第10話 変な草
第10話です。
獣道の先で、巨大な足跡を見つけた主人公。
今回は遠くへ出ることを控え、拠点の整備を進めます。
ただの草むしりのはずでしたが、少し奇妙なことが起こります。
「今日は大人しくしとこう」
翌朝、焚き火の前へ座りながら、昨日見つけた巨大な足跡を思い出す。
「探索は、しばらく近場だけだな」
森へ入ること自体をやめるつもりはない。
ただ、あの獣道の先は今の俺が行く場所ではない。
「だったら今日は……ここか」
空き地を見渡す。
改めて見れば、かなり草が生えている。
寝床の周り。
焚き火から少し離れた場所。
倒した木から取った枝を置いている辺り。
今までは気にする余裕がなかったが、この先材料や道具を増やしていくなら邪魔になる。
「草刈り……は無理だな」
石斧を見る。
細い草一本を切るためにこれを振り回すのは、どう考えても効率が悪い。
「抜くか」
しゃがみ込み、近くの草を根元から掴む。
引く。
ぶちっ。
「地味だなぁ」
もう一本。
さらに一本。
少し笑う。
頭の中で想像していた開拓は、大木を切ったり、家を建てたり、畑を作ったりするものだった。
現実は。
「草むしり」
本当に地味だ。
「まあ、何もないところからならこんなもんか」
一本ずつ抜いていく。
細長い葉。
丸い葉。
赤みのある茎。
ただの雑草だと思っていたが、よく見ると種類はかなり多い。
「知らない植物ばっかりだな」
そんな中、一つだけ妙な色が目についた。
「ん?」
青緑色。
青いというほどではないが、普通の草より少しだけ青みが強い。
「これ、結構あるな」
一株だけではない。
空き地のあちこちに、数株ずつまとまって生えている。
「今まで気にしてなかっただけか」
根元を掴む。
「よいしょ」
少し抵抗はあったものの、普通に抜けた。
「根は結構しっかりしてるな」
特別変な匂いもない。
汁が飛ぶわけでもない。
「まあ、普通の草か」
そのまま他の草と一緒に抜いていく。
一株。
二株。
五株。
十株。
しばらく作業すると、地面が少しずつ見えるようになってきた。
「おお」
一度立ち上がる。
「結構違うな」
草を片付けただけなのに、空き地が広くなったように見える。
「もうちょっとやるか」
気分が乗ってきた。
青緑色の草が多いところもまとめて抜いていく。
どれくらい続けただろう。
太陽が高くなり始めた頃。
「……ん?」
手が止まった。
身体が妙に重い。
「疲れた?」
朝からずっとしゃがんで作業していた。
それなら不思議ではない。
ゆっくり立ち上がる。
「っ……」
頭の奥が鈍く痛んだ。
「頭痛?」
ずきずきするほど強くはない。
ただ、朝にはなかった。
肩も重く、脚も少しだるい。
「昨日歩いた疲れかな」
一度休むことにする。
水源へ向かい、水を飲む。
「…………」
身体が重い。
寝不足。
昨日の探索。
単純な作業疲れ。
「まあ、どれかだろ」
空き地へ戻り、倒木の近くへ腰を下ろす。
しばらく休む。
「…………」
思ったほど良くならない。
「今日は終わりにするか」
無理をして倒れたら意味がない。
焚き火の近くは少し暑かったので、空き地の反対側にある木陰へ移動した。
こちらはまだ草をほとんど抜いていない。
当然、例の青緑色の草も多く残っている。
「ここで休むか」
木の根元へ座り、背中を預ける。
しばらく目を閉じる。
「…………」
数分後。
「ん?」
目を開ける。
「ちょっと楽になった?」
身体の重さが少し減っている。
頭痛も弱い。
「休んだからか」
普通ならそうだろう。
「なら、もうちょっとだけ」
立ち上がり、先ほど草を抜いていた場所へ戻る。
邪魔な草を数本抜き、枝を片付ける。
数分後。
「…………」
また。
「重い」
さっきよりはっきり分かった。
軽くなっていた頭が、また重くなっている。
「何で?」
作業を止める。
青緑色の草が残っている場所へ戻り、座る。
「…………」
少し待つ。
「やっぱり」
楽になる。
「え?」
今度はさすがに気になった。
草を抜いた場所を見る。
そして、青緑色の草が残っている場所。
「まさか……」
もう一度だけ試す。
草を多く抜いた場所へ移動する。
待つ。
「重くなる」
戻る。
待つ。
「楽になる」
「…………」
偶然と片付けるには、分かりやすすぎた。
青緑色の草の前へしゃがみ込む。
「お前か?」
当然、草は答えない。
葉へ触れる。
普通。
匂いを嗅ぐ。
「何もないな」
一本だけ引き抜き、根から葉まで眺める。
見た目は少し色が違うだけの草だ。
「毒?」
最初に考えた。
でも。
「毒なら、ある場所の方が楽になるのは変だよな」
花粉。
匂い。
何かの成分。
「分からん」
俺に答えを出せる材料はなかった。
「この草、何なんだ?」
手に持った草をしばらく眺める。
「全部抜くのはやめよう」
分からないものを無理に排除する必要はない。
少なくとも今は。
「体調悪くなる方を選ぶ意味ないしな」
青緑色の草については、それ以上触れないことにした。
夕方。
焚き火の前へ座る。
「まだちょっと重いな」
昼ほどではない。
身体を動かすこともできる。
「明日には戻ってるといいけど」
火へ薪を一本足す。
ぱちっ。
火の粉が上がる。
その向こうで、残しておいた青緑色の草が風に揺れていた。
「…………」
ここへ来てから、知らないものはいくつも見た。
見慣れない鳥。
変わった植物。
巨大な足跡。
でも、自分の身体がここまではっきり何かに反応したのは初めてだった。
「やっぱり……」
ここは、前世で知っていた場所とは違う。
「何なんだろうな、この森」
答えはない。
ただ、この森には俺が知っている自然とは違う何かがある。
そんな実感だけが、少しずつ増えていった。
第10話を最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
今回は拠点の草むしりでした。
ただの青緑色の草に見えますが、大量に抜いた場所では身体が重くなり、残っている場所では少し楽になる。
主人公には、その理由はまだ分かりません。
分からないからこそ、今は無理に排除せず、そのまま残すことにしました。




