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『魔法の使えない転生者、忌地の森をひらく』  作者: 森野余白
第二章「生きる場所を作る」

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第23話 誰か食べた?

第23話です。


昨夜、少しだけ残していた魚。


翌朝、その量が減っていました。

翌朝。


「…………」


 俺は、葉の上に残った魚を見つめていた。


「減ってる?」


 昨夜、焼いた魚を少しだけ残した。


 塩も冷蔵庫もないので、長く保存するつもりはない。


 朝まで置いたらどうなるか見て、匂いや虫がひどければ捨てるつもりだった。


「このくらいあったよな」


 指で長さを示す。


 今残っているのは、その半分より少ない。


「虫?」


 あり得る。


 ただ、一晩でまとまった身がなくなるだろうか。


「小動物?」


 そっちの方がありそうだ。


 葉の周りを見る。


 地面は昨日の雨でまだ少し柔らかい。


「…………」


 小さな跡。


 四本足。


「また」


 前に見つけたものとよく似ている。


 犬か狼のような形。


 ただし小さい。


 さらに、低い枝へ白い毛が一本引っ掛かっていた。


「やっぱり、何かいるな」


 森の端を見る。


 何も見えない。


 昨日までなら、「何だろう」で終わっていたかもしれない。


 でも今は、少なくとも拠点の近くまで来て、食べ物へ触れたらしいことが分かる。


「白いやつ」


 雨上がりに一瞬だけ見えた、白っぽい影を思い出す。


「……追う?」


 自分で口にして、すぐ首を振る。


「追わない」


 足跡は森の中へ続いている。


 でも、正体も分からない生き物を追っていく理由はない。


 小さくても親がいるかもしれない。


 犬に見えて、全く違うものかもしれない。


「向こうから来てるなら、それでいい」


 魚の残りを見る。


 少し考える。


 野生動物へ食べ物を与えるのは、前世の感覚なら簡単にやっていいことではない。


 人へ慣れさせる。


 別の動物を呼ぶ。


 拠点の近くに餌があると覚えさせる。


「危ないよな」


 だから、たくさん置く気はない。


 毎日やるとも決めない。


 魚をわざわざ捕って与えるつもりもない。


「それなら」


 朝食にした橙色の実を見る。


 俺が何日も少量ずつ食べているもの。


 魚より匂いも弱い。


「これを少しだけ」


 実を小さく割り、一口にも満たない量だけ取る。


 寝床や焚き火から離れた場所に、表面の平たい石がある。


 そこへ置いた。


「これくらいなら」


 森の端に近すぎる場所ではない。


 俺のすぐそばでもない。


「食うなら勝手に食え」


 誰もいない森へ言った。


「俺がいる時に来いとは言わない」


 むしろ、来られても困る。


 正体が分からない。


「…………」


 少し待つ。


 当然、何も出てこない。


「だよな」


 午後は普通に作業する。


 薪を乾かす。


 植物繊維を撚る。


 棚の固定を直す。


 何度か森の端へ目が向いた。


「…………」


 何もいない。


「気にしすぎ」


 自分で笑う。


 夕方前、水を汲みに出る。


 橙色の実を置いたまま拠点を離れるのは少し迷った。


「すぐ戻る」


 もし大きな獣が来ていたら、近付かず引き返す。


 そう決めて湧き水へ向かった。


 水を汲み、樹皮の容器を抱えて戻る。


 空き地へ入る前に立ち止まる。


 耳を澄ます。


「…………」


 大きな音はない。


 ゆっくり入る。


 最初に見るのは、橙色の実を置いた平たい石。


「ない」


 身が消えていた。


「…………」


 周囲。


 足跡。


「あった」


 小さい。


 前と似ている。


 葉の手前まで来て、また森側へ戻っている。


「なくなってる」


 平たい石の上に置いたから、転がって遠くへ行ったとも考えにくい。


 鳥なら足跡は違うはずだ。


「白いやつ?」


 答えはない。


 でも、可能性は高くなった。


「俺がいない時だけ来るのか」


 それなら警戒しているのだろう。


「そりゃそうだよな」


 俺だって森の中で正体不明の生き物が火を使い、木を切り、屋根を作っていたら近付きたくない。


「むしろ見に来るだけすごいな」


 少し笑う。


 それ以上は何もしない。


 足跡を追わない。


 森へ呼びかけない。


「今日は終わり」


 夜。


 焚き火の前へ座る。


 森の端は暗い。


 何も見えない。


「…………」


 それでも、昨日までとは少し違った。


 この空き地の外に「何かいるかもしれない」ではなく。


「いるな」


 そう思える痕跡が増えた。


「まあ」


 火へ枝を一本足す。


「来たいなら、向こうの好きにすればいい」


 俺は俺の暮らしを続ける。


 追わない。


 捕まえない。


 近付くかどうかは、向こうが決めればいい。

第23話を最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


野生の生き物へ食べ物を与えることには、本来さまざまな危険があります。


主人公も大量に与えたり、積極的に呼び寄せたりはせず、まだ距離を置いています。

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