第67話 流れが残したもの
第67話です。
細い流れの底に見えた、砂と丸い石。
今日は、水そのものではなく、流れが残しているものを見ていきます。
次の日も、細い流れへ向かった。
西側の岩場を越え、高いところから湿った場所へ下る。白い根の生えている辺りを通り、水が通った跡をたどれば、昨日ほど音を探す必要もない。
少し進むと、木々の間から水音が聞こえてきた。
「着いたな」
細い流れは昨日と変わらず、木の根や小石の間を抜けている。
どこから来て、どこへ行くのかはまだ分からない。
今日は、それを調べるつもりもなかった。
「こっちだな」
しゃがみ込み、水の底を見る。
昨日から気になっていたのは砂と石だった。
湿った場所で水の跡を追っていた時にも、細かな砂は見つけている。ただ、ここにはもっとはっきり溜まっていた。
流れが少し曲がったところ。
太い根の脇。
石の後ろ。
そういう場所に、細かな粒が集まっている。
「全部同じじゃないな」
水の流れが少し速い場所では、底に大きめの小石が見える。
そのすぐ横。
流れが弱くなっているところには、細かな砂が溜まっていた。
指を水に入れないよう、岸から届く場所を細い枝で軽くなぞる。
砂が崩れ、水に舞う。
すぐに流される粒もあれば、その場へ沈むものもあった。
「軽いのは流れてくのか?」
枝先で、もう一度砂を動かしてみる。
細かな泥は水を濁らせ、そのまま下へ流れていく。
少し大きな粒は転がる。
さらに大きな石は、ほとんど動かない。
「水が分けてる……?」
正しいかどうかは分からない。
ただ、流れの中では大きさの違うものが同じ場所に残っていない。
泥。
砂。
小石。
少し大きな石。
流れ方によって、溜まる場所が違っているように見えた。
「面白いな」
しばらく眺めていると、ハクアが近くへ来た。
昨日、森の奥の匂いを気にしていた方向を見るかと思ったが、今日は特に反応しない。流れのそばで鼻を動かし、そのまま俺の横を通り過ぎた。
「今日は何もないか?」
白い耳が一度だけ動く。
「ならいいけど」
俺も砂へ目を戻した。
流れの脇には、丸みのある石がいくつもある。
一つ拾う。
灰色の石。
手のひらに収まるくらいで、角があまりない。
「これ、使いやすそうだな」
拠点の周りで拾う石は、もっと角張ったものも多い。
火の周りに置くなら、それでも困らない。
けれど、何かを擦ったり叩いたりするなら、こういう丸い石にも使い道がありそうだった。
別の石も拾う。
少し平たい。
表面は滑らかで、手に持ちやすい。
「研ぐ時にも使えるか?」
石の刃。
木。
乾いた植物。
何に向いているかは、持ち帰って試さなければ分からない。
ひとまず二つだけ横へ置く。
「砂も少し持って帰るか」
細かな砂が溜まっている場所を見る。
池の近くで使った土とは違う。
あちらは粘りが強く、水を含むと形が変わりやすかった。
ここの砂は、指でつまんでも固まらない。
乾けばもっとばらばらになるだろう。
何に使えるかは分からない。
でも、違うものなら比べてみる価値はある。
葉を一枚拾い、その上へ砂を少しずつ載せる。
濡れているため、見た目より重い。
「思ったよりあるな」
もう少し取ろうとして、手を止めた。
持って帰るのは砂だけではない。
石もある。
ここから拠点までは近くない。
「これくらいでいいか」
葉の端を折り、砂がこぼれないようにする。
全部持って帰る必要はない。
試すだけなら、片手に乗るくらいで十分だった。
もう一度、砂の溜まっているところを見る。
濡れた灰色。
黒っぽい粒。
薄い茶色。
よく見ると、一つの色ではない。
「こんなに混ざってるのか」
何となく指先で広げていると、小さな粒が光った。
「ん?」
顔を近づける。
砂の中に、少しだけ色の違う粒がある。
灰色でも茶色でもない。
濡れているせいか、周りより少しだけ光って見えた。
枝先で分ける。
一粒。
その近くにも、もう一粒。
「石……だよな」
小さすぎて、それ以上は分からない。
金属なのか。
ただ色の違う石なのか。
そもそも、光って見えるのも水に濡れているせいかもしれない。
拾い上げようとしたが、指先から簡単に落ちた。
「小さすぎる」
もう一度探す。
見つけた粒だけを分けるのは面倒だった。
それなら。
「砂ごとでいいか」
持ち帰る砂の中にも、同じものが混じっているかもしれない。
今ここで正体を決める必要はない。
葉で包んだ砂を、持ってきたものの中へ入れる。
丸い石を二つ。
砂を少し。
「これでも結構重いな」
持ち上げてみる。
砂は少量でも水を含んでいる。
石を加えると、帰り道では邪魔になりそうだった。
もう一つ気になっていた平たい石を見る。
少し迷う。
「……これは置いてくか」
欲しいものを全部持って帰る必要はない。
場所は分かっている。
必要なら、また来ればいい。
二つあった石のうち、扱いやすそうな方だけ残す。
「一個で十分だな」
それから流れを少しだけ見て回る。
上流へ進むわけでも、下流を追うわけでもない。
昨日見つけた渡れる根の近くまで。
砂が溜まる場所。
石が多い場所。
泥が残っている場所。
それぞれを比べる。
「やっぱり違うな」
流れが曲がる内側には細かなものが溜まりやすい。
水が直接当たっているところでは、砂が少なく石が見えている。
根の後ろには、小さな葉や枝も引っ掛かっていた。
水はただ通っているだけに見える。
でも、その中では少しずつ物が動き、残る場所が変わっている。
「流れたあとに見れば、分かることもあるんだな」
湿った場所で水の跡を見つけた時もそうだった。
水そのものがなくても、落ち葉や砂が残っていた。
ここでは今も水が流れているから、その動きが少し分かりやすい。
ハクアが根の向こう側へ渡った。
「今日はそっち行かないぞ」
白い姿が振り返る。
昨日は、向こう岸を少しだけ見た。
でも今日は砂と石を見るために来ている。
「帰りに渡る必要もないしな」
ハクアは少しだけこちらを見たあと、また軽く根を越えて戻ってきた。
「何しに行ったんだよ」
答えはない。
俺は荷物を持ち上げる。
濡れた砂。
丸い石。
大した量ではないのに、いつもの探索より手が塞がる。
「持ち帰るものが増えると、歩きにくいな」
これも覚えておいた方がいい。
見つけることと、使える量を持ち帰ることは別だ。
大量に砂が欲しくなったとしても、一度に運ぶのは難しい。
石ならなおさらだった。
「今日は一個で正解だな」
来た道へ戻る。
水が通った跡。
白い根の場所。
湿った地面。
上り坂。
高いところまで戻ったところで、一度荷物を置いた。
「重い」
腕が疲れるほどではない。
ただ、ずっと片手に持っていると邪魔になる。
葉で包んだ砂を見る。
破れてはいない。
「持ち方も考えないとな」
今ある入れ物で運べる量にも限りがある。
必要になった時に考えればいい。
今日は比べるための分だけあれば足りる。
少し休み、再び歩き出した。
拠点へ戻ると、最初に砂を広げた。
葉を開く。
濡れた砂が固まることなく崩れる。
「やっぱり池の土とは違うな」
池の近くから持ち帰った土を少しだけ出す。
指で触る。
水分の量は違う。
単純には比べられない。
それでも、触った感じはかなり違った。
池の土は細かく、濡れると指へまとわりつく。
流れの砂はざらつき、指の間から落ちていく。
「別物だな」
砂を少し乾かしてみることにする。
火のすぐ近くには置かない。
平たいものの上へ薄く広げ、風が通るところへ置く。
次に石。
手の中で転がす。
丸く、表面が滑らかだ。
「これは何か擦る時に試すか」
今すぐ使い道を決める必要はない。
使えそうな時に試せばいい。
石を置き、もう一度砂を見る。
さっき流れの中で見つけた、色の違う小さな粒を思い出す。
持ち帰った砂にもあるかもしれない。
少し指で広げる。
灰色。
茶色。
黒っぽいもの。
その中に。
「……あった」
ごく小さな粒。
一つだけ、周りと色が違う。
指先へ乗せようとすると、また落ちる。
「何なんだろうな」
分からない。
石なのか。
別の何かなのか。
使えるものなのかも分からない。
ただ、砂の中にはこういう粒も混じっている。
それだけ覚えておく。
地面に描いた線のところへ行く。
湿った場所から続く水の跡。
その先の細い流れ。
渡れる根。
今日は場所そのものは増えていない。
「でも、ここには砂と石がある」
流れの横へ、小さな印を加える。
砂。
丸い石。
自分に分かればいい。
少し離れたところで、ハクアが伏せている。
俺は砂の方を見る。
水に流されるもの。
残るもの。
大きさで溜まる場所も変わる。
そして、その中に混じっていた色の違う粒。
「まあ、乾いてからもう一回見るか」
今は濡れている。
乾けば、見え方も変わるかもしれない。
分からないものは、まだ分からないままでいい。
ただ。
細い流れは、水がある場所というだけではなかった。
そこには、流れてきたものも残っていた。
第67話を最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
細い流れの中では、泥や砂、小石が同じ場所に残っているわけではありませんでした。
流れ方によって集まる場所が違い、その中から砂と丸い石を持ち帰りました。
砂には、少しだけ色の違う粒も混じっています。
何なのかは、まだ分かりません。




