第12話・希望
「そんな事が可能なのですか?」
零士を助ける作戦会議。望月部長は確かにそういった。しかし、肝心の零士・ベルンハルトは、ここから8000キロも離れた中東にいる。
「まあ、直接中東に行くって話じゃないけどな」
「ですがそもそもの話として、その……」
「零士が生きているのかって事だろ?」
そう、部長が口にした瞬間、織田女史は目をつむりうつむいた。彼女には悪いが、現状、零士が生きている証拠は、なにもない。
テロ組織に拉致されたという噂だけ——本当のところは、誰も知らない。
「藤堂、織田。二人とも、日本政府が藤堂堅治をテロリストと認定した理由を知っているか?」
「いえ、報道で流れた映像以外の事はなにも」
タイミングを見計らったように、横からスッとノートパソコンを差し出す美郷さん。モニターを開くとすでに起動してあった。話の流れを切らないようにと、あらかじめ準備していたのだろう。
そこには中東のバジャル・サイーア共和国政府軍と、反政府組織:ドゥラとの戦闘の模様が映し出されていた。
「これは、盗まれたHuVerが内戦で使われた映像だ」
夕刻なのだろうか、画面が暗くてハッキリとは見えないが、旧式のHuVerに混じって、一機だけ真っ白の機体が見えた。
「この動画が、日本政府に直接送られてきてな」
「それがなんでここに?」
「角橋重工は自衛隊と情報共有しているだろ? HuVer絡みの安全保障の関係上と理由づければ、政府から自衛隊に降りた情報を共有させてもらう事が可能というわけだ」
部長は軽く言っているけど、そんな重要機密が簡単に入手できるハズがない。裏ではかなり強引な手を使ったのだろう。
「普段なら民間企業として関わる事はないが……今回だけは、な」
「だから日本政府は、俺がHuVerを手土産にして、テロ組織に接触したって判断したのか」
「——でも、それだとちょっとおかしくない?」
と、疑問を投げかけたのは美郷さんだった。
「この映像だけで、どうして藤堂君がテロリストだって判断できるの?」
確かに、普通に考えれば俺と判別できる要素なんてまったくない。そこに、奪われた白い機体があるだけなのだから。
「そうか、そういう事ね」
「織田さん、なにかわかったの?」
「部長、この映像って日本政府に直接送られてきたのですよね?」
「ああ」
「マスコミ報道の内容も、その時一緒に送られてきた可能性ってないかしら?」
俺の個人情報がテロ組織から送られてきた? いくらなんでも……と思ったけど、それならば辻褄が合う――合ってしまう。
拉致されてから報道までのスピードが異常に早く、そして会社に問い合わせすることもなく社員情報が流れる。
マスコミが最初から情報を得ていた可能性も考えたが、政府に映像が送られてきているのに、俺の個人情報だけマスコミにあるのは不自然だ。
……俺の個人情報が、最初からテロリストの手にあったなんて。
「でも、考えたくはないけど、零士クン以外の人が動かしている可能性も……」
またもや下を向く織田女史。冷静に物事を捉えて判断するのも、時として考えものだ。状況から推測するに、零士・ベルンハルトがすでに死んでいる可能性を考えてしまったのだろう。
だから――
「零士・ベルンハルトは生きてますよ」
あえて断言した。俺のひと言にうなずく部長。やはり彼が生きていると確信しているようだ。
「織田さんは知らなくても仕方ないけど、あのHuVerには専属オペレーターしか動かせない生体認証システムがあるんです」
「生体認証?」
事務職の人には馴染みのない単語だろう。彼女は眉間にシワを寄せて、大人しく言葉の続きを待っていた。
「ライセンスカードと、操縦者のDNAが一致しないと動かせないセキュリティシステムです」
「ですが、他の人が登録したら動かせるのですよね?」
「それが無理なんですよ」
そう、無理なんだ。テロリストどころか世界中見渡しても、あの機体を動かせるのはほんの数名しかいない。
「DNAデータが入ったライセンスカードは特殊なんです。角橋重工でもほんの数名にしか発行していません」
これが唯一にして揺るぎない理由。そしてこの先、彼の生死を握るかもしれない希望だ。
「だから映像の場所であの白いHuVerを動かせるのは、零士・ベルンハルトしかありえないんですよ」




