正宗
ブラジルの
太陽高く
空燃えて
森と海まで
命あふれる
目を開けた瞬間、部屋の中は完全な混乱状態だった。
家具も家の中の物も、ほとんどが壊れている。壁には大きな亀裂が走り、その隙間から水が漏れ出していた。……水?いったい、どこから?だが、それ以上に驚いたのは――レイカが血を流していたことだ。俺は慌てて彼女のもとへ駆け寄った。
「どうしたんだ、レイカ!? 教えてくれ!悪霊に襲われたのか? 家はどうなったんだ!? 誰がこんなことをした!?」
「私のことは心配しなくていい。大丈夫よ」
「どう見ても大丈夫じゃないだろ!?」
彼女の手からは大量の血が流れている。床には血が広がり、彼女は明らかに重傷だった。
「だから言ったでしょ。私は平気よ、坂本ゆうき。
それより、自分の心配をしたら?」
「……は?」
「よく見てみなさい。罪の鎖から解放されたことを喜ぶべきよ。あゆみの怨霊は、もうあなたを追わない」
俺はゆっくりと体を動かしてみた。
……本当だ。もう鎖に縛られていない。後ろを振り向く。そこには怨霊の姿はなかった。
「……何が起きたんだ?」
背筋に冷たい感覚が走る。恐怖や危険の寒気じゃない。本当の冷たさだ。気のせいか?部屋が妙に寒い。さっきまで壁の亀裂から流れていた水も、いつの間にか止まっている。
俺は彼女を見た。何か聞こうとした瞬間、彼女は俺を手で制した。
「お腹すいた。何か買ってきて。できればカリーヴルストがいいわ。さっさと行きなさい。さもないと、あなたを殺して食べるわよ」
完全に脅しだった。
「は、はい、御上!!」
俺は急いで家を飛び出した。
……あの人、俺が今まで会った中で一番怖い女性かもしれない。
「居酒屋通りを通るしかないか……。まあ、日本の居酒屋でドイツ料理が見つかるとは思えないけど」
俺の家は、この辺のジムの近くだ。
歩き始める。
朝の空気を大きく吸い込んだ。
「……頭がスッキリするな」
朝の冷たい風が頬に触れる。気持ちがいい。……残念ながら、この朝を見ているのは、きっと俺だけだろうけど。
居酒屋通りを歩いていると――ふと、見慣れない店が目に入った。
「……ん?こんな店、いつできたんだ?」
昨日までは、こんな建物はなかったはずだ。三階建ての建物。
中央(には、大きな英語の筆記体で――
BRUTO
と書かれている。
「外国人がレストランを開いたのか?」
外観はかなりおしゃれで、色使いも目立つ。
「外国の店なら、入ってみるか。レイカはドイツ料理を食べたがってるし……もしかしたらカリーヴルストもあるかもしれない」
今日は運がいいかもしれない。俺は店の中へ入ることにした。ドアは自動だった。近づくと静かに開く。
店内は――妙に落ち着いた空間だった。
「……え?」
外の見た目は完全に外国のレストランだったのに――中は……完全に日本風だった。畳が床いっぱいに敷かれ、囲炉裏がこの場所に暖かさを与えている。
客はほとんどいない。奥の方で、一人の男が酒を飲んでいるくらいだ。薄暗い提灯の灯りが、店内を照らしている。歩くたびに、木の床がギシギシと音を立てた。
……タイムスリップでもしたのか?まるで別の時代に迷い込んだみたいだ。この空間の魅力から、目が離せない。
「いらっしゃいませぇぇぇ!!ここは俺の唯一のレストラン!!そして俺は世界一のシェフだぁぁ!!」
突然、大声が店内に響いた。
俺は思わず一歩下がる。
「はぁ!?」聞こえなかったのか!?俺は世界一のシェフだって言ったんだ!!」
「……誰なんだよ、あんた」
それが、彼を見た瞬間の俺の感想だった。黄色のジャージーに、大きく"9"の数字。青いショートパンツ。
そして――ワニの形の子供用スリッパ。
「誰だって? 俺か!?俺は世界一――」
「それはもう聞いた。自己紹介はそれ以外で頼む」
彼は自分を指差した。
「俺?俺は正宗!!この店のオーナーだ!!」
そう言って、彼は豪快に笑った。
……この人、大丈夫か?
「で、お前は誰だ?」
周章してきた。
「俺が誰に見える?」
彼は顎に手を当てて考え始めた。
「うーん……全然おしゃれじゃないな。たぶん……物乞い?」
「はぁ!?どこがどう見えたら物乞いなんだよ!?俺は注文しに来たんだ!」
彼は驚いた。
「おお! 客か!!サービスするぞ! 何を食べたい!?うちは世界中の料理を出してる!特にブラジル料理が最高だ!!このユニフォーム見ろ!!あのロナウド・ナザリオのサイン入りだ!!」
彼は胸のサインを見せてきた。
ロナウド?サッカー?なるほど、サッカーのユニフォームか。
「注文したい。持ち帰りで頼む。ドイツ料理のカリーヴルストはあるか?」
彼は頷いた。
「あるぞ!ちょっと待ってろ!世界一のカリーヴルストを作ってやる!!なんせドイツは昔、我らの同盟国だったからな!」
そう言うと、彼は背中を向けて奥へ歩いていった。障子を滑らせて閉める。俺は畳に座った。
すると――酒を飲んでいた男が立ち上がった。……帰るのか?
いや。こっちに来ている。
知ってる人か?胸が少しざわつく。
なぜか分からないが、妙に緊張する。男はゆっくり歩いてくる。
そして――俺の目の前で止まった。俺も立ち上がる。
「えっと……こんにちは」
……気まずい。何を言えばいいのか分からない。
しかし男は挨拶を返す代わりに――懐中に手を入れた。黒いフーディー。白いTシャツ。黒いパンツ。
そして――坊主頭の男だった。
私の作品を読んでくださっている皆様、ありがとうございます。皆様に楽しんでいただければ幸いです。初めてですが!SodaKun Out!◇




