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ファントム・シェイド ~5000マイルの絆~  作者: 幸運な黒猫
第三章:汚れる覚悟(中東)

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第25話・啄木鳥

 あのあと、政府軍は波が引くように退却していった。後方部隊が半壊した事により、戦闘継続が困難だと判断したようだ。


 さすがの傭兵たちも、それ以上追う事はしなかった。少しは人間らしいところもあるのかと思ったが、単にリスクとリターンの問題だったらしい。


 しかしそんな中、ただ一人だけ攻撃を加え続ける傭兵がいた。

 

 ――クイーンだ。


 退却する政府軍に向かって、尚も執拗に射撃を続ける。動きの鈍ったHuVer(フーバー)を破壊し、歩兵を載せたトラックを粉砕――虐殺し続けた。


 レシーバーからは『死ね、死ね!』と悲痛な声。


 オレは、HuVer-WK(ホーバーク)で彼女の射線上に飛び出した。彼女の叫びを聞いているのが辛かったからだ。


 腕をクロスしてコクピットを守りながら、防御力の高さだけでひたすら耐えた。それでも腕が弾かれそうになったり威力に押されたりと、恐ろしく高威力の攻撃だった。


「もうやめろ!」


 だけど声は全く届かない。リーダーやジャックの制止までも聞こえていないようだ。クイーンはオレを撃ち続け、弾切れになってもトリガーを引いていた。


 HuVer-WK(ホーバーク)は傷だらけになっていたが、破壊された箇所は一つもなく、これが堅牢さの証明ならば申し分ない結果といえる。


 ……本来アピールしたい相手は、軍やテロ組織に対してではないのだが。





 精神も身体もボロボロの状態で拠点に戻ると、再び牢屋に叩き込まれた。明日の朝、軍法会議にかけられるそうだ。オレが作戦を妨害した事は、さすがに言い逃れができないだろう。


 ……あの時の行動が間違っていると思わない。しかし感情に任せて動いたのは、結果として藤堂穂乃花(ほのか)の命をも危険にさらす事になってしまった。


「大丈夫……ですか?」

「あ、ああ……」

「……」


 同じ日本人だからだろうか? 彼女の顔を見た瞬間、張り詰めていたものがプツリと切れた感じがした。


 その途端、HuVerから吹き出る血が、そして踏み潰された兵士の肉塊が、脳内にフラッシュバックしてきた。


 ——鼻の奥に、血の臭いが残っている気がした。


 オレは吐き気を感じ、あわてて牢屋の四方へ視線を走らせる。”女性の目の前で吐くなんて醜態は晒せない“という、彼女に対する意地とプライドだけで、必死に離れた。


 ——直後、オレは廊下に向けて盛大にぶちまけた。


「うわっ、汚ねぇな」

「おいジャップ、てめぇのゲロで牢屋が腐るじゃねぇか!」


 隣の囚人と看守までもが一体となって、僅かな語彙力で殴ってきた。それでも英語やアラビア語だったのが救いだ。少なくとも藤堂穂乃花に伝わらなければいい。


「みなさん、酷い事いいますね」


 といって、水の入ったコップを用意してくれた。こんな臭う一角まで持ってきてくれるなんて、本当に申し訳ない。


「って、あれ? 英語わからないんじゃ?」

「ええ、ですが……」


 彼女はいいにくそうに目が泳ぎ、ひきつった笑いを見せる。


「さすがに、F●ck youくらいは……」

「ああ……そうだね」


 映画とかで普通に出てくる単語なら、スラングでも理解できて当然かもしれない。


 ……それにしても、気の利いた言葉ひとつ返せないのが妙に悔しい。


「それに、ですね……」


 彼女は鉄格子の方を指さした。振り返るとそこには、隣の房のヤツが目一杯手を伸ばして中指を立てていた。オレは考える間もなく水を口に含み、その性格の悪い中指にリバースの残りを吐き出してやった。


「ふざけんな、バカ野郎が……」

「あの……大変、でしたよね」


 藤堂穂乃花は、そんなオレの肩にそっと頭を乗せ、静かに語りかけて来た。


「私が捕まっているせいもあるのでしょう?」

「いや、そんな事は……」


 そこまで言いかけて言葉が出なくなった。気づけば涙があふれ、嗚咽が漏れそうになるのを我慢していた。





 翌朝、オレはハリファの前に引きずり出された。この男は、相変わらず机に足を乗せてふんぞり返っている。言及してくるでもなく、ただただ黙ったまま本を読んでいた。


 数分待たされ、本をコトリと机の上に置いたハリファが、やっと口を開いた。


「藤堂。シンゲンは知っているか?」

「武田信玄の事か?」


 それならば、日本人なら最低でも名前くらいは知っている戦国武将だ。


「彼の戦術にwood pecker Attackというのがあるのは知っているか?」

「……?」 

「敵の主力が囮につられて飛び出た所に、後ろから攻撃を仕掛ける作戦だ」


 ――直後ハリファの雰囲気が変わり、鋭い眼光をオレに向けた。


「そして……お前がブチ壊した作戦でもある」


 かなりの怒りを買っているのが、その表情からわかる。敵を殲滅できたはずが、破壊したのは数機だけ。


 ……このままなにも言わないでいると、無条件に処刑になりかねない。なんとか挽回する方法はないかと脳味噌がフル回転している時だ、傭兵部隊のリーダーから驚きのひと言が飛び出た。


「ハリファ。こいつは、傭兵部隊(うち)で貰うぜ」


※「啄木鳥戦法」は、武田信玄公の軍師:山本勘助が考案したと言われています。敵軍を挑発しておびき寄せ気を取られている間に、背後から攻撃を仕掛ける戦法。

啄木鳥が木の穴にいる虫を捕らえるために、反対側を突いて穴から追い出す習性をヒントにしたそうです。

ちなみにwoodpecker Attackという名称は本作の造語なので、実際海外でどのように呼ばれているかは不明です。


余談ですが……山梨県民は武田信玄を『信玄公』と呼びます(´艸`*)

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