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ファントム・シェイド ~5000マイルの絆~  作者: 幸運な黒猫
第三章:汚れる覚悟(中東)

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第24話・偏見

 最初に飛び出したのは、左肩にAと書いてあるリーダーの機体だった。


 彼は小型のライフルを持って、走りながら撃ち始めた。もちろん、照準が定まっていないのだから当たるはずもなく、ただただ、注目を集めるのが作戦らしい。


 リーダーの機体にはオレを含めて四機が追従。ターバンの少女の機体だけが拠点に残り、ロングライフルでバックアップを担当していた。


※戦場見取り図①→https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/3631447/


 敵右翼側のHuVer(フーバー)隊がこちらに気がつき、一機また一機と迎撃のために向きを変え始める。


 一番手前にいた政府軍の機体がこちらを向いたその瞬間、突然胸部に大穴が空き、ゆっくりと崩れ落ちる。


 ——拠点に残った狙撃担当、肩にQのマークがある、漆黒のHuVerによる一撃だ。


〔ナイスだ、クイーン〕


 軍用HuVerのフロント部分は、戦車などと同じように細いスリット状の覗き窓がある。当然の事ながら、他の装甲部分とは比較にならないくらい(もろ)い、最大の弱点だ。


 クイーンはその一点を狙い、のぞき窓をこじ開けて内部を破壊していた。


 その時、ほんの一瞬だが、飛び散る装甲やガラス片に混じって、吹き出る血が見えた。弾丸は直接HVオペレーターに命中し、破裂させたのだろう。あまりの凄惨さにオレが目を背けたその瞬間、レシーバーから『よしっ』と声が漏れて聞こえた。


 クイーンと呼ばれるターバンの少女は、HV用のデカいライフルで人間を粉砕しておきながら、まるでゲームのハイスコアを更新したような声を出していた。


 これは戦争なのだとわかっている。殺らなければ殺られるだけだという事も。でも、人殺しを喜ぶように発した声を聞いた瞬間、オレは敵よりも、味方の部隊に憎悪感を持ってしまった。


 敵部隊の右後方をあらかた破壊したころ、リーダーから指示が飛んできた。


〔このまま真っ直ぐ突っ切んぞ! ジョーカー、No.10、遅れるなよ〕

〔あ〜い〕


 幼い声のジョーカーは、リーダーやクイーンが撃ちもらした敵を潰す役割のようだ。


 いくら戦力差があったとしても、サイドアタックやバックアタックを許したら部隊が崩壊してしまう。それは、過去から続く戦争の歴史が証明していた。


「ジャック、キング、任せるぞ!」


 敵部隊を右から突っ切って中央に到達すると、リーダー機の後ろにいた二機が方向を変えて動き出した。


 安心感のある声のジャックと、野太い声のキング。彼らの機体は近接戦闘特化型らしく、それぞれ剣盾と両手持ちの大剣を持っていた。


 どうやら、最前線に飛び出している政府軍の精鋭部隊に、二機だけでバックアタックを仕掛けるらしい。


 精鋭部隊は眼前のテロリストを殺戮するのに忙しく、傭兵たちが後方を半壊させている事に気がついていない。そして敵後方部隊は、中央まで一気に踏み込んできたオレたちの対応に回るしかない。


 歩兵はすでに散り散りになり、もうこの時点で勝ちは確定したようなものだった。


※戦場見取り図②→https://syosetu.com/userblogmanage/view/blogkey/3631448/


 ここまでやれば十分だ、政府軍もドゥラ軍もすでに多くの兵士が死んでいる。怪我を負った者を必死で引っ張りながら逃げる兵士も見えた。もう戦意はないだろう、あとは降伏を呼びかければ戦闘は終わる。


 ――しかし、そう思っていたのはオレだけだったらしい。


 偏見かもしれないが……いや、偏見でいい。傭兵なんて人種は最低の生き物だ。金を貰って、喜んで人を殺している。『人間として真っ当な生き方じゃない』そんなオレの考えを証明するかのように、彼らは戦闘行為を止めず尚も執拗に銃弾をバラ撒き始めた。


 それはHuVerに対してだけでなく、巨大な銃口がトラックや歩兵にも向けられた。


 もしかしたら、周囲の敵を確認している時に、たまたま銃口が人の方に向いただけなのかもしれない。それでもオレの目には『虐殺が始まる』としか映らず……気がつけばオレは、彼ら傭兵部隊に攻撃を仕掛けていた。


 ライフルの銃口を持ってハンマーのごとく振り回し、リーダー機が持つ武器を叩き落とした。


〔なにしてんだてめぇ!〕


 リーダーが“がなり声”で吠える。オレはそのままジョーカーに体当たりをして転倒させると、彼が持っていた小型銃を奪い取った。


 そしてそれを――クイーンに向かって投げつける。あの『手を引いてくれた』少女に……。


 もちろん相当な距離はあるし、適当にぶん投げただけの銃が当たるハズもなかった。だが、彼女に向かって物を投げるという行動は、明確に相手を否定するという意思表示になる。


 そしてオレはライフルを持ち直し、構えた。最前線にいる政府軍と傭兵の機体に向けて、だ。


〔——キング、ジャック避けろ!〕


 リーダーの声が響くと同時にオレは初めて引き金を引き、はじめて人に向けて発砲していた。


〔おい、なにやってんだ!!〕

〔何事ですか!?〕


 目標は、いまだに殺戮行動が止まらない政府軍の精鋭部隊。


 キングとジャックがあと少しでバックアタックを仕掛けるというタイミングで、オレの撃った弾が政府軍のHuVerに当った。


 弾が当たったのは装甲部分、ダメージは皆無に等しい。だが、だからこそオレにとってはベストな状況になった。敵にバックアタックを教える事が目的なのだから。


〔リーダー、アホな事すんなよ〕


 案の定、数発の弾を喰らった政府軍の機体は、後ろから突進してきている二機の傭兵に気がついた。すぐさま向きを変え攻撃を防ぐと、事態に気がついた他のHuVerも、次々に向き直り始める。


〔知るか、俺じゃねぇよ。……引け、撤退すんぞ〕

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