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ファントム・シェイド ~5000マイルの絆~  作者: 幸運な黒猫
第三章:汚れる覚悟(中東)

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第20話・愚答

※この話にはR15レベルの銃暴発・死亡描写が含まれます。苦手な方は♦~♦までスキップしてください。話は繋がるように構成してあります。閲覧注意。

 すでに戦闘が始まっているのか、それとも単に攻撃を受けているだけなのか。いずれにしても、遠くから、そしてすぐ近くからも爆発の音が聞こえてくる。


 放り込まれていた牢屋がある建物から大体五分くらい離れた場所に、HuVer(フーバー)をメンテナンスするための倉庫があった。


 居住区と切り離してあるのは、攻撃を受けやすい施設だかららしい。


 倉庫に入ると、ハリファがオレの白騎士を見上げていた。この男は『出撃しろ』とか『動かせ』なんて俗な言い方はしない。


「戦わなければここにいる価値はない。妹の安全もお前次第だ、藤堂」


 ……恐怖を煽る汚い言葉で


「俺はイエローなんざ興味はないが、ここには飢えてるヤツらが大勢いるからな」


 ……ただただ、低俗な脅しをかけるだけ。


 ハリファはそれだけ言い残し、さっさと倉庫を出て行く。『反論は聞かない』それが彼の意思表示だ。


 人を殺すなんてありえない。だが、やらなければ自分が死ぬ。藤堂穂乃花は慰みものにされ、最後には殺されてしまう。……だからといって、そんな簡単に割り切って人を殺せるほど、オレは冷徹じゃない。


 どうすればよいのかわからず……迷ったまま、それでもコクピットに乗り込み、起動シークエンスに入った。


 オレの頭の中は“どちらを選んでも地獄しかない選択肢”で一杯だった。


 ――だから、この時のHuVer-WK(ホーバーク)の参戦映像が日本政府に送られるなんて思わなかったし、それによって、藤堂堅治がテロリスト認定されてしまうなんて、想像すらできなかった。


 電装系のチェックをしていると、機体の横にある銃が目に入ってきた。軍用HuVer専用のアサルトライフルだ。全長は約3メートル、形状は人間が使う物とほぼ変わらない。


 銃口の下にはまた別の筒がついていて、見るからに殺傷力が高そうな兵器だ。


「こんなもの……なんで存在するんだよ……」





 ドイツに住んでいた、四歳か五歳のころの話。


 それまでは多分に()れず、友達と銃のおもちゃを持って戦争ゴッコをしたりする普通の子供だった。


 ある日、いつもの公園で遊んでいた時。友達の一人が『秘密だぞ』と言ってシャツを捲り上げ、腹から本物の銃をとり出して自慢し始めた。


 そいつは、親がトイレに立った隙に銃を持ち出したらしい。


 ふざけて、怖がる女の子たちを追い回しはじめる。みんな『危ない』という気持ちはあったものの、初めて見る実銃に興奮してはしゃいでいた。もちろん、オレもだ。


 ——しかし次の瞬間、パンッと乾いた音で、世界が一瞬止まった。


 響きわたったのは銃が暴発した音。その直後、オレの目の前にいた女の子の頭をヒュンッという音が撃ち抜いていた。


 そのあとの事はよく覚えていない。記憶しているのは警察や親、近所の人で公園がいっぱいになってうるさかった事だけだ。


 女の子の頭に銃弾が食い込んで行く瞬間がいつまでたっても頭から離れない。血が噴き出し、力なく倒れる瞬間がスローモーションでひたすら再生されてしまう。部屋から出る事ができずにずっと怯え、引き籠ってしまった。


 両親はそんなオレを連れて、日本への移住した。銃の無い社会で生活させたい、と。そのおかげもあって、やっとトラウマから解放されたのに……。





 思い出したくもない過去に脳が強襲されて、少しの間意識がここになかった。いつのまにか電装系の起動が全て終わり、あとは本体のエンジンを始動させるだけになっていた。


「なんで……こうなるんだよ」


 一般的な車と同じように、挿したキーを回すだけだ。しかし、それが今は重い。重くて回せない。


 手が震え、これが恐怖なのかすらわからない感情が、身体中を駆け巡った。エンジンをかけたら後戻りはできない。そんな予感じみたものもあったのだと思う。


 進んでも地獄、引いても地獄。正しい選択がわからない。


 それでも、間違った選択ならわかっている。それは、オレも藤堂穂乃花も座して死を待つという愚答だ。彼女の震える肩が浮かぶ。……見捨てられない。絶対に。


 ――動かせ。銃をとれ。最初から選択肢なんてない。


 ――なんのため? わかっている、生きるためだ。


 オレは、自分の心にそう言い聞かせて、キーを回した。



※ イエロー:黄色人種に対する蔑称(場合によっては差別的な言葉になりますが、登場人物の性格を表す為に、あえて表現しています)


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