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『魔法の使えない転生者、忌地の森をひらく』  作者: 森野余白
第二章「生きる場所を作る」

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第16話 今日の飯

第16話です。


池には魚がいる。


今回は、それを「見つけたもの」から「食べられるもの」へ変えていきます。

朝。


 目を覚ました俺は、焚き火へ薪を足してから、昨日作った樹皮の容器を確かめた。


 内側はまだ湿っているが、残しておいた水は昨日よりかなり減っている。


「やっぱり、置きっぱなしは駄目だな」


 完全防水ではない。


 湧き水からここまで運ぶことはできても、何時間も貯めておくには頼りなかった。


 それでも、昨日のうちに加熱して飲めた分だけでも十分意味がある。


「今日の分は、また汲みに行けばいい」


 水を運べる。


 必要なら加熱した石で沸かせる。


 その二つができるようになっただけで、水は以前よりずっと扱いやすくなった。


 残っていた水を少し飲みながら、今日やることを考える。


「…………」


 腹が鳴った。


「はいはい」


 何となく自分の腹へ返事をする。


 朝食は、これまでと同じ橙色の実だ。


 少しずつ食べ続けているが、今のところ身体におかしな変化はない。


 酸味は相変わらず強い。


「うまいけどな」


 一つ食べ終える。


 腹は。


「…………」


 満足していない。


「そりゃそうだよな」


 果物が食べられるだけでもありがたい。


 でも、ここへ来てから食事らしい食事をした覚えがなかった。


 何より。


「魚、いたんだよな」


 池。


 水面の下を泳いでいた影を思い出す。


 何匹もいた。


 見た目だけなら、前世で見た魚とそれほど大きく変わらないものもいた。


「捕れれば……」


 焼き魚。


 頭に浮かぶ。


「…………」


 急に腹が減った。


「駄目だ。想像したら余計に食いたくなってきた」


 問題は。


「どうやって捕るか」


 池へ行って手を入れれば魚が飛び込んできてくれる、なんて都合のいいことはない。


 前に近付いた時も、魚影はこちらの気配を感じるとすぐ沖へ逃げてしまった。


「釣りなら……」


 針。


 糸。


 餌。


「全部ない」


 針の代わりになる骨もない。


 金属もない。


 細い糸もない。


「網」


 もっとない。


「じゃあ罠か」


 これは、少し可能性がある。


 魚を捕る仕掛けについては、本やテレビで見た覚えがあった。


 魚が入ったあと、外へ出にくくなる籠。


 川なら石を並べて魚を追い込む方法もあったはずだ。


「でも池なんだよな」


 流れがほとんどない。


 勝手に魚が仕掛けへ流れ込むことは期待できない。


「餌で寄せる?」


 橙色の実を見る。


「魚が食うのか?」


 分からない。


「そもそも、魚が食うもの知らないしな」


 虫。


 小さな水生生物。


 植物。


 魚によって違う。


「考えてても仕方ないか」


 結局、いつもと同じところへ行き着く。


「試す」


 俺は立ち上がった。


 石斧。


 杖。


 それから、池で採った葦に似た植物を何本か手に取る。


 昨日まで何度も触ってみたが、茎にはある程度のしなりがあり、乾燥しきっていないものなら簡単には折れない。


「これで何か作れるかもしれない」


 さらに、石斧を固定するのに使っているものより細い蔓も何本か持つ。


「とりあえず現地で考えるか」


 空き地を出る。


 池までの道にも、かなり慣れてきた。


 最初は似たような木ばかりに見えていた森も、何度も歩けば少しずつ目印が増えていく。


 曲がった木。


 大きな白っぽい岩。


 根が二股に分かれた巨木。


「ここを左」


 声に出しながら進む。


 しばらくすると、木々の向こうに水面が見えた。


「着いた」


 池へ近付く前に、一度足を止める。


 周囲を見る。


 耳を澄ます。


「…………」


 鳥の声。


 葉擦れ。


 遠くで聞こえる小さな鳴き声。


 大型の動物が近くにいる様子はない。


「よし」


 岸へ向かう。


 泥の上には、相変わらずいくつもの足跡が残っていた。


「ここは本当に色々来るんだな」


 あまり長居はしたくない。


 できるだけ、明るいうちに作業を終わらせる。


 水面を見る。


「いる」


 岸から少し離れた場所を、小さな魚影が横切った。


 さらに一匹。


「今日は絶対一匹くらい食いたいな」


 口にしてから。


「いや」


 首を振る。


「まず捕まえるところからだ」


 欲張ると失敗する。


 一個ずつ。


 俺は岸辺へしゃがみ込み、葦に似た茎を並べた。


「籠……」


 頭の中にある形を思い出す。


 細い枝や蔓を何本も組み合わせ、筒のようなものを作る。


 入口は入れるが、出にくい形。


「言うだけなら簡単なんだよな」


 一本を曲げる。


 もう一本。


 交差させる。


 細い蔓で固定する。


「…………」


 ほどけた。


「だよな」


 もう一度。


 今度は蔓を強く引く。


「っ……」


 ぷつっ。


 蔓が切れた。


「…………」


 切れた蔓を見る。


「石斧より細かい作業になると、これじゃ駄目か」


 太い蔓なら丈夫だが、細かく巻き付けにくい。


 細いものは扱いやすいが、強く引けば切れる。


「紐が欲しい」


 また、その結論だった。


 ただ。


「今日は紐を作りに来たわけじゃない」


 魚だ。


 完璧な籠を作ろうとするから難しい。


「もっと単純なのでいいんじゃないか?」


 池を見る。


 岸の近く。


 水深の浅い場所がある。


 底まで見えており、小さな魚が時々入ってくる。


「追い込む?」


 籠へ入れるのが難しいなら。


 魚が逃げられる範囲を狭くする。


「石と枝ならある」


 俺は岸辺に落ちている石を拾い始めた。


 水へ入る。


「冷たっ」


 足首程度まで。


 それ以上は入らない。


 池の底は泥が多く、場所によっては足が沈む。


「深いところは絶対行かない」


 何がいるかも分からない。


 水深すら正確には分からない。


 岸から手の届く範囲だけでやる。


 浅い場所へ石を並べる。


 一つ。


 また一つ。


 岸から斜めに伸ばし。


 反対側からも。


「こんな感じ?」


 上から見る。


 二列の石が、岸へ向かって少しずつ狭くなる形。


 V字に近い。


 狭くなった先には、枝を何本か刺す。


「魚がここまで入れば……」


 出口を塞げるかもしれない。


「でも、入ってくる理由がないな」


 そこが問題だった。


 魚が偶然入ってくれるのを待つ。


「何時間かかるんだよ」


 餌を置く。


「やっぱりそこか」


 試しに、持ってきた橙色の実をほんの少しだけ千切る。


「もったいないな」


 今の貴重な食料だ。


「これで駄目なら次は使わない」


 小さな欠片を、V字の奥へ落とす。


 水面に浮かぶ。


「沈まない」


 指で少し押す。


 沈んだ。


 しばらく待つ。


「…………」


 魚は来ない。


「まあ、そう簡単じゃないか」


 五分。


 十分。


 時々、魚影は見える。


 でも仕掛けの近くまでは来ない。


「橙色の実は駄目?」


 魚が果物を食べるとは限らない。


「別の餌……」


 岸を見る。


 泥。


 落ち葉。


 小さな虫。


「虫か」


 石を一つ持ち上げる。


 その下。


「お」


 細い虫のようなものが動いた。


「ごめんな」


 これが魚の餌になる保証もない。


 でも試してみる。


 細い枝で拾い、仕掛けの奥へ落とす。


「…………」


 少し待つ。


「来た?」


 小さな魚が一匹、近付いてきた。


「お」


 声を出した瞬間。


 魚は向きを変えた。


「…………」


 遠ざかる。


「俺が静かにしてないと駄目なのか」


 当たり前だった。


 少し離れる。


 しゃがみ込み、動かないようにする。


「…………」


 待つ。


 水面を見続ける。


 魚影が一つ。


 仕掛けへ近付く。


「…………」


 今度は動かない。


 小さな魚が石の列の間へ入った。


 少し進む。


 さらに奥へ。


「今?」


 まだ。


「もうちょっと」


 心の中で呟く。


 魚は、さっき落とした虫の近くまで来た。


「よし」


 ゆっくり立ち上がる。


 その瞬間。


 魚が動いた。


「待っ――」


 すっと石の隙間を抜けて、横から逃げた。


「…………」


 水面から魚影が消える。


「そこから出るのか」


 石と石の間。


 俺には狭く見えた。


 魚には十分だったらしい。


「なるほど」


 失敗。


 でも。


「直せる」


 石の隙間へ小石を詰める。


 さらに枝を何本か横へ渡す。


「これなら?」


 完全に塞ぐ必要はない。


 少なくとも魚が簡単に横から抜けられない程度でいい。


 もう一度、餌になりそうな虫を探す。


 今度は少し時間がかかった。


「いるもんだな」


 腐った木の下。


 湿った土。


 小さな虫が何匹か見つかる。


 それを少量だけ仕掛けの奥へ入れる。


「今度こそ」


 少し離れる。


 待つ。


 十分。


「…………」


 二十分。


「魚捕るって、こんな待つんだな」


 釣りも待つものだった気がする。


「まあ、森で暇ってことはないけど」


 仕掛けを見ながら、葦に似た茎を触る。


 細く裂けないか試してみる。


 石片を当て、縦へ切れ目を入れる。


「お?」


 裂けた。


 一本の太い茎が、細長い繊維のように分かれる。


「これ、結べる?」


 軽く捻る。


 少し柔らかい。


「蔓より細いな」


 二本を撚り合わせる。


「…………」


 紐。


 と呼ぶにはまだ頼りない。


 でも、細い枝同士を固定するくらいなら使えるかもしれない。


「魚待ってる間に別の収穫が出たな」


 そんなことをしていると。


 水面が小さく揺れた。


「ん?」


 仕掛けを見る。


 一匹。


 小さな魚が入っている。


「…………」


 さらに。


「二匹?」


 入口の近くに、もう一匹いる。


 俺は動かない。


 呼吸まで少し小さくする。


 奥にいる一匹が、餌の近くを泳いでいる。


「今度は……」


 ゆっくり。


 本当にゆっくり立ち上がる。


 魚がこちらに気付く。


 反転する。


「今!」


 持っていた枝を入口へ差し込む。


 魚が逃げる。


 石の列へぶつかる。


 横へ。


 隙間を探す。


「逃がすか」


 もう一本の枝で出口を塞ぐ。


 ばしゃっ。


 魚が跳ねた。


「うわっ」


 思ったより速い。


 泥が跳ねる。


 魚は狭い範囲を何度も泳ぎ回る。


「どうすればいいんだ?」


 手で捕まえる?


「無理だろ」


 でも、逃げる場所は狭い。


 枝で魚を岸側へ追う。


「こっち、こっち」


 魚は当然言うことを聞かない。


 何度も反対へ逃げる。


「くっ……」


 少しずつ。


 少しずつ。


 石の囲いの一番浅い場所へ追い込む。


 水深は指先ほど。


 魚の背中が水面から出る。


「今だ」


 両手を水へ入れる。


「っ!」


 魚が跳ねる。


 指の間を抜ける。


「あっ!」


 まだ囲いの中。


「もう一回」


 両手で泥ごとすくうようにする。


 ばしゃっ。


 冷たい水が顔へ飛ぶ。


「うわ!」


 手の中。


 何かが激しく動いた。


「…………!」


 反射的に両手を閉じる。


「捕った?」


 魚が暴れる。


「お、おお!」


 落としそうになる。


「待て待て待て!」


 岸へ上がる。


 魚を地面へ直接落とさないよう、持ってきた大きな葉の上へ置いた。


 ばたばたと跳ねる。


「捕れた……」


 息を吐く。


「捕れた!」


 小さい。


 手のひらより少し長い程度。


 青みがかった銀色の鱗が光っている。


「…………」


 嬉しい。


 ものすごく嬉しい。


「魚だ」


 見れば分かる。


「本当に魚だ」


 何度見ても魚だった。


 ただ。


 喜んだ直後。


「…………」


 少し冷静になる。


「食えるのか?」


 見た目が魚だからといって、絶対に食べられるとは限らない。


 この森で何度も学んだことだ。


「そこなんだよな」


 魚を見る。


 形は前世で見た川魚に近い。


 鋭い棘があるわけでもない。


 妙な色の液体を出している様子もない。


 匂い。


「……普通の魚っぽい」


 少なくとも腐った匂いはしない。


「でも、普通に見えるだけじゃ分からない」


 しばらく迷う。


 逃がすという選択もある。


 でも。


「せっかく捕ったんだよな」


 腹が鳴る。


「…………」


 ひどいタイミングだ。


「分かったよ」


 食べる。


 ただし慎重に。


「生では絶対食わない」


 これは決めていた。


 火がある。


 石片もある。


「一匹だけでいい」


 もう一匹は、いつの間にか仕掛けから逃げていた。


 それでいい。


「今日はこいつだけ」


 仕掛けはそのまま残してもいいかと考えたが。


「いや」


 水場を使う動物もいる。


 中途半端なものを残して、別の生き物が絡まる可能性もある。


「片付けるか」


 石は岸に戻し、枝も抜く。


 作った場所が完全に元通りになったわけではないが、大きな障害物は残さない。


「また使う時に作ればいい」


 魚を大きな葉で包む。


「帰ろう」


 帰り道。


 何度も葉の包みを見る。


「魚」


 少し笑う。


 初めて。


 果物以外の食べ物になるかもしれないものを、自分で捕まえた。


「まだ食べてないけどな」


 油断はしない。


 空き地へ戻る。


「ただいま」


 最近は、もう自然に出るようになった。


 返事はない。


 それでも。


「今日は土産あり」


 焚き火の近くへ魚を置く。


 まず手を水で軽く洗う。


「どう処理するんだっけ」


 魚を捌いた経験。


「ない」


 見た経験。


「ある」


「まただな」


 本当に、この繰り返しだ。


 知っている。


 でも、やったことがない。


「腹を開いて、内臓を取る」


 その程度なら分かる。


 石片の中から、一番薄く鋭いものを選ぶ。


 魚を押さえる。


「……滑るな」


 思った以上に滑る。


「これ、包丁でも大変そうなのに」


 石片で腹側へ小さく切れ目を入れる。


「硬っ」


 刃が悪い。


 少しずつ。


 本当に少しずつ進める。


 何度か石片を持ち替え、ようやく腹を開くことができた。


「…………」


 中身を見る。


「見ても分からないな」


 当然だ。


 魚の内臓を見て、健康状態を判断できるような知識は持っていない。


 ただ、変な臭いはない。


 明らかにおかしなものも見えない。


「内臓はやめとこう」


 今は身だけ。


 できるだけ安全そうな部分を食べる。


 内臓を取り除き、池から運んできた水を少量使って軽く洗う。


「水あるの、本当に便利だな」


 昨日までなら、これだけのために水源へ行く必要があった。


 小さな変化が、別の作業を楽にしている。


 処理した魚へ細い枝を通す。


「焼く」


 焚き火へ直接入れない。


 炎から少し離し、熱が当たる位置へ枝を固定する。


「焦がすなよ」


 じっくり。


 時々向きを変える。


 しばらくすると。


「…………」


 匂いがした。


「魚だ」


 焼けた魚の匂い。


「うわ……」


 腹が反応する。


「これ、反則だろ」


 今まで橙色の実ばかりだった。


 焚き火で魚が焼ける匂いなど、久しぶりどころではない。


「まだ」


 表面だけ焼けても駄目だ。


 中までしっかり火を通す。


 知らない魚。


 生焼けは怖い。


 焦げるくらいでいい。


「安全優先」


 時間をかける。


 身が白くなり、表面の一部が少し焦げた。


「……どうだ?」


 火から外す。


 少し冷ます。


 石片で身を開く。


「中も白い」


 赤い部分は見えない。


「よし」


 ただし。


 いきなり全部は食べない。


「最初は少し」


 身をほんの一欠片だけ取る。


 匂い。


 普通。


 舌先へ少し。


「…………」


 塩はない。


 調味料もない。


 ただ焼いただけ。


 それでも。


「うま……」


 思わず声が漏れた。


「魚だ」


 当たり前だ。


 でも。


「ちゃんと魚の味する」


 少し淡白で、前世で食べたものとは違う。


 それでも果物とは全く違う味だった。


「うまいな……」


 もう一口食べたくなる。


「待つ」


 我慢する。


 知らないものだ。


 少量を食べ、身体に変化がないか確認する。


 焚き火の前で。


 ただ待つ。


「…………」


 五分。


 十分。


「何ともない」


 すぐに安全と決めつけることはできない。


 それでも、今のところ痺れや吐き気はない。


「もう少しだけ」


 一口。


 また一口。


 骨へ気をつけながら、ゆっくり食べる。


「…………」


 美味しい。


 本当に。


「食事してる感じするな」


 橙色の実だって食事には違いない。


 でも。


 火の前に座り、自分で捕った魚を焼いて食べる。


 それだけで、随分と違って感じた。


「塩欲しいな」


 思わず口から出た。


「…………」


 魚を見る。


「塩」


 もう一度言う。


「絶対うまいだろ」


 焼いただけでも十分美味しい。


 それだけに。


「塩あったらなぁ……」


 塩を振った焼き魚。


 頭に浮かぶ。


「やめよう」


 余計に欲しくなる。


 最後まで一気には食べず、少しずつ時間を置きながら食べる。


 小さな魚なので、身の量は多くない。


 腹いっぱいには程遠い。


 それでも。


「ごちそうだった」


 残った骨を見る。


「これも何かに使える?」


 細い骨。


 針。


 そんなものが頭へ浮かぶ。


「…………」


 魚を捕るために、魚の骨で針を作る。


「二匹目からは少し楽になるかもしれない?」


 上手く加工できれば。


 まだ分からない。


「捨てずに置いとこう」


 内臓は拠点から少し離れた場所へ適当に捨てるのではなく、大きな獣を寄せる可能性を考えて処理する必要がある。


「匂いで何か来たら嫌だな」


 焚き火で焼く。


 それも匂いが出る。


「埋めるか?」


 穴を掘る道具はない。


 石片と枝を使い、空き地から少し離れた場所の柔らかい土を掘る。


 深くは掘れない。


「これくらいで意味あるのかな」


 分からない。


 それでも、寝床の横へ放置するよりはいい。


 土を戻し、上へ石を何個か置く。


「一応」


 空き地へ戻る。


 焚き火。


 樹皮の容器。


 水。


 今日食べた魚の骨。


「…………」


 できることが、また一つ増えた。


 魚を捕る。


 正確には。


「たまたま一匹捕れた、だな」


 毎回成功するとは思わない。


 今日の仕掛けも、かなり時間がかかった。


 一匹捕まえるために何度も失敗した。


「もっと楽な方法欲しいな」


 籠。


 釣り。


 もっと細くて丈夫な紐。


 骨の針。


「また道具だ」


 でも。


 それでいい。


 今日分かったこともある。


 岸の浅い場所なら、石や枝で魚の逃げ道を狭くできる。


 虫のようなものへ魚が寄ることもある。


 葦に似た茎は、細く裂けば簡単な紐の材料になるかもしれない。


 そして。


「魚は、少なくとも今のところ食えた」


 腹へ手を当てる。


 痛くない。


 吐き気もない。


「しばらく様子見だけどな」


 完全に安全だと決めつけるつもりはない。


 それでも。


 食べ物の候補が、一つ増えた。


 果物だけだったところへ。


 魚。


「大きいな」


 焚き火へ薪を足す。


 ぱちっ。


 火の粉が上がる。


 その向こうに、池の方向へ続く森が見える。


「明日も魚……」


 そこまで言って。


「いや」


 少し考える。


「毎日魚捕るのも大変だな」


 もっと効率のいい方法が欲しい。


 保存する方法も。


 味をつけるものも。


「塩……」


 また口から出た。


「欲しいな」


 水が欲しかった。


 水を運ぶものが欲しかった。


 魚が食べたかった。


 少しずつ手に入るたび。


 次に欲しいものが出てくる。


「本当に終わらないな」


 でも。


 それが少し楽しい。


 今日の飯は。


 小さな焼き魚一匹。


 腹いっぱいにはならなかった。


 それでも。


 この森へ来てから初めて。


「ちゃんと飯食った気がする」


 俺は焚き火の前で、少しだけ満足した腹を撫でた。


 明日には、また腹が減る。


 それなら。


 明日はまた。


 次の方法を考えればいい。

第16話を最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


この森では、見た目が前世の生き物に似ていても同じものとは限りません。


主人公は食べられそうに見えるものでも、できるだけ少量から確かめています。

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