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『魔法の使えない転生者、忌地の森をひらく』  作者: 森野余白
第二章「生きる場所を作る」

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第14話 水を持って帰りたい

第14話です。


毎日使う水を、少しでも扱いやすくしたい。


立派な道具はなくても、今ある材料でできることを探します。

「水を持って帰りたい」


 朝から何度目か分からない言葉を口にしながら、俺は大きな葉を両手で持ち上げた。


 昨日のうちに、なるべく幅があり、折ってもすぐ裂けなさそうなものを何枚か集めてある。


「まず、これ」


 葉の両端を持ち上げ、中央が窪むように折る。


 端を蔓で縛れば、見た目だけなら浅い袋のようになった。


「……いける?」


 自分で作っておいて疑問形になる。


 それでも試さなければ分からない。


 石斧と杖を持ち、葉の容器らしきものを抱えて湧き水へ向かった。


 岩の隙間から流れ出す水は、今日も変わらず澄んでいる。


「頼むぞ」


 葉の窪みへ水を受ける。


 少しずつ溜まる。


「お」


 持ち上げる。


 ぽた。


「…………」


 ぽた、ぽた。


「ああ」


 折った部分から水が滲み、さらに葉と葉の重なりから細い筋になって流れ始めた。


「早い早い」


 慌てて水を戻す。


 空き地まで歩くどころか、数十歩も怪しい。


「葉っぱ一枚じゃ無理か」


 何枚か重ねれば多少は違うかもしれない。


 だが、折る場所が増えれば隙間も増える。


「次」


 持ってきた樹皮を取り出す。


 最初の一枚は厚く、乾いていた。


 両端を曲げてみる。


 みし。


「やば」


 さらに少し力を入れる。


 ぱきっ。


「……ですよね」


 縁が裂けた。


 丈夫なのと、曲げられるのは別らしい。


「硬い樹皮は屋根にはいいけど、これは違うな」


 失敗した一枚を脇へ置く。


 次は、昨日倒木の近くで見つけた少し柔らかい樹皮。


 表面は硬いが、内側にまだしなりが残っている。


「これなら」


 大きく折り込まず、緩く丸める。


 両端を少しだけ重ね、蔓で固定する。


 底になる部分へ大きな葉を敷く。


「容器……というより筒だな」


 下側を絞っているので、見た目はかなり不格好だ。


 水を入れる。


「…………」


 すぐには崩れない。


「お?」


 持ち上げる。


 底から細く水が落ちる。


「漏れるな」


 でも、さっきより遅い。


「もう一枚重ねる?」


 一度水を捨て、同じくらい柔らかい樹皮を内側へ重ねた。


 折り目をなるべく作らず、外側の樹皮と少しずらして巻く。


 底には葉を二重にし、蔓を何周か回す。


「締めすぎると裂ける」


 緩すぎれば隙間が開く。


 何度か結び直す。


 指先が痛くなってきた頃、ようやく形が落ち着いた。


「これでどうだ」


 水を入れる。


 やはり少し漏れる。


 完全には止まらない。


「でも」


 両手で持ち上げ、しばらく待つ。


 さっきの葉だけのものほど急激には減らない。


「これなら、歩けるかも」


 問題は、ここから空き地まで持つかどうかだ。


「行ってみるしかないな」


 水をできるだけ多く入れる。


 両手で抱える。


 一歩。


 二歩。


 水面が揺れ、縁から少しこぼれる。


「ゆっくり」


 いつもなら数分で戻れる道が、妙に長く感じた。


 根を跨ぐ時は身体ごと傾けないようにする。


 枝を避ける時も、容器から目を離しすぎない。


 底からは、ぽた、ぽたと水が落ち続けている。


「頼む。全部なくなるなよ」


 誰に頼んでいるのか分からない。


 それでも歩く。


 途中で一度立ち止まり、中を見る。


「……まだある」


 最初より減っている。


 けれど、空ではない。


 また歩く。


 木々の隙間が明るくなる。


 空き地が見えた。


「あと少し」


 倒木。


 焚き火。


 自分で作った屋根。


 そこまで戻り、容器を地面へそっと置いた。


「…………」


 中を見る。


 思わず笑った。


「……半分以上残ってる」


 大成功とは言えない。


 運んでいる途中も漏れたし、縁からもこぼれた。


 このまま何時間も置けば、もっと減るだろう。


 火にかけるなんて絶対に無理だ。


「でも、持って帰れた」


 今まで水は、水場へ行かなければ飲めないものだった。


 それが今は、目の前にある。


 空き地の中に水がある。


「地味だけど、これ大きいな」


 喉が渇くたびに行く必要はない。


 作業の途中で少し飲める。


 雨の日にわざわざ水場まで歩く回数も減らせるかもしれない。


 樹皮の継ぎ目を触る。


「まだ改善できそう」


 もっと柔らかい樹皮。


 内側に敷く葉。


 蔓の締め方。


 やれることはいくつもある。


「完成じゃなくていいんだな」


 今日必要だったのは、水を保存できる立派な器ではない。


 水場から拠点へ運ぶものだ。


 その役目なら、今の粗末な樹皮の容器でも何とか果たせた。


「次は」


 持って帰った水を見る。


 透明だ。


 でも、安全だと保証されたわけではない。


 これまでも湧き口から直接飲んできたが、できるなら加熱したい。


「沸かせればいいんだけど」


 樹皮の容器を見下ろす。


「火にかけたら燃えるよな」


 当然だ。


 鍋はない。


 土の器もまだない。


「…………」


 焚き火へ視線を移す。


 その周りには石がある。


「そういえば」


 昔、映像で見た方法を思い出す。


 容器を火にかけられないなら。


「石の方を熱くすれば……?」


 知識としては覚えている。


 実際にやったことはない。


「いつものやつだな」


 少し笑った。


 水を運ぶ方法が一つできたら、その先の不便が見えた。


「明日は石か」


 焚き火の横に転がる石を見ながら、俺はまた一つ試すことを決めた。


第14話を最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


樹皮や葉は身近な材料ですが、形や乾き具合によって扱いやすさがかなり変わります。


完全な容器ではなくても、短い距離の水運びなら十分役に立つことがあります。

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