↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『魔法の使えない転生者、忌地の森をひらく』  作者: 森野余白
第五章「森を少しだけ広く」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

68/114

第63話 掘った跡

第63話です。


湿った場所を使っているのは、一人と一匹だけではありません。


今日は、そこに残された痕跡を見ていきます。

 湿った場所へ着くと、最初に足元を見た。


 昨日までに歩いた辺りには、柔らかい土や苔のついた根、切れにくい草が生えている外側がある。


「今日は、もう少し中を見るか」


 無理に奥へ入るつもりはない。


 ただ、外側ばかり見ていても分からないことがある。


 地面の固そうな場所を選びながら進む。


 一歩進んでは確認し、もう一歩進む。


 昨日までより、歩き方にも少し慣れてきた。


「こっちは大丈夫そうだな」


 つま先で押してから体重を乗せる。


 沈まない。


 そのまま少し先へ進んだ。


 ハクアは俺より前で、時々地面の匂いを嗅いでいる。


「何かあるか?」


 聞いても、もちろん返事はない。


 ただ、今日はいつもより鼻を使う回数が多い気がした。


「……ん?」


 その理由は、すぐに分かった。


 泥の上に跡がある。


 しゃがみ込む。


「足跡か」


 丸いような、少し細長いような、はっきりしない形だった。


 一つ。


 その先に、もう一つ。


 さらに少し離れた場所にも、また一つ残っている。


「四本足……かな」


 俺の足跡とは違う。


 ハクアよりも大きい。


 少なくとも、小さな動物ではなさそうだ。


 指を近づけるが、触らずに形だけを見る。


「結構大きいな」


 どれくらいの動物なのかは分からない。


 足跡だけで身体の大きさを判断できるほど、俺は詳しくない。


 ただ、ハクアより大きい。


 それだけでも十分だった。


 足跡の続く方向へ目を向ける。


 草が少し倒れていた。


 一本、二本。


 その先も細い帯のように続いている。


「通ってるのか?」


 同じ方向へ倒れているため、風で倒れた感じとは少し違う。


 何かが何度も通れば、こうなるのかもしれない。


「追うのはやめとこう」


 すぐに決めた。


 何の跡か分からず、危険かどうかも分からない。


 そんなものを、わざわざ追いかける必要はない。


 ハクアを見る。


「行くなよ」


 白い耳が動いた。


「今日は追わないからな」


 ハクアは少し先の地面を嗅いだものの、それ以上は進まなかった。


「……分かってる?」


 たぶん、分かっていない。


 俺も気にせず周囲を見回す。


 足跡だけではなかった。


 少し離れた木の低いところで、樹皮が擦れている。


「これも?」


 手で触れると、表面が削れていた。


 高い場所ではない。


 俺の膝より少し上くらいだ。


 動物が身体を擦ったのか、それとも角でも当たったのかは分からない。


 さらに近くの枝には、何かが引っ掛かっていた。


「……毛?」


 細くて短い。


 茶色とも灰色とも言いにくい色をしている。


 一本だけ指でつまむと、軽く揺れた。


「やっぱり何かいるな」


 足跡に倒れた草、木の擦れ跡、毛らしきもの。


 どれか一つだけなら、別の理由もありそうだ。


 でも、いくつも重なっている。


「この辺、使ってるのか」


 水を飲みに来るのか、餌を探しているのか、それとも通り道なのか。


 何をしているのかは分からない。


 ただ、時々ここへ来る動物がいる。


 そう考えた方が自然だった。


「気をつけないとな」


 今まで姿を見ていないから安全だったわけではない。


 ただ会わなかっただけかもしれない。


 湿った場所の奥へ進むなら、今まで以上に慎重にした方がよさそうだ。


 足跡は追わず、少し横へずれる。


 そこで、地面が掘られている場所を見つけた。


「ん?」


 土がめくれ、落ち葉も散っている。


 近づいてみる。


「ここもか」


 浅い穴の周囲に、土が外へ飛び散っていた。


 何かを掘り返したように見える。


 その横には、白っぽいものが落ちていた。


「なんだ、これ」


 しゃがみ込み、土の上にある小さな欠片を観察する。


 白く、少し黄色っぽい。


 木ではない。


 石でもなさそうだ。


 拾ってみると、硬すぎないものの、指で押しても潰れなかった。


「根?」


 穴へ目を向ける。


 周囲には、膝より少し高いくらいの植物が何株か生えていた。


 葉は細すぎず、地面から何本かまとまって伸びている。


 そのうち一株の近くが掘られていた。


「こいつか?」


 植物の根元を見ると、土の下へ何かが続いている。


 無理に掘らず、少しだけ土を指でどける。


 白っぽいものが見えた。


「やっぱり地下にあるな」


 根というより、少し太い。


 途中が膨らみ、節のように見える場所もある。


「地下茎……だったっけ」


 前の世界で聞いた言葉が浮かんだ。


 正しいかは分からない。


 ただ、普通の細い根とは違う。


 地面の下を横へ伸び、ところどころ太くなっているように見えた。


「これを掘ったのか?」


 さっきの足跡を思い出す。


 動物が食べたと考えれば、この掘り跡もつながる。


 でも、食べているからといって、俺が食べられるとは限らない。


「持って帰って見るくらいならいいか」


 一株だけにする。


 全部は取らない。


 石の刃を使い、地上部の周りを少しだけ掘る。


 土は柔らかく、深く掘らなくても白っぽい地下の部分が出てきた。


「結構つながってるな」


 無理に全部は引き抜かず、途中で切る。


 地上部と白い地下の部分を少しだけ採った。


「これで十分」


 土を軽く戻す。


 元通りにはならないが、大きな穴のままにはしない。


 採ったものを確認する。


 地下の部分は白から薄い黄色で、節ごとに少し膨らんでいた。


 匂いを嗅ぐと、土の匂いが強い。


 その奥に、植物らしい青い匂いも混じっている。


「食えるかどうかは、まだ分からないな」


 持ち帰って調べる。


 それからだ。


 立ち上がった時、少し離れた場所にも掘った跡があることに気づいた。


「また?」


 近づいてみる。


 さっきとは少し違った。


 動物が掘ったと思った場所では土が広く散り、落ち葉も乱れていた。


 爪か鼻先か、何かで掻き回したような感じだ。


 一方、こちらは狭い。


「……小さいな」


 穴というほどでもない。


 地面の一部だけ土が取られていて、周囲へ大きく散っていない。


 植物も、必要な部分だけ触ったように見える。


「これ、動物か?」


 しゃがんで形を見る。


 爪で掻いたような筋はない。


 踏み荒らした跡も目立たなかった。


「綺麗すぎるような……」


 そう呟いてから、昨日より前に湿地の外側で見つけた草を思い出した。


 途中で切れていた一本。


 妙に滑らかだった断面。


「…………」


 周囲を見回す。


 木。


 草。


 苔。


 湿った地面。


 それだけだ。


 何かいるわけではない。


 音も、いつもの森と変わらない。


「たまたまか?」


 草の切れ方と今の掘り跡。


 二つを結びつける理由はない。


 場所も少し離れているし、原因が同じだとも限らない。


 ただ、どちらも自然にできたと言われると、少し引っ掛かる。


「……分からないな」


 それ以上は触らない。


 掘り跡もそのままにして、場所だけ覚えておく。


 少し太い木。


 根元に苔。


 その向こうに、白い地下の部分がある植物。


「ここも覚えとくか」


 今日は思ったより見るものが多かった。


 足跡。


 倒れた草。


 木の擦れ。


 毛らしきもの。


 掘り返された地面に、白い地下の部分。


 それから、妙に整った小さな跡。


「十分だな」


 空を見る。


 木の間から見える明るさは、まだ残っている。


 でも、ここから拠点までは遠い。


 高いところまで上り、そこから岩場を越えなければならない。


「帰るぞ、ハクア」


 呼ぶと、少し離れていた白い姿が戻ってくる。


「今日はこれ以上見ない」


 採った植物を持ち直す。


 重くはない。


 片手で十分だ。


 来た道へ向かう。


 湿った地面を抜け、柔らかい場所や苔のついた根を一つずつ避けていく。


 途中、もう一度足跡が見えた。


「…………」


 立ち止まらず、形だけ覚える。


 この辺には、俺たち以外にも何かいる。


 それで十分だ。


 上りに入ると、土が少しずつ乾いていく。


 苔も減り、やがて風が通った。


「戻った」


 高いところまで来ると、少し安心する。


 採ってきた植物を見ると、白っぽい地下の部分にはまだ湿った土がついていた。


「これも調べないとな」


 食べられるかもしれない。


 使えないかもしれない。


 毒かもしれない。


 まだ何も分からない。


「動物が掘ってたからって、食うのはなしだな」


 ハクアを見る。


 白い顔がこちらを向いた。


「お前が食べても参考にならないからな」


 ハクアの耳が動く。


「いや、食わせないけど」


 そのまま帰る。


 拠点へ着く頃には、木々の間の光が少し弱くなっていた。


「ちょうどよかったな」


 荷物を置き、持ち帰った植物を他の食べ物とは少し離して置く。


「まず見るだけ」


 今日すぐに口へ入れる気はない。


 葉、茎、白い地下の部分。


 泥を軽く落とすと、節のような膨らみがいくつか現れた。


「白い根……でいいか」


 名前は分からない。


 今はそれで十分だ。


 地面に描いた線の前へ行く。


 湿った場所。


 丈夫な草の印。


 その少し先に、小さく印をつける。


「この辺に足跡」


 さらに、植物を見つけた辺りにも印をつけた。


「白い根」


 そこまで描いて、枝先が止まる。


 整った掘り跡をどう描けばいいのか分からない。


 そもそも、何なのかも分からない。


「……これは、いいか」


 地図には描かない。


 頭の中だけに残す。


 あの滑らかな切り口と一緒に。


 分からないものは、分からないままでいい。


 今は、湿った場所に何か大きめの動物が来ることと、白い地下のものがあることが分かった。


 それだけでも、昨日より知っていることは増えた。


 近くでハクアが伏せる。


 俺は持ち帰った植物を見る。


「明日は、こっちだな」


 食べるわけではない。


 まず、どういうものなのかをもう少し確かめる。


 白い地下の部分には、まだ土の匂いが残っていた。

第63話を読んでいただき、ありがとうございます。


湿った場所には、一人と一匹以外にも何かが出入りしていました。


足跡や倒れた草、木の擦れ跡、毛らしきもの。そして、掘り返された地面の近くで見つけた白い地下の部分。


一方で、動物が掘った跡とは少し違う、小さく整った痕跡も残っていました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。