偽りの希望
偽りの
光を信じ
伸ばす手
触れた瞬間
霧にほどける
手が、震える。
身体が、言うことをきかない。
握っている刀も、かすかに揺れている。
……やるしかない。
「ごめん……あゆみ……」
俺は刀を頭上に振り上げ、全身の力を込めて――振り下ろした。一太刀。迷いのない、綺麗な一閃。苦しみを終わらせるための、斬撃。姉の首は、床へと転がった。
「――御札!」
死神狩りの女が、たった一言を放つ。瞬間、あゆみの身体に貼られた札が黒く染まり、そこから黒い液体の鎖が噴き出した。鎖は死体を絡め取るように巻き付き、締め上げるように収縮していく。やがて――それは、指二本で摘めるほどの小さな“玉”へと圧縮された。
俺は、その場に膝をついた。
「……俺は……俺は……ずっと面倒を見てくれて……いつもそばにいてくれた……大切な姉を……この手で……殺した……」
――最大の罪。今夜犯したこの悪は、決して消えない。
神でさえ、見逃してはくれないだろう。……なのに。涙が出ない。なぜだ。母親のような存在だった姉を殺したのに……。
「……俺は……何を……してしまったんだ……」
殺すくらいなら、いっそ自分が先に死ねばよかった。これは裏切りだ。姉の命を、もう一人の姉のために差し出した。……二人とも救う方法を、探すべきだった。
「……ゆうき……」
背後から、怯えた声が聞こえた。
振り向く。
――嘘だろ……?目の前に立っていたのは、かすみだった。傷ひとつない。瀕死だった痕跡すら、どこにも残っていない。
「か……かすみ……!?」
立ち上がろうとして、足がもつれる。それでも構わず、彼女のもとへ駆け寄った。
「姉ちゃん……!!」
抱きしめる。
「無事でよかった……!本当に……怖かった……もう……二度と会えないと思った……!」
あゆみを失った今、残された唯一の温もり。ほんの少しだけ、胸の痛みが和らぐ。
「ゆうき、大丈夫。私はここにいるわ。泣き虫な弟を、置いていったりしない」
……母が死んで以来、初めてだった。かすみが、俺を抱きしめ返してくれたのは。――その時。彼女が少し動いた瞬間、“金属の擦れる音”が聞こえた。
嫌な予感がして、かすみを見る。
――息が止まった。
「……かすみ……」
「なに?」
彼女の身体から、五本の鎖が伸びていた。両手から二本、両脚から二本、そして――心臓から一本。
……死者の魂に繋がる、あの鎖だ。全身の感情が、沸騰した。今、俺の中にあるのは――怒りだけ。
「……このクソ女……!!」
俺は死神狩りの女を睨みつけた。
「約束を破ったな!!卑怯者!!あゆみを殺せばかすみを助けるって言っただろ!!」
かすみが、戸惑った顔で俺を見る。
「……え?誰を殺したの?あゆみを……殺したの……?」
困惑。純粋な混乱。
「かすみ姉……今は説明してる暇はない!こいつを――先に片付ける!!」
俺は女の前に立つ。
「約束を破っただろ!!助けるって言った!生き返らせるって言っただろ!!それなら……俺は……あゆみを……殺さなかった……!!」
怒りと憎しみが、抑えきれない。彼女は、鼻で笑った。
「私は約束を破ってないわ。“癒す”と言っただけ。死体は綺麗に治ってるでしょう?」
「……は?」
「契約は、“あゆみを殺す代わりに、かすみを癒す”。“生き返らせる”なんて、一言も言ってない」
……歪んだ笑み。
「悪いのは、あなたよ。もし最初から言う通りに動いていれば、かすみは生きていた」
……俺の……せい……?
……俺の……せいだ……。
視線が、床へ落ちる。
そうだ。
俺が……迷ったから……。
二人とも救おうとして……結局、誰も救えなかった。
「……ようこそ、坂本ゆうき。ここが、あなたの世界。おとぎ話の世界じゃない」
俺は顔を上げる。
怒りは消えない。だが――これは彼女への怒りじゃない。自分自身への、腐り落ちるような怒りだ。
「……お前は何者だ……?」
「小山レイカ。陰陽師よ。そして……どういうわけか、あなたは“追加プレイヤー”」
「ふざけるな……俺の人生を……めちゃくちゃにしやがって……」
「救ってあげたのに、感謝もしないのね」
……救った?
今日の出来事は、俺にとって“死”と同じだ。生き残るくらいなら、死んだ方がマシだった。
仏は……
俺に情けをかけるべきじゃなかった。
「……死にたい?情けない考えね。神は、毎日幸せを与えてくれるわけじゃない。あなたは“選ばれた”のよ。生きなさい。楽しみなさい」
ふっと、彼女は微笑んだ。
「……何が……そんなに可笑しい……?」
冷え切った声で問いかける。
「人はね――強い負の感情を抱えたまま死ぬと……」
「……と……?」
――嫌な予感がする。彼女が笑った理由。
次の言葉が、とてつもなく嫌なものだと、本能が告げていた。
私の作品を読んでくださっている皆様、ありがとうございます。皆様に楽しんでいただければ幸いです。初めてですが!SodaKun Out!◇
昨日は章を公開できず、大変申し訳ございません。昨日はとても忙しかったので、どうかご容赦ください。




