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『魔法の使えない転生者、忌地の森をひらく』  作者: 森野余白
第一部「森に居場所を作る」第一章「森で目覚めて」

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第11話 池を見つけた

第11話です。


青緑色の草については、まだ分からないまま。


答えの出ないことは一度置いておき、今回は危険な獣道とは別の方向へ探索範囲を少しだけ広げます。


そこで、新しい資源を発見します。

翌朝、目を覚ました俺は、身体を起こすと真っ先に昨日の違和感が残っていないか確認した。


「……大丈夫そうだな」


 腕を回す。


 立ち上がる。


 軽く歩いてみる。


 昨日感じていた身体の重さは、ほとんど消えていた。


 頭痛もない。


「やっぱり疲れだったのか……?」


 そう考える。


 でも、空き地の端に残した青緑色の草を見ると、単純な疲労だったと言い切る気にもならなかった。


「考えても分からん」


 この世界の植物について、俺には何の知識もない。


 調べるための道具だってない。


「一旦保留」


 分からないことへ執着して動けなくなるより、今できることを増やした方がいい。


「今日は……」


 地面へ描いた地図を見る。


 空き地。


 水源。


 危険な獣道。


 まだ何も描かれていない方向。


「こっち行ってみるか」


 獣道とは別方向だ。


「遠くまでは行かない」


 いつも通り、帰れる範囲だけ。


 石斧。


 杖。


 目印用の枝。


「よし」


 森へ入った。


 こちらには道らしいものがない。


 地面から張り出した根を避け、低い枝をくぐり、時々草を踏み分けながら進む。


「歩きにくいな……」


 昨日まで歩いていた獣道を思い出す。


「危険だけど、道って便利なんだな」


 何度か目印を残しながら進む。


 森の中は似た景色ばかりだ。


 油断すれば、すぐ方向を失いそうになる。


 太陽の位置も確認しながら歩く。


 十五分ほど経っただろうか。


「ん?」


 足が止まった。


「水?」


 何か聞こえた気がする。


 いつもの水源とは違う。


 さらさらと流れる音ではなく、時々小さく水が揺れるような音。


「この先か?」


 少し慎重になる。


 水場には動物が来る。


 ここ数日の経験で嫌というほど分かった。


 枝を避け、草を踏み分ける。


 木々の隙間が少しずつ明るくなっていく。


 そして。


「おお……」


 水面が見えた。


「池?」


 湖と呼ぶほど大きくはない。


 向こう岸も普通に見える。


 それでも、今まで使っている小さな水源とは比べものにならない広さだった。


「こんなのあったんだな」


 近付きかける。


 そこで足を止める。


「まず周り」


 水辺には動物が集まる。


 地面を見る。


「あるな」


 足跡。


 蹄らしきもの。


 小さな鳥のようなもの。


 他にも、何の生き物なのか分からない跡がいくつか残っている。


「長居はしない方がいいな」


 あの巨大な足跡は、今のところ見当たらない。


 それでも安全と決まったわけではない。


 周囲へ注意しながら池を見る。


「…………」


 何かが動いた。


「魚?」


 水面の下。


 細長い影。


「あ」


 もう一匹。


「いる」


 魚。


 少なくとも、俺にはそう見えた。


「魚かぁ……」


 思わず腹へ手を当てる。


 ここへ来てから、まともな肉や魚は一度も食べていない。


「食いたい」


 かなり。


 岸へ少し近付くと、魚影は素早く沖へ逃げた。


「そりゃそうだよな」


 手で捕まえるのは難しい。


「釣り……」


 糸。


 針。


 餌。


「ない」


 罠。


「紐がいる」


 網。


「さらに無理」


 手元の石斧を見る。


「お前じゃどうにもならないな」


 何でも石斧一本で解決するわけではない。


「でも、魚がいるって分かっただけでも十分か」


 今すぐ捕れなくてもいい。


 場所は分かった。


 池の周囲を、危険がない範囲で少し調べる。


「これ……葦?」


 岸辺に背の高い植物がまとまって生えていた。


 前世で見たものによく似ている。


 細長い葉。


 真っすぐ伸びた茎。


「似てるだけかもしれないけど」


 一本触ってみる。


「丈夫そう」


 ある程度しなる。


 屋根。


 敷物。


 編んだり。


 何かに使えるかもしれない。


「何本かだけ」


 必要以上に採らず、数本持ち帰ることにする。


 その時。


「ん?」


 足元の感触が少し違った。


「泥?」


 岸辺の一部だけ、土が妙に柔らかい。


 しゃがみ込み、指を差し込む。


「…………」


 普通の土より滑らかだ。


 手へまとわりつく。


 少し取って握る。


「形が残る」


 指で押しても、そのまま凹んでいる。


「これ……粘土?」


 胸が少し高鳴った。


「器」


 最初の夜からずっと欲しかったもの。


 水を運ぶ容器。


 水を溜めておくもの。


「作れるかもしれない」


 少しだけ掘る。


「重いな」


 水分を含んでいるせいか、思った以上に重い。


 大量に持ち帰るのは無理そうだ。


「何か運ぶもの……」


 周囲を見る。


 大きく幅のある葉を何枚か採り、その下へ薄い樹皮を重ねて簡単な受け皿のようにする。


「これなら多少はましか」


 そこへ粘土を乗せる。


 十分な量ではない。


 でも、最初に試す分ならこれくらいでいい。


 池を見る。


 魚。


 岸辺の植物。


 粘土。


「大収穫だな」


 言ってから首を振る。


「いや、まだ見つけただけか」


 魚は捕れていない。


 植物も使い方は分からない。


 粘土も、本当に器になるかは試してみなければ分からない。


「見つけるのと使えるのは別だな」


 石斧で嫌というほど分かった。


「帰って試そう」


 来た道を戻る。


 目印を辿れば、迷うことはなかった。


 やがて空き地へ戻り。


 焚き火の煙が見えた瞬間。


「ただいま……」


 自然と口から出た。


「…………」


 自分で少し笑う。


「誰もいないけどな」


 持ち帰った粘土を地面へ置く。


「さて」


 器を作ってみたい。


 でも。


「陶芸やったこと……ないな」


 テレビや本で見たことはある。


 実際にやったことはない。


「またこのパターンか」


 石斧の時と同じだ。


 知識は少し。


 経験はゼロ。


「とりあえずやるか」


 粘土へほんの少し水を加え、手で捏ねる。


「柔らかいな」


 丸める。


 中央を指で押し、少しずつ広げていく。


「こんな感じ……?」


 時間をかけ、器のような形へ整える。


「…………」


 地面へ置く。


 一歩離れる。


「器」


 近付く。


「……一応」


 形は悪い。


 厚いところ。


 薄いところ。


 全体的に歪んでいる。


「まあ、一個目だし」


 問題は、ここからだ。


「陶器は焼くんだよな」


 それくらいは知っている。


 でも、生の粘土をいきなり火へ入れていいのか。


「絶対割れそう」


 そんな気がする。


「まず乾かすか」


 焚き火の近く。


 ただし、熱が直接当たりすぎない場所へ置いてみる。


「ゆっくりだな」


 乾燥するまで別の作業をする。


 採ってきた葦のような植物を観察し。


 薪を整理し。


 石斧の蔓を締め直す。


 そして夕方。


「そろそろ……」


 器を見る。


「…………」


 何か線がある。


「ひび?」


 近付く。


「あ」


 底から細い亀裂が伸びていた。


「割れてる」


 まだ焼いてすらいない。


 乾燥の途中だ。


「失敗か」


 少しだけ落ち込む。


 でも。


「何が悪かった?」


 すぐに、そっちが気になった。


 厚さ。


 乾燥させる速さ。


 水の量。


 粘土そのもの。


「何か混ぜるとかあった気が……」


 思い出そうとする。


「分からん」


 今は分からない。


「まあ、もう一回やればいいか」


 池の場所は分かった。


 粘土もある。


 使ったのはほんの少しだけだ。


「一回目で成功する方がおかしいよな」


 石斧。


 屋根。


 火。


 何だって一度では上手くいかなかった。


「今日は……」


 指を折る。


「池、魚、葦みたいな植物、粘土」


 ひび割れた器を見る。


「十分だな」


 地面の地図へ今日歩いた方向を追加する。


 その先へ丸を描く。


「池、と」


 一歩離れて眺める。


 最初は、空き地の周りしかなかった地図。


 そこへ水源が増え。


 危険な獣道が増え。


 今日、池が増えた。


「俺が知ってる範囲、少しずつ広がってるな」


 ひび割れた器を見る。


「失敗したものも増えてるけど」


 それも悪くない気がした。


 何もなかった最初の日には、失敗するものすら何一つ持っていなかったのだから。

第11話を最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


今回は新しい水場となる池を発見しました。


魚だけでなく、葦のような植物や粘土も見つかりました。


ただし、見つけたからといって、すぐに使いこなせるわけではありません。


初めて作った粘土の器は、焼く前の乾燥途中でひび割れてしまいました。


次回、第12話で第一章は完結です。


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