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『魔法の使えない転生者、忌地の森をひらく』  作者: 森野余白
第二章「生きる場所を作る」

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第18話 雨漏りはもう嫌だ

第18話です。


一度経験した雨の冷たさは、できれば二度と味わいたくありません。


今回は、これまでの雨避けを少し広い簡易シェルターへ作り直します。

「雨漏りはもう嫌だ」


 朝。


 空を見上げて、最初に出た言葉がそれだった。


 すぐに雨が降りそうな空ではない。


 雲はあるが、木々の隙間から日差しも入っている。


 だからこそ、今のうちにやる。


「降ってから直すの、きついんだよな」


 最初の雨を思い出す。


 寝床へ水が落ちる。


 風が吹けば横から濡れる。


 火は消えかける。


 濡れた服を乾かしながら、狭い倒木の下で縮こまった。


「一回で十分」


 もちろん、今の屋根もその時よりは良くなっている。


 樹皮を重ね、傾斜をつけ、漏れた場所を何度か直した。


 ただ。


 中へ入る。


 横になる。


「狭い」


 寝返りを打てば荷物へ当たる。


 水を置けば足元が窮屈になる。


 薪を雨から守ろうとすれば、さらに場所がなくなる。


「もう少し広げたいな」


 家を建てるわけではない。


 板もない。


 釘もない。


 まっすぐな柱を揃える技術もない。


「寝られて、少し物を置ければいい」


 それだけ。


 大きさを歩幅で測る。


「このくらい?」


 今の寝床を含めて、俺が横になり、その横へ水と道具を少し置ける程度。


 広すぎれば材料も作業も増える。


「欲張らない」


 巨大な倒木を片側の支えとして使う。


 反対側へ柱を立て、倒木側から低い方へ屋根を流す。


「片流れ……でいいんだよな」


 言葉は知っている。


 作った経験はない。


「はい、いつもの」


 石斧を持つ。


 まず柱。


 以前倒した若木から取った比較的まっすぐな材を二本選ぶ。


 完全に同じ長さではない。


「揃えたいけど」


 石斧で少しずつ削る。


 ごっ。


 ごっ。


「……板とかノコギリとか、すごかったんだな」


 前世ならホームセンターで長さの揃った木材を買えた。


 今は一本を短くするだけでも時間がかかる。


 それでも、初めて木を一本倒した頃よりは石斧の扱いに慣れている。


 切る位置を見ながら、木へ向き直る。


 少しずつ切る位置を変え、必要な長さへ近付けていく。


 昼前。


「一本」


 もう一本。


 肩が重くなってきたところで止める。


「休憩」


 水を飲む。


 橙色の実を一つ食べる。


 元気だからといって、何時間でも働けるわけではない。


 午後。


 柱を立てる位置へ穴を作る。


 スコップはない。


 先を尖らせた木の棒と石片で土を崩し、手で掻き出す。


「これも大変だな……」


 根に当たる。


 石に当たる。


 少し場所をずらす。


 ようやく一つ目の穴へ柱を差す。


「立て」


 土を戻し、周りへ石を詰める。


 手を離す。


 ぐら。


「立ってるけど、頼りない」


 押すと動く。


「支えがいるな」


 斜めに枝を当て、蔓で仮固定する。


 二本目も同じように立てる。


 一歩離れて見る。


「…………」


 高さが違う。


「まあ、そうなるよな」


 地面自体が平らではない。


 木材もまっすぐではない。


 測る道具もない。


「屋根が流れればいい」


 完璧な水平や直角は諦める。


 大事なのは雨を受け流すことだ。


 柱の上へ横木を渡し、倒木側から長い枝を何本も斜めに掛ける。


 一本目。


 ずるっ。


「あ」


 落ちた。


「固定」


 蔓を回す。


 二本目。


 三本目。


 今度は最初に浅い溝を作り、枝が滑りにくい位置へ合わせる。


「前よりはマシ」


 少しずつ骨組みができる。


 ただ、夕方になっても屋根と呼べる状態には程遠かった。


 枝の上には何も乗っていない。


 隙間だらけ。


 柱も歪んでいる。


「今日中は無理だな」


 最初は一日で終わる気がしていた。


「甘かった」


 木を切る。


 運ぶ。


 長さを合わせる。


 穴を掘る。


 立てる。


 縛る。


 一つずつに時間がかかる。


「でも」


 倒木の横には、朝にはなかった骨組みが立っている。


 不格好だ。


 少し傾いている。


 それでも、自分で作った。


「明日、屋根を乗せる」


 樹皮。


 大きな葉。


 細い枝。


 材料はまだ必要だ。


「今日はここまで」


 無理をして暗くなってから作業すれば、石斧で手を切るかもしれない。


 その日は、柱と横木を仮に組んだところで終わった。


 翌日も、固定の甘い場所をやり直した。


 蔓だけでは緩むところへ、池で見つけた葦に似た植物から裂いた繊維を少し足す。


 それでも引けばずれる。


「まだ駄目か」


 もう一度外す。


 組み直す。


 さらに次の日。


 ようやく、屋根を乗せてもすぐには崩れなさそうな骨組みになった。


 まっすぐでもない。


 左右も揃っていない。


 それでも、何日かかけて少しずつ形になった。


「今日はここまで」


 俺は道具を片付け、今まで使っていた狭い雨避けの下へ戻った。


 横になる前に、新しい骨組みを見る。


「家じゃない」


 壁も床もない。


 柱と枝だけ。


「でも、屋根になれば」


 次に雨が来た時。


 寝る場所だけではなく、水や道具も少し守れる。


「明日だな」


 今日できなかったから失敗ではない。


 続きがある。


 それだけだった。

第18話を最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


今作っているのは家ではなく、倒木を利用した簡易的な片流れシェルターです。


材料も加工技術も限られているため、数日かけて少しずつ形にしています。

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