゃな言葉使いになっている。二人の間になにかがあったのは確かだろうけど、ここまで嫌悪感を表に出すなんてそうそうある事ではない。


 言問さんは言問さんで、無言のまま苦笑いしているし。この状況、どうすればいいのだろうか。自分の部屋なのに逃げ出したい気分だ。


 ……しかし、不幸というものが不意に訪れるように、幸運もまた予期せずに現れる。


 ドラマとかで、男女がいい雰囲気になってキスしようとした時に、電話が鳴る演出がある。現実にはほぼありえないくらいの確率。


 そんな神がかった演出が、今、この場に訪れた。


 ピッ――ピッ――ピッ――


 突然鳴りだすトリスの信号音。続けて連携してあるスマホの着信音が部屋中に響いた。


「——藤堂さん、トリスが!」

 

 トリスのモニターにはconnection((接続中))の点滅表示、そしてスピーカーから雑音が漏れる。もちろんついさっきまでは全く無反応だった。


 これは、|stealth-seedステルス・シードが中東のHuVer(フーバー)にたどり着いたという事なのか?



 ――ザザザ



「え、あれ? これ、繋がった? ……のかな?」


 トリスを指差しながら振り返り、尋ねてくる言問さん。しかし聞かれても答えようがない、俺たちも初めてなのだから。

 

「お~い、もしも~し」


 しかし、さすがは営業マンだ。物怖じせずに、とにかくコンタクトを取ろうと話し続ける。


 織田女史は感情が先に出てしまうだろうし、俺は零士・ベルンハルトとは会った事すらない。だから感情的にならず、それでいてグイグイと前に出る彼が居合わせてくれて、本当に助かった。


 織田女史は、祈るように指を組んで目を瞑っている。


 そんな思いが届いたのだろうか、トリスのスピーカーから声が、日本語が、聞こえてきた。


〔も、もしもし?〕

「お、繋がってんじゃん。零士か? 零士だよな?」

〔この声、先輩……っすよね?〕


 お互いに確認し合う声と声。その瞬間、織田女史は口に手を当ててボロボロと大粒の涙を流し始めた。


「ああ、お前、身体は大丈夫なのか?」

〔まあ一応は。それよりも、これってなんなんすか?〕

「腹が痛いとか水虫が痒いとかない?」

〔……そういうのはいいんで。他に誰かいるんですか? 後ろで声が聞こえるんすけど〕


「——零士クン!」


 息を飲みながら声にならない声を発する織田女史。咄嗟に声を出そうとして出せなかったようだ。それくらい慌てて、それくらい嬉しいのだろう。


 ……ずっと助けたいと思っていた相手と、やっと繋がる事ができたのだから。


「本当に大丈夫なの? 怪我してないの?」

〔織田……さん?〕


 よかった。俺にはこの声が零士・ベルンハルトのものかはわからないけど、二人の反応からして間違いなさそうだ。


 とにかく俺たちは繋がった。5000マイルを超えた。


 ――ここからだ、彼を助けられるかどうかは。

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