第28話・なんでだよ……
「待て待て、アスマ待ってくれって!」
リーダーの慌てる声が部屋中に響く。こればかりは誰が見ても『仕方がない』と言うだろう。
「兄貴……なんで勝手にしゃべるの?」
「いや、勝手とかじゃなくてな、なんつーか、その、勢いというか?」
あの時、リーダーがゴミ箱を蹴り飛ばした瞬間、丁度部屋の扉があいた。
そこには真顔のクイーン。怒鳴り声にビクッと反応し、動きが止まった。しかしオレに気づくと慌てて目を背け――リーダーを蹴り飛ばして踏みつけた。
あんな過去は他人に知られたくないのは当たり前だ。ましてや、勝手に暴露されたのなら頭にくるのは当然の話。
ただ、そのおかげでクイーンの本名が“アスマ”だと知る事ができたが……多分それも、彼女からしたら不本意なのかもしれない。
「あ、ほら、そこのNo.10によ、傭兵の在り方をだな……」
「リーダー。藤堂のせいにするのは男らしくないですよ」
ジャックはクイーンの味方についた。『いつもの事だけど……』とでも言いたげな表情で、リーダーにジト目を向けている。
「兄貴って呼んでいたけど、あの二人って兄妹だったのか」
「でも、血は繋がってないよ」
「え?」
「リーダーの婚約者が、クイーンのお姉さんだったんだ」
「それって、まさか――」
「うん。君が想像している通り」
リーダーはリーダーで、最悪な過去を引きずっていたのか。婚約者を嬲り殺され、その妹を連れての復讐。
「だからさ、僕もリーダーと同じ考えだよ」
そう言うとジャックは、オレの目を見ながらゆっくりと言葉を続けた。
「考え方は人それぞれ。だけど、クイーンの過去を知ってもなお『我慢しろ』なんて言うヤツがいたら……その方が人としておかしいと思うよ、僕は」
喉が詰まったように言葉を失った。このひと言は、オレに向けての牽制なのか、それとも当てつけなのか。『これでもまださっきの言葉を口にできるのか?』と。
反論は受けつけない、強い意志が込められた言葉で、オレだけでなくその場にいたリーダーもクイーンも口を開く事ができなかった。
「むしろね、バジャル・サイーア共和国の方が戒律を守る気が無いんだ。その兵士にしたって、裁判どころか口頭注意だけで無罪放免されているんだよ」
ここが日本なら、SNSに投稿すれば半日とかからずにその犯人がわかるかもしれない。しかし内戦ばかりのこの国では、そんな便利なツールが普及しているはずもなく、ましてや、国に保護された相手を特定するのは困難を極める。
だからクイーンは、共和国の兵士を片っ端から殺していけば、『いつかは敵討ちができる』と思っているのかもしれない。
「藤堂。君は、今話した事のどれかひとつでも体験した事がある? 彼女たちがどれだけ悔しくて悲しいかわかってる?」
ジャックの瞳には光も闇もなく、ただ、虚無だった。
今迄の生活の中にあった考えなんて、この国では理想にすら成り得ない”お花畑理論“だと言われている気がした。
♢
——二日後
あれ以来、ジャックのひと言が、オレの心をズルズルと重く引きずり続けている。
知らないでは済まされない現実が、ここにある。
どうすればいいかなんて、考える時間すらも与えて貰えない戦場。
オレは、ぐちゃぐちゃの頭を整理する為にHuVer-WKのコクピットに入り込んだ。昼間でも薄暗い倉庫内は、一人になるのに丁度いい。
――ザザザ
丁度そのタイミングで通信が入ってきた。今は誰とも話したくないのに……しかし、レシーバーを手に取り、頭に乗せようとした時に初めて気がついた。
「あれ?」
通信機の電源が入っていない。勝手にシートに括りつけられた、テロ組織の通信機。今確かにノイズ音が聞こえたのに……
――ザザザ
しかしこれは、間違いなくコクピット内で発生している雑音だ。頭上から足元まで見渡してみたけど、原因がまったくわからない。
……むしろ設計したオレがわからないノイズってなんなのだろう?
「ん? ……なんだこれ?」
いつの間にか、メインモニターの左下に見た事のない表示が点滅していた。青い文字で[SSS]とある。
――ザザザ
――ザザザ
――ザッ
〔……え、あれ? ……ザザ……これ、繋がった?〕
声が聞こえてきた……って、日本語!?
〔お~い、もしも~し〕
というかこの能天気なこの声って……
「……も、もしもし?」
〔お、繋がってんじゃん。零士か? 零士だよな?〕
マジか。なんでかわからないけど、なんでだよ……これってなんだよ。
喜びと懐かしさがこみ上げる。あれだけウザかった声が物凄く嬉しい。
「この声、先輩……っすよね?」
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