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『魔法の使えない転生者、忌地の森をひらく』  作者: 森野余白
第二章「生きる場所を作る」

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第19話 屋根の下

第19話です。


前回作った骨組みに、樹皮と葉を重ねて屋根を作ります。


目標は立派な家ではなく、雨の日でも身体を休められる場所です。

朝。


 目を覚まして最初に見たのは、ここ数日かけて組んだ骨組みだった。


「残ってる」


 夜の間に風で倒れてはいない。


 二本の柱は少し傾いているが立っている。


 横木も外れていない。


「よし」


 まず固定を確かめる。


 蔓の一部が緩んでいた。


「ここ」


 湿らせた植物繊維を追加し、結び直す。


 次は屋根。


 昨日集めておいた大きな樹皮を、低い側から順に重ねていく。


「下から、だよな」


 上の板から流れた水が、下の板の内側へ入らないようにする。


 屋根瓦と同じ考え方……だと思う。


「たぶん」


 確信はない。


 だから、少しだけ水を流して試す。


 樹皮を二枚重ねたところへ、樹皮の容器から少量の水をかけた。


 水は表面を伝って下へ落ちる。


「ここはいい」


 別の場所。


 ぽた。


 裏側へ回った。


「あー」


 重なりが浅い。


 一度外し、もう少し大きく重ねる。


「材料使うな」


 でも、けちって寝床が濡れれば意味がない。


 樹皮だけでは隙間が残るところへ大きな葉を挟み、その上からさらに樹皮を重ねる。


 風で飛ばないよう細い枝を上から押さえ、蔓で骨組みへ固定する。


 午前が終わる頃には、屋根の半分ほどが覆われた。


「思ったより進まない」


 昨日から同じことばかり言っている気がする。


「建物って大変なんだな」


 家ではない。


 ただの屋根だ。


 それでもこの手間だ。


 前世で見ていた建物が、急にすごいものに思える。


 昼を挟み、残りを進める。


 途中で一度、全体を見て止まった。


「傾斜、弱くない?」


 倒木側から柱側へ下げているつもりだったが、中央付近が少したわんでいる。


 そこへ水が溜まれば、重さでさらに沈むかもしれない。


「やり直しか」


 一瞬嫌になる。


 でも、雨が降ってから気付くよりいい。


 中央へ一本支えを追加し、屋根の枝を少し持ち上げる。


 結び直す。


「これで」


 また少量の水。


 今度は途中に溜まらず、低い側へ流れた。


「よし」


 次は端。


 上からの水だけ見ていたが、風が吹けば横から入る。


 壁を作るほどの材料も技術もない。


「全部は防げない」


 なら、寝床を屋根の中央寄りにする。


 荷物も濡らしたくないものだけ奥へ置く。


「雨が入る前提で場所を決める」


 完全に止められないなら、濡れて困るものを逃がせばいい。


 それも一つの方法だ。


 夕方前。


 最後の樹皮を固定する。


「…………」


 一歩下がる。


 巨大な倒木から斜めに伸びた、歪んだ屋根。


 二本の柱。


 壁はほとんどない。


 床もただの地面だ。


 大きさも、俺が横になって、その横へ道具と水を少し置けば埋まる程度。


「家ってほどじゃないけど」


 屋根の下へ入る。


 横になる。


 頭の上に、前より広い覆いがある。


「いいな」


 立派ではない。


 でも、狭い倒木の窪みに身体を押し込める必要はなくなった。


「これなら」


 その時。


 葉が一枚、裏返った。


 風が少し強くなる。


「…………」


 空を見る。


 雲が厚い。


「まさか」


 言わない。


 もう「雨降らないよな」なんて口にしない。


 ただ、屋根の固定をもう一度確認する。


 低い側の地面へ浅い溝も作る。


 屋根から落ちた水が寝床側へ流れ込まないようにするためだ。


「来るなら来い」


 少しだけ、そう思った。


 そして森は、本当に雨になった。


「…………」


 最初は細い音だった。


 葉に当たる雨粒が増え、やがて屋根を叩く音が重なる。


 俺は新しい屋根の下で座り、上を見た。


 ぽた。


「そこか」


 端の一か所から漏れる。


 でも、寝床の上ではない。


 別の継ぎ目からも一滴。


「完全じゃないな」


 当然だ。


 それでも。


 横になる。


 待つ。


 顔へ水が落ちてこない。


 胸にも。


 腹にも。


「……濡れない」


 声が小さくなった。


 最初に降られた雨では、身体を丸めても水滴が落ちてきた。


 今は、雨音だけが頭の上にある。


「できたんだ」


 派手なものではない。


 屋根だけだ。


 でも、嬉しかった。


 外に置いていた乾いた薪を奥へ移す。


 樹皮の水容器も濡れにくい場所へ。


 石斧と石片も手の届くところへ置く。


「入る」


 自分の身体以外のものまで、少し守れる。


 それだけで屋根が「寝るための覆い」から「暮らす場所」へ近付いた気がした。


 雨はしばらく続いた。


 焚き火は屋根の外、少し離れた位置にある。


 火の上へ屋根を直接かぶせるのは怖い。


 煙も火の粉もある。


「火はまだ別問題」


 雨が弱くなった隙に、火が消えないよう様子を見る。


 完全に守れてはいないが、太めの薪の内側に火種は残った。


「よし」


 夕方。


 雨脚が少し弱くなった頃、昨日までに食べられる可能性を確かめた小魚を一匹、焚き火で焼く。


 中までしっかり火を通す。


 焼けた魚を葉へ乗せ、新しい屋根の下へ持ち込む。


「…………」


 座る。


 雨の音。


 焼いた魚。


 横には水。


 頭の上には、自分で作った屋根。


「家じゃないけど」


 一口食べる。


「うまい」


 塩はない。


 壁もない。


 床もない。


 端からは少し雨が吹き込む。


 それでも、横になった身体へ直接雨が落ちない。


「十分だな」


 今は。


 本当に、それで十分だった。

第19話を最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


樹皮と葉だけの屋根なので、完全に雨風を防げるわけではありません。


それでも、身体や道具を直接雨から守れるだけで、拠点としての使い勝手は大きく変わります。

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