↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『魔法の使えない転生者、忌地の森をひらく』  作者: 森野余白
第五章「森を少しだけ広く」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

73/118

第68話 使えるもの

第68話です。


森で見つけたものは、持ち帰っただけでは役に立ちません。


今日は、切れにくい草や白い根、沢から持ち帰ったものを一つずつ試します。

朝。


火の様子を見てから、乾かしていた草の前へ座った。


湿った場所の外側で見つけた、切れにくい草。


最初に試した時は、生のままだと滑り、乾かしすぎると脆くなった。


残しておいたものの中には、その中間くらいの状態もある。


手に取って曲げる。


「これくらいかな」


表面は乾いている。


でも、力をかけてもぱきっと折れず、中にはまだ柔らかさが残っていた。


前に一番扱いやすかったものと近い。


一本を縦に裂く。


そのままでは、繊維の間に柔らかい植物の部分が残っている。


指先でしごくように取り除くと、細長い筋が残った。


「こっちだけにした方がいいか」


前は、裂いたものをそのまま撚ろうとしていた。


太さも揃わず、途中に柔らかい部分が残っていたせいで、形が安定しにくかった。


今日は少し手間をかける。


裂く。


余分な部分を取る。


太すぎるものは、もう一度細くする。


何本か並べると、前より揃って見えた。


「これなら……」


二本を重ね、指で撚っていく。


最初はうまくいく。


少し進んだところで、一本の端が近づいた。


新しい繊維を重ねる。


そのまま撚る。


「……あ」


重ねたところが抜けた。


ほどく。


今度は、重なる部分を長くした。


もう一度撚る。


少し進む。


引っ張る。


「さっきよりはいいな」


完全ではない。


太さも途中で変わっている。


それでも、前に作ったものよりはまとまっていた。


さらに続ける。


撚りが緩む。


やり直す。


途中で一本切れる。


また足す。


「簡単にはいかないな」


横で伏せていたハクアが顔を上げる。


「見てても面白くないぞ」


白い耳が動いた。


「俺もそんなに面白くない」


言いながら、また繊維を重ねる。


今度は端を一度に揃えず、少しずつ位置をずらした。


全部が同じ場所で終わらなければ、継ぎ目も一か所に固まらない。


「こっちの方がましか?」


撚る。


進む。


引っ張る。


少し伸びるが、抜けない。


そのまま続ける。


しばらくして、一本できた。


両手を少し広げるくらいの長さ。


「……これなら紐って言ってもいいか」


綺麗ではない。


太いところもあれば、細いところもある。


表面から短い繊維も飛び出していた。


それでも、以前の短い試作品より長く、形も崩れにくい。


軽く引っ張る。


切れない。


少し強くする。


撚りが締まり、細いところが伸びる。


そこで止めた。


「これ以上は怖いな」


近くに置いてあった細い枝を数本まとめる。


作った紐を巻きつけ、結ぶ。


手を離してもほどけない。


枝を持ち上げる。


「これくらいなら大丈夫か」


少し振ってみる。


結び目は残っていた。


ただ、もっと太い木を束ねる気にはならない。


水を入れたものを吊るすのも嫌だ。


切れたら困るもの。


落としたら困るもの。


そういう使い方には、まだ信用できない。


「軽いもの用だな」


乾かす草。


細い枝。


軽い材料をまとめる。


そのくらいなら使えそうだった。


同じやり方でもう一本作る。


二本目は最初より早かった。


三本目では、途中の継ぎ目がまた抜けた。


「毎回同じにはならないか」


ほどいてやり直す。


出来上がったものを並べると、長さも太さもばらばらだった。


短いものは三十センチくらい。


長いものでも五十センチあるかどうか。


それでも数本ある。


「前よりは使えるな」


完成したものを、乾燥させている材料の束へ使ってみる。


軽くまとめるだけなら問題ない。


蔓ほど太くないので、細かなものにはむしろ巻きやすかった。


「こっちはこっちで使い道あるか」


何でも蔓で縛る必要はない。


丈夫さが必要なら蔓。


軽いものなら、この草。


少しずつ分ければいい。


作った短い紐を残し、余った草はまた乾かしておく。


その横には、細い流れから持ち帰った丸い石が置いてあった。


手に取る。


昨日見た時と変わらず、表面は滑らかだ。


「これも試すか」


乾燥させている薄い植物片の端が、風で少し浮いている。


その上へ石を置く。


重すぎず、軽すぎない。


「押さえるだけなら十分だな」


今までなら、近くにある適当な石を使っていた。


それでも困らない。


ただ、この石は丸くて引っ掛かりが少なく、置いたものを傷つけにくそうだった。


別の木片を手に取り、表面を軽く擦ってみる。


ざり。


少し削れる。


もう一度。


「研ぐってほどじゃないけど」


細かなささくれを落とすくらいなら使える。


石の刃を作るようなものではない。


でも、押さえる。


擦る。


軽く叩く。


それくらいなら使い道がありそうだった。


「持って帰った意味はあったな」


石を乾燥物の押さえへ戻す。


その日の作業は、それで終わりにはしなかった。


残っている白い根を見る。


最初に食べてから、何日か経っている。


あの時は、ごく小さな一口だけだった。


一晩待っても、特に変わったことはなかった。


その後も体に違和感はない。


「もう一回、少しだけ試すか」


前に持ち帰ったものは、乾き始めている。


新しいものの方がいい。


午後。


湿った場所へ行き、前に白い根を見つけた辺りまで歩いた。


動物が掘った跡のあった場所。


地面から葉を伸ばす植物は、まだいくつも残っている。


「全部取る必要はないな」


前に触った株とは別のものを選ぶ。


根元の土を少しだけどけると、白から淡い黄色の地下部分が見えた。


途中で切り、必要な分だけ採る。


残りは土の中に残す。


「これくらい」


前より少し多い。


それでも、一株を全部抜くほどではなかった。


帰って泥を落とし、薄く切る。


今回も生では口にしない。


火の近くへ置き、中心まで熱が入るように時間をかける。


前より少し厚い欠片もあるため、何度か裏返した。


石の先で押す。


柔らかい。


割って中を見る。


「大丈夫そうだな」


さらに少し火を通してから冷ます。


前回より量は増やす。


それでも、ほんの数切れだけだ。


一つ口へ入れる。


噛む。


「……やっぱり少し甘いな」


強い味ではない。


土のような匂いは残っているが、嫌になるほどではなかった。


火が通った中身は少し粉っぽく、噛んでいると崩れていく。


二つ目。


三つ目。


前より多い。


それでも、そこで止めた。


「今日はこれくらい」


残りを全部食べることはしない。


しばらく待つ。


水を飲み、いつもの作業を続ける。


夕方になっても変化はなく、夜になっても腹や喉に違和感は出なかった。


それより。


「……少し腹に残るな」


量は多くない。


なのに、葉や小さな実を少し食べた時より、腹に何か入った感じがする。


「これなら、少しなら食えそうだな」


そう言ってから、すぐに付け足す。


「ちゃんと火を通して、だけど」


何度か。


少量。


十分に加熱したものを食べて、今のところ異常はない。


それなら、食べ物の候補には入れてもよさそうだった。


ただ、湿った場所に大量に生えているわけでもない。


全部掘れば、すぐになくなる。


「見つけたからって、全部取る必要ないしな」


必要な時に少しだけ。


今はそれでいい。


次の日。


朝から池へ向かった。


目的は魚ではない。


水際の、粘りのある土だった。


以前から使っている場所へ行き、少しだけ採る。


「これも重いんだよな」


濡れた土を持ち上げる。


昨日まで触っていた沢の砂とは、手触りが全く違う。


拠点へ戻ると、乾かしておいた沢砂を横へ並べた。


池の土。


沢の砂。


「混ぜたらどうなるんだろうな」


以前、土を扱った時に形を作ろうとしたことはある。


でも今日は器を作るつもりはない。


試すだけだ。


池の土を三つに分ける。


一つ目は、そのまま。


二つ目には、沢砂を少しだけ。


三つ目には、それより多く混ぜる。


指で練る。


「こっちはあんまり変わらないな」


砂が少ないものは、まだ粘りが強い。


沢砂を多めにした方は、触った時のざらつきがはっきりしていた。


形を作る。


といっても、器ではない。


指二本ほどの小さな塊を、少し平たくするだけ。


三つ並べる。


「これでいいか」


同じくらいの大きさにしたつもりでも、完全には揃わない。


厚さも少し違う。


混ぜ方も、きっちり量ったわけではない。


それでも、何も比べないよりはましだった。


乾かす。


その間に、作った草の紐を使って軽い材料をまとめる。


沢の石は乾燥物の押さえにする。


白い根の残りは、他の食べ物と分けて置く。


見つけたものが、少しずつ拠点の中へ混じっていた。


翌日。


乾かしていた土の塊を見る。


「違うな」


何も混ぜていないもの。


砂を少し混ぜたもの。


多めにしたもの。


表面の感じが少しずつ違っている。


指で押す。


端を軽く曲げようとする。


一つは端が欠けた。


別のものには細いひびが入っている。


砂を多めにしたものはざらつきが強く、思ったより簡単に崩れたところもあった。


「どれがいいんだ、これ」


期待していたほど分かりやすい結果ではない。


砂を入れれば全部良くなるわけでもなさそうだ。


少ない方がいいのか。


もっと細かな砂だけを使うのか。


乾かし方の問題なのか。


そもそも、混ぜる必要がないのか。


「分からないな」


三つを並べておく。


失敗したから捨てる、というほどでもない。


次に土を触る時、比べるものにはなる。


「とりあえず、砂を混ぜると変わる。それだけか」


今はそれで十分だった。


片付けながら、残っている沢砂が目に入る。


乾いた砂は、持ち帰った時より色が明るく見えた。


指先で広げてみる。


灰色。


薄い茶色。


黒っぽい粒。


そして。


「……まだあるな」


少しだけ色の違う粒。


濡れていた時より目立たない気もする。


一つだけ取り出そうとするが、小さくて指先から逃げる。


「結局、何なんだろうな」


日に透かす。


光っているようにも。


ただ色が違うだけにも見える。


丸い石とは違う。


砂とも少し違って見える。


でも、それ以上は分からなかった。


「まあ、いいか」


砂へ戻す。


分からないものを、無理に何かだと決める必要はない。


今使えるのは、砂の方だ。


それも、何にでも使えるわけではない。


土と混ぜれば手触りや崩れ方が変わる。


そこまでは分かった。


草も同じだった。


丈夫だから何にでも使えるわけではない。


半分乾いたくらいで加工すれば、短い紐にはなる。


でも、大事なものを任せるほどではない。


白い根も。


食べられそうだから、好きなだけ採っていいわけではない。


十分に火を通し、少しだけなら今のところ問題ない。


沢の石も。


特別な道具ではない。


でも、押さえたり擦ったりするには使える。


「使えるものって、そんな感じか」


何でもできるものではなくてもいい。


一つでも使い道があれば、それで役に立つ。


俺は作った短い紐を一本持ち上げた。


少し曲がっている。


太さも揃っていない。


それでも、乾かしている細い枝の束はしっかりまとめられていた。


「これなら十分だな」


近くでハクアが伏せている。


その前には、丸い石で端を押さえた乾燥物。


少し離れた場所には、三つの土の試し片。


その向こうに、まだ残っている沢砂がある。


数日前まで、どれもここにはなかった。


「次は……」


地面に描いた線を見る。


高いところ。


湿った場所。


水が通った跡。


細い流れ。


その向こう側には、まだほとんど何も描いていない。


前に渡った根だけが印になっている。


「もう少し向こうも見てみるか」


ハクアの耳が動いた。


今度は。


流れを見つけるためではない。


砂を持ち帰るためでもない。


渡った先に、何があるのか。


少しだけ見てみたくなった。

第68話を最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


切れにくい草は、短い紐になりました。


白い根も、十分に火を通して少量なら食べられそうです。


沢の砂と丸い石にも、それぞれ小さな使い道が見えてきました。


どれも何にでも使えるものではありません。


それでも、森で見つけたものが少しずつ暮らしの中へ増えていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。