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ファントム・シェイド ~5000マイルの絆~  作者: 幸運な黒猫
第三章:汚れる覚悟(中東)

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第28話・なんでだよ……

「待て待て、アスマ待ってくれって!」


 リーダーの慌てる声が部屋中に響く。こればかりは誰が見ても『仕方がない』と言うだろう。

 

「兄貴……なんで勝手にしゃべるの?」

「いや、勝手とかじゃなくてな、なんつーか、その、勢いというか?」


 あの時、リーダーがゴミ箱を蹴り飛ばした瞬間、丁度部屋の扉があいた。


 そこには真顔のクイーン。怒鳴り声にビクッと反応し、動きが止まった。しかしオレに気づくと慌てて目を背け――リーダーを蹴り飛ばして踏みつけた。


 あんな過去は他人に知られたくないのは当たり前だ。ましてや、勝手に暴露されたのなら頭にくるのは当然の話。


 ただ、そのおかげでクイーンの本名が“アスマ”だと知る事ができたが……多分それも、彼女からしたら不本意なのかもしれない。


「あ、ほら、そこのNo.10によ、傭兵の在り方をだな……」

「リーダー。藤堂のせいにするのは男らしくないですよ」


 ジャックはクイーンの味方についた。『いつもの事だけど……』とでも言いたげな表情で、リーダーにジト目を向けている。


「兄貴って呼んでいたけど、あの二人って兄妹だったのか」

「でも、血は繋がってないよ」

「え?」

「リーダーの婚約者が、クイーンのお姉さんだったんだ」

「それって、まさか――」 

「うん。君が想像している通り」


 リーダーはリーダーで、最悪な過去を引きずっていたのか。婚約者を嬲り殺され、その妹を連れての復讐。


「だからさ、僕もリーダーと同じ考えだよ」


 そう言うとジャックは、オレの目を見ながらゆっくりと言葉を続けた。


「考え方は人それぞれ。だけど、クイーンの過去を知ってもなお『我慢しろ』なんて言うヤツがいたら……その方が人としておかしいと思うよ、僕は」


 喉が詰まったように言葉を失った。このひと言は、オレに向けての牽制なのか、それとも当てつけなのか。『これでもまださっきの言葉を口にできるのか?』と。


 反論は受けつけない、強い意志が込められた言葉で、オレだけでなくその場にいたリーダーもクイーンも口を開く事ができなかった。


「むしろね、バジャル・サイーア共和国の方が戒律を守る気が無いんだ。その兵士にしたって、裁判どころか口頭注意だけで無罪放免されているんだよ」


 ここが日本なら、SNSに投稿すれば半日とかからずにその犯人がわかるかもしれない。しかし内戦ばかりのこの国では、そんな便利なツールが普及しているはずもなく、ましてや、国に保護された相手を特定するのは困難を極める。


 だからクイーンは、共和国の兵士を片っ端から殺していけば、『いつかは(かたき)討ちができる』と思っているのかもしれない。


「藤堂。君は、今話した事のどれかひとつでも体験した事がある? 彼女たちがどれだけ悔しくて悲しいかわかってる?」


 ジャックの瞳には光も闇もなく、ただ、虚無だった。


 今迄の生活の中にあった考えなんて、この国では理想にすら成り得ない”お花畑理論“だと言われている気がした。





 ——二日後



 あれ以来、ジャックのひと言が、オレの心をズルズルと重く引きずり続けている。


 知らないでは済まされない現実が、ここにある。

 どうすればいいかなんて、考える時間すらも与えて貰えない戦場。


 オレは、ぐちゃぐちゃの頭を整理する為にHuVer-WK(ホーバーク)のコクピットに入り込んだ。昼間でも薄暗い倉庫内は、一人になるのに丁度いい。



 ――ザザザ



 丁度そのタイミングで通信が入ってきた。今は誰とも話したくないのに……しかし、レシーバーを手に取り、頭に乗せようとした時に初めて気がついた。


「あれ?」 


 通信機の電源が入っていない。勝手にシートに括りつけられた、テロ組織の通信機。今確かにノイズ音が聞こえたのに……



 ――ザザザ



 しかしこれは、間違いなくコクピット内で発生している雑音だ。頭上から足元まで見渡してみたけど、原因がまったくわからない。


 ……むしろ設計したオレがわからないノイズってなんなのだろう?


「ん? ……なんだこれ?」


 いつの間にか、メインモニターの左下に見た事のない表示が点滅していた。青い文字で[SSS]とある。


 ――ザザザ


 ――ザザザ


 ――ザッ


〔……え、あれ? ……ザザ……これ、繋がった?〕


 声が聞こえてきた……って、日本語!? 


〔お~い、もしも~し〕


 というかこの能天気なこの声って……


「……も、もしもし?」

〔お、繋がってんじゃん。零士か? 零士だよな?〕


 マジか。なんでかわからないけど、なんでだよ……これってなんだよ。


 喜びと懐かしさがこみ上げる。あれだけウザかった声が物凄く嬉しい。


「この声、先輩……っすよね?」


ご覧いただきありがとうございます。


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