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ファントム・シェイド ~5000マイルの絆~  作者: 幸運な黒猫
第三章:汚れる覚悟(中東)

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第27話・戦う理由

 戦闘が終わった後も、クイーンは容赦なく虐殺し続けた。戦えなくなった者も逃げ出す者も関係なく、だ。


 ……なにが彼女を突き動かしているのだろうか? 


 だが原因がなにかは別として、あんな戦い方は止めさせるべきだろう。そもそも日本なら高校生だ。そんな年端も行かない少女が戦場に出てくるなんて間違っている。


()()()()()()()()()()()()()、あんな事はしちゃ駄目だと思う」


「——ああ? 理由がどうしたって?」


 その瞬間、ブチ切れたのはリーダーだった。ジャックの制止も聞かず、オレの胸倉をつかみ、捻り上げた。


「知った風な口をきくんじゃねぇぞ。ぬるい生き方しかしていないお前になにがわかんだよ」

「は? ぬるくて悪いのかよ。人を殺して飯食ってるヤツらよりはずっといい」


 リーダーの拳が飛んできた。ガツンッと頬に重い一撃が叩き込まれ、視界が一瞬、青白く染まる。


「もっぺん言ってみろ!」


 鼻の奥がツンとして、目の前の男の理不尽さにプツリと切れた。


「何度でも言ってやるよ! 殺した金で食う飯は美味いか?」


 オレは首元を締め上げている腕に噛みつき、リーダーのみぞおちに全力のひざ蹴りを叩き込んだ。ケンカなんてした事はないけど、殴られっぱなしは気分が悪い。


()っ! てめ、噛むのは反則だろが!」

「は? ぬるい事言ってんなよ、センスねぇな!」


 リーダーが苦悶の表情を浮かべながらも、即座に反撃。オレの顔面に拳が直撃し、唇が切れた。


「世間知らずのガキがふざけてんじゃねぇ。人の恨みがそんな簡単に晴れるかってんだ」

「理由があれば人殺しが正当化されると思ってんのかよ!」


 設計技師と傭兵のリーダー。毎日座りっぱなしの男と、鍛えている男。はなから勝負になるはずもなく、オレは殴り倒され、床に叩きつけられた。


「お互いに恨みをぶつけ合っていたら、永遠に終わらないだろ」

「アホかクソガキ。んなもん、敵を根絶やしにすりゃいいんだろが」


 リーダーはオレを見下ろしながら、親指を立てて、首をかき切るジェスチャーをした。舌を出して殺される人の真似をしているのだろう、完全に馬鹿にしている。


「それにな、俺たちは傭兵だ。戦争がなきゃ食っていけねぇ。わかったか、タコ」

「その存在自体が歪んでるって言ってんだろ!」


 甘く見られている。それはリーダーの態度からもわかる。だけど、そこにスキがあった。


 ――息を吸い、止めて、一気に蹴り上げる。


 ゴリッ……


「は、あぅ……が……ぅ……」


 リーダーの顔が一瞬で青ざめ、声にならない呻きが漏れた。ただ苦しそうに体を丸める。蹴り上げた足のつま先が、股間にめり込んだからだ。


 転がり、悶絶する。そして十数秒後……


 そこから本格的な殴り合いになった。オレはリーダーの足を払って蹴りを入れ、リーダーが即座に蹴り返してくる。拳を振り回し、互いに殴り合い、殴り返し。息もつかせぬ乱打戦が続いた。


「はっ……はぁ、てめ、クソガキ……」

「そんなんで、げほっ……よく傭兵なんてやっていられるな……おっさん」

「はあ? 大して変わらんだろ……くそが……」


 床の上に倒れ込んだオレを、リーダーが見下ろす。息が上がり、辛うじて立っている状態だったが、それでも膝をつかないのは彼の意地だろうか。



「——さて、そろそろマジで怒りますよ」



 タイミングを見計らったジャックが、静かに口を開く。


「でもね、No.10」

「……藤堂だ」

「じゃ、藤堂。君の主張ってさ、恨みや悲しみ、悔しさを我慢しろって言っているのと同じだよね?」

「でも、そうしないと連鎖はいつまでも続いてしまう。どこかで切らないと……」

「じゃあさ、それはクイーンに恨み晴らさせてから、相手に我慢するように言ってきてよ。どちらかが我慢すれば終わるってのはわかる。でもね、少なくとも僕は、僕たちは、仲間に我慢を強いるような真似はしないよ」

「でも、それじゃ……」

「――そう、なにも変わらないよ」


 だけど、なぜかオレにはジャックの言い分が心地よく聞こえてしまった。見ず知らずの敵よりも、家族や仲間を大事にするのは当たり前だ。


 オレだって穂乃花(ほのか)を護るために戦場に出て、挙句の果てに傭兵部隊に入ったのだから。


 ……結局、どちらが正しいかではなく、どちらも正しいのだろう。立ち位置が違うというだけの話でしかない。


「だけど、クイーンはまだ子供じゃないか」

「彼女は元々この辺りの出身なんだけどね。この国の戒律は女性に戦闘行為を禁止しているんだよ」

「それが?」

「つまりね……」

 

「——ったく、察しの悪いヤツだな」


 またもや話に割って入るリーダー。常に見下した話し方をしてくるところを見ると、オレは相当嫌われているらしい。


「戒律を破って女を戦わせたら、たとえハリファといえども吊るし上げられる。それくらい重いんだよ、この国の信仰ってのは。だからアイツは国の外に出て、傭兵として戦ってんだ。ちったぁてめぇの頭で考えろや!」

「つまり、雇われ傭兵扱いなら“国民が生まれながらに享受している信仰に従う必要がない”って事?」

「なんだ、わかってんじゃねぇか」


 ……まるで子供だましだ。意味のない信仰。


「そんな程度の理由づけで戒律を回避できるなら、信仰なんて必要ないだろ。そうまでして戦う理由がどこにあるんだよ」

「はっ、お前の頭の中は温いとかのレベルじゃねぇな。いいか、ここバジャル・サイーアの国民は、みんな奴隷以下の扱いだ。人間扱いされるのは上級国民様だけだぜ」

 

 彼らが反政府組織を名乗っているのは、奴隷扱いへの抵抗が根底にあるからか。圧政からの解放を目指す。道を間違えなければ国際世論を味方につけられたはずなのに……


「でも、奴隷なんて国際的に認められるはずがない」

「は? そもそも他国に対して、強制力のある内政干渉ができる国なんてどこにあんだよ」

「それでも、国連人権理事会とかから働きかけてもらう事とかできるはずだ。時間はかかるかもしれないけど、少しずつでも改善していけば……」

「——はあ? 少しずつだと?」


 言葉を被せ、睨みつけてくるリーダー。


()()()()()()()()()()()()()()()!」

「——っ」


 ……だから武装蜂起するしかなかった、と。


 広い視野で見れば、根本から解決していくのが多くの人を救う事になるのは確かだ。だけどその多くに含まれない人、今、目の前に危機が迫っている人からしてみれば、時間をかけて解決するなんて言っていられない。


「戦う力があるヤツはまだまし。それがなきゃ蹂躙されて死ぬだけだ。ちったぁ、てめぇの頭で考えやがれ!」


 テロ行為は許せない。その考えは間違っていないと思う。だけど、自分の命を守るために狭い選択をしたとしても、それを咎める事は、誰にもできない。


 今まで、こんな世界があるなんて考えた事もなかった。こんなんじゃ、甘いとか温いとかいわれても仕方ないのかもしれない。


「それに、クイーンが戦う理由つったよな?」

「リーダーそれはダメだって……」


 慌てて制止に入るジャック。静観を決め込んでいたが、よほど口にするのはまずいのだろう。それでもヒートアップしているリーダーは止まらなかった。


「酔ったクソ兵士どもが家に押し込んできてよ。両親の目の前で姉ちゃん共々犯されたんだ」

「――っ!」


 リーダーは怒鳴りながら、足元にあったゴミ箱を蹴飛ばした。勢いがついたそれは壁にぶつかり、中身を一面にぶちまける。


 ゴロゴロと中身のない音だけが、虚しく部屋に響いた。


「そんときゃまだよ、あいつは十歳になったばかりだぜ? 挙句の果てに家族は全員殺されちまって……それでも許せっていうのか、てめぇは!

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