レッスン
地と水と
火と風巡り
空に帰る
形なきもの
すべてを結ぶ
―ゆうき視点―
「……俺は、何をすればいい?」
俺は彼女に尋ねた。
真剣な質問だ。さっきから何分も下着姿のまま立たされているのに、訓練の内容を一切教えてくれない。魔法……いや、彼女の言い方だと“何か別のもの”らしいけど、とにかくそれを学ぶためのはずなのに。
「……え?」
「何か言うつもりはあるのか?」
「あ、ごめん。ちょっと見とれてた」
「見とれてた?」
彼女は指を差した。
視線の先には、一枚の大きな写真があった。そこに写っているのは、一人の女性。長い黒髪に、優しい目。どこか母性的な雰囲気を持つ、美しい人だった。
「綺麗な人ね。誰?」
レイカが聞いてくる。
「……俺の母さんだ」
「素敵なお母さんね」
「……ああ。だった」
「“だった”?」
俺は静かに頷く。
「もう、亡くなった」
「……ごめん、そんなこと聞いて」
「いや、大丈夫だ」
少しの沈黙。
「……いつ亡くなったの? どうして?」
「それは……」
言葉が止まる。出てこない。
――出てこない?
「無理に話さなくてもいいわよ」
違う。そうじゃない。
「レイカ……!」
思わず声を上げる。
「どうしたの?」
額に汗がにじむ。
「おかしいんだ」
「何が?」
彼女の表情が変わる。
「思い出せない」
「何を?」
「母さんが……どうやって死んだのか、思い出せない」
「……っ!?」
彼女が驚く。
俺の頭がぐちゃぐちゃになる。写真を見る。母さんの顔。――なのに。どうして?どうして俺は、一番大事なことを忘れてる?思い出そうとすればするほど、混乱するだけだ。
レイカが肩に手を置いた。
「無理しないで、坂本ゆうき。過去のトラウマに触れる必要はないわ」
「トラウマ……?」
彼女は頷く。
「はい。お母様の死に関する話題は、あなたの精神面に影響を及ぼしているのだと思います。それほどまでに深くお母様を愛していたがゆえに、あなたの心がその死を受け入れることができなくなってしまっているのです。だからこそ、あなたは彼女の死に関する記憶を失っているのです」
「……そうかもな」
深く息を吐く。
落ち着け。今はそれどころじゃない。
「……訓練に集中しよう」
「そうね。じゃあ、“陰陽道”の基礎から教えるわ」
「やっとか……。てっきり下着姿が訓練なのかと思ったぞ」
「ふざけないで」
冷たい視線。
俺は即座に口を閉じた。
「陰陽道を学ぶには、まず理解が必要よ。“陰陽道とは何か”」
彼女は淡々と話し始める。
「平安時代、暦、占い、天文、陰陽、そして五行に関する体系が生まれた。それが陰陽道」
「多すぎないか? それ全部やるのか?」
「当然よ。けど、あなたは初心者。まずは基本から――五行」
「五行? ナルトみたいなやつ? 火、水、風、土、雷?」
「火・水・土は合ってるわ」
「じゃあ風は?」
「違う。私が教えるのは――火、水、土、木、金」
「……中国っぽいな」
「同じ思想を共有してるのよ、バカ」
バカって言うな。
「いい? 五行には“循環”がある。それを理解しなさい。戦いにも関係してくる」
「わかった」
「まずは“相生”。生成の循環よ」
彼女は指で順番をなぞるように説明する。
「木は燃えて火を生む。火は土を生む」
「いやいや待て! 火がどうやって土になるんだよ!?」
パチンッ!
「いってぇ!!」
またかよ!
「例えよ。火は灰や溶岩を生み、それが冷えれば土になる」
「なんか無理やりじゃないか……?」
「強くなりたいなら黙って聞け」
その一言で、空気が凍る。
……はい、黙ります。
「土は金属を生み出す」
「金属は水を集め、濾過し、清める」
「まるで、金属の表面に水蒸気が凝結するように」
「その通りだ。水は木を養う」
「知ってるわ。水は花や草木の成長を促し、自然界に様々な変化をもたらすものね」
「賢いな。脳みそさえ入っていないような、ただの馬鹿だと思っていたが。まあいい、先に進もう。さて、二つ目の循環は『相克』の循環と呼ばれるものだ」
なんだその評価。
「次は“相剋”。破壊の循環よ」
彼女の説明は、そのすべてが中国のプロパガンダのように感じられる。これが哲学だというのか? もしかすると、私たちが文化や伝統を失ってしまったのは、こういうことのせいなのかもしれない。だが、強くなるためには、これを学ばなければならないのだ。これが一体どうして「修行」になるのか、私には皆目見当もつかない。どちらかと言えば、学校に通っているような気分だ。
「どこ見てるの?」
「いや、何も」
危ない、バレるところだった。
「ちゃんと聞きなさい、坂本ゆうき。今のあなた、全然集中してない」
「だってこれ理論だろ? 実践やらないと意味ないじゃん」
彼女は小さくため息をつく。
「君はまるで子供のようだ。理論なき実践は、死刑宣告に等しい。たとえば、科学を例にとってみよう。すべての科学者は、ある主題に対する自らの見解を説明するために、必ず理論を構築する。人間には、理論なしには成し得ないことが数多くあるのだ」
「彼らは、自然界において自らの目に映るものを記述しているに過ぎない。科学とは、現象を研究する学問だ。現象は自然界において生じるものであり、それゆえに我々は、それらを研究対象とするのだ」
彼女は一度目を閉じ、ゆっくり開いた。
「……あなたは“実践”に失敗してる」
「は? 何言って――」
「妹たちを守れなかった」
――ズキッ。
胸が痛む。それ以上、何も言えなかった。
私の作品を読んでくださっている皆様、ありがとうございます。皆様に楽しんでいただければ幸いです。初めてですが!SodaKun Out!◇




