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ファントム・シェイド ~5000マイルの絆~  作者: 幸運な黒猫
第二章:信条・愛情・陰謀論(日本)

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第11話・デマ

「……それで、二人がきた理由は、藤堂、お前と零士の件だろ?」

「いえいえ、仕事ですってば……」


 俺と織田女史は別々の理由を装ってるのに、部長はもうバレバレだと決めつけている。相変わらず鋭い。でも部長がスパイの可能性を完全に消せない以上、ここで本音は出せない。


 織田女史と決めた通り——全員を疑う。


 ……はずだった。


「藤堂さん、大丈夫ですよ。望月部長はスパイじゃないので」


 しかし、織田女史はあっさりと手の内を明かしてしまう。


「なんだ藤堂、俺を疑っていたのか」

「すみません……」

「いや、やるじゃないか」


 部長は嫌な顔ひとつしないばかりか、嬉しそうに俺の背中をバンバンと叩く。


 ――それにしても部長がスパイではないとどこで判断したのだろうか? 


「私、くじ運が最悪に悪いのです。こんな所で当りを引く事はありません!」


 ………………。


「……は?」 

「ちょっと真理、藤堂君が固まっているじゃない」


 子供を寝かしつけて戻ってきた美郷さんが、呆れて目じりを下げる。


「藤堂君、真理のいった『くじ運』って、真に受けないでね」

「えっと……?」

「真理ったら最初、私まで疑って警戒してたのよ。会社辞めてもう五年もたっているっていうのに」 


 話を聞くと、織田女史は今日一日、美郷さんが拉致事件に関与しているかどうかを探っていたらしい。


「仕方ないでしょ。誰が敵なのか見当つかないんだし、完全に白とわかるまで話せないからね」


 最初に美郷さんを探ったのは、信頼できる味方が欲しかったから——そして彼女から得た情報で、部長の潔白が確定したらしい。


「望月部長はね、今年いっぱいで退社するんだって。家業のペンションを継ぐためにね」

「え……そんなの、聞いてないですよ」

「春先に決まってたけど、引き継ぎできる社員がいないらしいのよ。だからまだ上の方の人しか知らないみたいよ」

「まあ、あれだけ特殊な業務だと、なかなかいないでしょうね」


 なにより望月部長は、零士・ベルンハルトを高く買っていて、将来に期待していた。だから出世の足掛かりになるドバイ行きには大賛成だったそうだ。


「それに部長は裏でコソコソするような人じゃないよ。そんな事は美郷が許さないし」

「そうだね。もしうちの人がそんな事やってたら、とっくに葵を連れて家出てるって」


 部長は俺を見ながら、ぼそっと『女は怖いぞ』と肩をすくめた。 


「真理は昔から男を見る目だけはあったからね」

「だけってなによ、だけって」

「……あれ?」 

「どうしたの?」

「男を見る目があるのに、婚約破棄っておかしくないですか?」


 リビングが一瞬にして凍る。……やばい、また思った事を口にしてしまった。


 ――しかし次の瞬間、三人が吹き出して笑い始めた。


「おい藤堂、お前まだそんな噂を信じていたのかよ」

「ほんと、アップデートしようよ、藤堂君」

「えっと……どういう事です?」

「浮気して婚約破棄ってのはね、真理にフラれた男が流したデマよ」


 ……なんだって!? 


「当時は真理にいい寄ってくる男って凄く多かったのよ。その中の一人がちょっと難アリ物件ってヤツでね。フラれたはらいせに、社内メール使って嘘をバラ撒いたのが真相」


 美郷さんの言葉を聞きながら、だまってうなずく織田女史。


「じゃあ、なんで弁解というか……訂正しないんですか?」

「一応したよ、ほとんど効果なかったけど。でも結果的に変な男が寄ってこなくなってさ。面倒事が減ったからそのままでいいかな~って」


 なるほど、ものすごく彼女らしい理由だ。そのひと言に納得していた俺に、部長が諭すように言葉を投げて来た。


「一度流れてしまった情報は、その真実がどこにあっても100%元には戻らない。それは藤堂、お前も身に染みているだろ」


 ……その通りだ。


 いつまでたっても俺がテロリストと思っている人がかなりいる。ネットではフェイク画像や動画が拡散され、死ぬまで否定し続けてもなくなる事はないだろう。


「さて。ここから本題だ」


 部長が表情を引き締める。


「零士を助ける作戦会議を——始めよう」

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