説明
この世界
壊れそうでも
回り続け
名もなき夢を
風が運んで
「さあ、訓練を始めましょう」
彼女は俺の正面に立っている。
レイカは言っていた。特別に広い場所なんて必要ない、と。アニメを見すぎたせいで、修行は森の奥や山の頂上でやるものだと、勝手に思い込んでいたらしい。
「俺は何をすればいい? お前たちが使っている力のルールも、この世界の真実も、何も分からない」
彼女は一歩、俺に近づいた。
「まずは基礎から説明するわ。霊を視る能力——それが私たちの第六感だという話はしたわね。そして、万物には魂があるとも」
俺はうなずく。
「じゃあ、あの“魔法”みたいなのも、それに関係しているのか?」
「ええ。言ったでしょう。この宇宙に存在するものは、生きていようと無機物であろうと、すべて魂を持つ」
「なら、どうして無機物には“場”が見えない? 霊的な場は生き物に共通しているように見える。それに、霊には霊的な場がないのはなぜだ?」
レイカは少し驚いたように俺を見た。
「昨日あれだけの惨劇を目にしたのに、冷静に観察しているのね。あなたの意志力は、普通の人間とは明らかに違う」
俺は視線を落とす。
言われてみればそうだ。
まるで何もなかったかのように話している。怨霊に縛られているというのに、今は何の干渉も受けていない。
「いいわ。答えてあげる。無機物も霊的な場を放っている。ただし、周囲に比べてあまりにも微弱だから、気づきにくいだけ」
「じゃあ、意識して集中すれば見えるようになるのか?」
彼女はうなずいた。
無機物の場も、理論上は見える。
「もう一つ聞きたい。その“場”の役割は何だ? 何を示している? それに、お前はどうやって隠している? 俺にはまだ、お前の場が見えない」
レイカは誇らしげに胸を張った。
「だって私は、この世代随一の天才だから!」
軽く笑う。
……否定はできないのが腹立たしい。
彼女は俺に歩み寄り、真っ直ぐ目を見つめた。
「本当の答えは単純よ。私は訓練を積んだ陰陽師。あなたは、今はまだ何者でもない」
彼女は一歩下がる。
「私たちの周囲にある霊的な場は、魂に蓄えられた霊力の量を示しているの」
「霊力?」
「物質が原子でできているように、魂も粒子で構成されている。その粒子を“御魂”と呼ぶの」
御魂——。
神の霊や死者の魂を指す言葉のはずだ。
俺の表情を見て、レイカは続ける。
「混乱しているわね。今の日本が信じている神道は、本来の神道ではない」
「どういう意味だ?」
「今伝わっているのは“半分”だけ。飛鳥時代、仏教を受け入れた蘇我氏が、古来の神道を守っていた物部氏と争った。物部氏は敗れ、真の神道の知識は失われた。その後、仏教が根を下ろし、本来の教えは次第に忘れられていったの」
衝撃だった。
日本人が誇りにしている宗教が、不完全だというのか。
「歴史は外から壊されたわけじゃない。自分たちの選択で失われたのよ。異文化の受容は時に発展を生むけれど、同時に喪失も招いた」
「……なるほど」
「話を戻すわ。御魂は魂を構成する粒子であり、エネルギーそのもの。質量が重力場を生むように、御魂は霊的な場を生み出す」
もし質量が引力を生むなら、霊的な場はどんな力を持つ?
「霊的な場は、どんな“力”を持つんだ?」
レイカは目を閉じ、ため息をついた。再び開いた目は、呆れを含んでいる。
「馬鹿なの? 霊界は物理法則とは別の理で動いている。今は理解しやすいように、物質世界に例えているだけ」
「……ああ、そういうことか」
「御魂を“水”だと思いなさい。そして魂は“タンク”。どれだけ水を蓄えられるかが、その人の器よ。生者に霊的な場があるのは、古来の神道の修練を失い、御魂が漏れ出しているから。いわば、タンクに穴が開いている状態。その漏出こそが、霊的な場なの」
「待て、待て。さっきは魂が粒子でできていると言ったのに、今は魂が御魂を“蓄える”って話になってる。混乱する!」
彼女は深く息を吸った。
「だから言ったでしょう。物理的な概念で説明しているだけ。人間の論理は霊の論理には通用しない」
「……分かった」
「あなたに私の霊的な場が見えないのは、私が御魂を制御しているから」
「でも、前に見せたとき……俺は変な感覚になった」
「あなたの御魂が未熟か、単純に弱いか、あるいは漏出が激しすぎて消耗しているか。そのどれかよ」
……容赦がない。
「じゃあ、最初の訓練は御魂の制御か?」
レイカはうなずく。
「第一課題は、自身の御魂を掌握すること。世界はあなたを待ってくれないわ、坂本ゆうき」
私の作品を読んでくださっている皆様、ありがとうございます。皆様に楽しんでいただければ幸いです。初めてですが!SodaKun Out!◇




