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『魔法の使えない転生者、忌地の森をひらく』  作者: 森野余白
第五章「森を少しだけ広く」

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第64話 少しだけ

第64話です。


昨日持ち帰った、白い地下の部分。


食べられるかもしれない。


でも、それだけで口に入れるわけにはいきません。

朝、昨日持ち帰った白い根をもう一度見る。


泥は軽く落としてある。


白から薄い黄色で、ところどころ節のように膨らみ、細い根が伸びている。


「……見た目だけじゃ分からないな」


匂いを嗅ぐ。


土っぽく、少し青臭い。


昨日と変わらない。


動物が掘った跡の近くに落ちていた。


たぶん、何かが食べていた。


でも。


「それで俺も食える、にはならないよな」


ハクアを見る。


少し離れた場所で伏せている。


「お前が食えるものでも、俺が食えるとは限らないし」


白い耳が動く。


「逆もあるだろうしな」


前の世界でも、動物が平気で食べるものを人が同じように食べられるとは限らなかった。


こっちは、そもそも知らない世界だ。


似た植物だから大丈夫。


動物が食べているから大丈夫。


そんな決め方はしたくない。


「まず、生では食べない」


白い地下の部分を手に取る。


石の刃で端を少し切る。


中も白い。


切ったところから、少し水分がにじむ。


鼻へ近づける。


「匂いはそんなに変じゃないけど」


それも、安全とは関係ない。


切った欠片をさらに小さくする。


全部は使わない。


ほんの少しだけだ。


「火を通すか」


火のそばへ移動する。


そのまま炙るより、中まで熱が入った方がいい。


薄く切り、厚すぎないようにする。


何枚もいらない。


一枚だけで十分だ。


「これで十分」


残りは少し離れた場所へ置く。


間違えて他のものと一緒に使わないようにする。


薄く切った一片を火の近くへ置く。


直接炎には当てない。


焦げるだけでは意味がない。


ゆっくり時間をかける。


表面の水分が減り、少し色が変わる。


裏返して、また待つ。


「結構かかるな」


急ぐ理由はない。


今日中に食べられるものだと決める必要もない。


火の様子を見ながら、他の作業をする。


水を確認し、昨日使った道具を片付ける。


干していた草を見て、少し乾きすぎたものを別にする。


その間も、時々白い欠片を返す。


「そろそろかな」


石の先で押す。


生の時より柔らかい。


中心を割ると、中まで熱が入っているように見える。


もう少し。


念のため、火から少し離した場所で温め続ける。


「これくらいなら……」


ようやく取り出す。


すぐには触らず、冷ます。


その間に、もう一度考える。


食べるか、食べないか。


「……一口だけだな」


食べるなら、本当に少しだけ。


一口というより、口の中で味を見る程度にする。


それ以上は食べない。


何も起きなくても、今日は追加しない。


決めてから、小さく切る。


指先に乗るくらいの大きさだ。


「少な」


思わず呟く。


でも、これでいい。


口へ入れて、噛む。


「……ん」


最初に感じたのは土っぽさだった。


強くはない。


そのあと、ほんの少しだけ甘いような気もする。


「まずくはないな」


飲み込む前に、口の中に変な刺激がないか確かめる。


舌、喉、唇。


痺れや痛み、強い苦味はない。


「……大丈夫そう?」


口にしたあとで言っても仕方がない。


少し待ってから飲み込む。


「よし」


残りには手をつけず、火のそばからも離す。


食べた時間を覚えておく。


空を見る。


まだ朝だ。


「今日は、これ以上なし」


ハクアがこちらを見る。


「欲しそうな顔しても駄目だぞ」


していない。


そもそも、白い欠片に興味もなさそうだ。


「……言ってみただけだ」


普通に朝の続きをする。


水を飲み、いつもの食べ物を少し食べる。


白い根とは別にしておく。


それから待つ。


何もしないで座っていても仕方がないので、普段通りに動く。


ただ、いつもより少し自分の体を気にする。


「今のところは何もないな」


腹は痛くない。


喉も変じゃない。


口の中に違和感はなく、頭も気持ち悪くない。


「まだ早いか」


食べてすぐ何もないからといって、それで終わりとは限らない。


時間を置く。


昼近くになり、また確認する。


「……平気」


少し歩き、薪を集めて戻る。


火を見て、水を飲み、腹の具合を確かめる。


変わらない。


「一口だからってのもあるだろうな」


少なすぎて、何かあっても出ないのかもしれない。


だから、平気だったから大量に食べるということはしない。


昼を過ぎても、特に変化はなかった。


「少なくとも、すぐ駄目になる感じじゃないか」


それ以上は言わない。


毒がない。


食べられる。


安全。


どれもまだ早い。


夕方、残しておいた白い根を見る。


「今日はもう触らない」


少し乾いてきている。


保存できるかも分からないし、傷みやすいかもしれない。


明日には変わっている可能性もある。


「採ってきすぎなくてよかったな」


一株だけ。


しかも一部だけ。


今はそれで十分だった。


夜、火の近くで座りながら、もう一度体調を確かめる。


腹痛はない。


吐き気もなく、喉も変わらない。


「今のところは大丈夫」


ハクアが近くで丸くなる。


俺も横になる前に、白い根を少し離れた場所へ置き直す。


明日の朝まで、まだ見る。


「一日くらいは置かないとな」


食べ物を調べるのは、見つけるより時間がかかる。


当たり前かもしれない。


知らないものを一回口にしただけで判断する方が危ない。


「寝て起きてからだな」


火を確認して、横になる。


腹の辺りに意識を向ける。


痛くない。


気持ち悪くない。


それでも、少し気になる。


「……こういうの、食べた後の方が怖いな」


食べる前は、食べるかどうかを決めればいい。


食べた後は、待つしかない。


ハクアの寝息が聞こえる。


「まあ、少しだけだし」


目を閉じた。


次に目を開けた時、周囲は明るくなり始めていた。


「……朝か」


体を起こす。


最初に腹へ手を当てる。


痛みはない。


気持ち悪さもなく、喉も口の中も特に変わらない。


「平気だったな」


少し安心する。


でも、すぐに白い根へ手は伸ばさない。


昨日、一口だけ十分に火を通したものを食べた。


一晩経った。


今のところ、何も起きていない。


分かったのは、そこまでだ。


「一口平気でも、食えるとは限らないよな」


一人で言う。


ハクアが顔を上げた。


「もう一回は、また別の日だ」


昨日の残りを見る。


今日すぐに量を増やす必要はない。


状態も見たい。


同じものをもう一度採りに行くこともできる。


急がなくていい。


「食べ物候補、くらいか」


それくらいがちょうどいい。


地面に描いた印を見る。


湿った場所。


足跡。


白い根。


昨日までは、何なのか分からない植物だった。


今日は、十分に熱を通したものをほんの少しだけ食べて、一晩は何も起きなかった植物。


それだけだ。


「まだ保留だな」


指で印の横を軽く叩く。


消さない。


でも、食べられる印にも変えない。


近くでハクアが伸びをする。


俺も立ち上がった。


「今日は普通にするか」


白い根のことばかり考えても仕方がない。


使えるかどうか。


食べられるかどうか。


答えを急がなくても、森は逃げない。


たぶん。


俺は水を取りに行く準備を始めた。


昨日食べた一口は、今のところ何も起こしていなかった。

第64話を読んでいただき、ありがとうございます。


動物が食べていたからといって、そのまま安全とは決めない。


十分に火を通し、ごく少量だけ口にして、その日は追加せずに様子を見る。


一晩経っても明確な異常はありませんでしたが、まだ「食べられる」と決めるには早い段階です。

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