悪霊
夜の始まり。
深い地下の暗がりで、
それは牙を剥いた。
ゴォォォォォ…
ホームに電車が入ってくる。
時刻はまもなく23時。
この時間、この駅を使う人はもうほとんどいない。
電車が止まると、2、3人程がパラパラと乗り降りする。
オルゴールがこだまするような発車メロディが流れ、
電車はまた走り出す。
私と真壁さんは駅のホームにいた。
ベンチに座り、入ってきては出ていく電車を
そのまま何度か眺めた。
ちなみに私達は私服姿。この時間に制服はさすがにまずい。
真壁さんは落ち着いたグレーのノースリーブワンピース。
私は白いTシャツとデニムのショートパンツ。
大人びた真壁さんに対して私のガキっぽさときたら。
「あ、真壁さんあそこ見て。やっと来たよ」
私はエスカレーターを指さす。そこには沖山さんがいた。
エスカレーターから降りて、リュックを肩にかけて
こちらに歩いてくる。
私達を見つけると、不機嫌そうな顔をする。
「なんでお前らがいるんだよ…」
「見張ってるって言ったじゃないですか」
「こんな時間に出歩くな。早く帰れ。
お前だけじゃない、真壁さんは電車なんだから、
帰りはもっと遅くなるだろ」
「真壁さんは今日私の家にお泊りなので大丈夫です。
ね、真壁さん」
真壁さんはピースしてニコリと笑う。
「…そういう問題じゃねえよ」
沖山さんは頭を抱える。
例え駅まで来ようが来るまいが、
沖山さんが私達に声なんかかけないことはわかっていた。
なので、待ち伏せしてたのだ。
「さ、行ってみましょう。
通路はそこのホーム端の階段です」
3人で地下通路の階段を進む。
人がやっとすれ違えるくらいの幅の狭い階段を降りると、
階段よりは少し広い程度の通路に出る。
それでも幅は2mもない。
その通路はまっすぐ反対側のホーム下までのびており、
普通に歩けば十数秒で向こうの階段に足をかけられる距離。
白い壁に染み出た水の跡が、
薄暗い照明に照らされて妙に不気味だ。
沖山さんは通路の中ほどまで進むと、辺りを見回した。
私達も沖山さんについていく。
「ねえ真壁さん、その人影を見たのって、
どの辺りなの?」
「ちょうどこの辺かな、真ん中くらいだったよ。
最初は声みたいのが聞こえてきたんだけど…」
「声か…沖山さん、何か聞こえます?」
沖山さんを見る。
「今のところ何も聞こえないな。
それに、何かがいるような気配もない」
「うーん…」
「少し待ってみるか」
沖山さんは通路の壁に寄りかかる。
ふと私の方を見て、沖山さんが言う。
「お前、親にはちゃんと居場所伝えてあるんだろうな」
「うん。沖山さんと一緒にいるって伝えてあるよ」
「あ?俺と一緒って…
お前の親、俺の事知ってるのか」
「うん、前園さんの知り合いのフリーターさん、
って言ってある」
「…それ、親からしたら心配じゃないか?
どこの誰かもわからない男と一緒にいるって事だろ」
「あ、大丈夫ですよ。
前園さんの知り合いなら安心ね、って言ってたし」
前園さんは近所でもみんなに頼られる人だ。
子供達も前園さんのお寺で遊ばせておけば安心だし、
古くからこの街に住んでいて、何かあれば
色々と相談も聞いてくれる。
うちの親も、前園さんの人柄に信頼を置いている。
そしてその前園さんの知り合いである沖山さんもまた、
前園さんのネームバリューでうちの親に信頼されたわけだ。
「じいさんの知り合いってだけで信用してもらえるのか。
なんか、お手軽だな…」
「昔ながらの地区なんで、そんなもんですよ」
…ァ…
「そういえば…
お前ら今日も俺のバイト先に来たよな。
まったく、明日じゃダメだったのか?」
「あはは、すみません。
あの記事見つけて少し興奮しちゃって。
早く伝えたいな、って。
ていうか、どうせ沖山さん明日もバイトじゃないですか」
…ァァ…ァ…
「でもほら、沖山さんと話したあと、
ちゃんと飲み物とか買って帰りましたから。
お客様ですよ?私達」
「ついでに買っただけだろ。
せめて買うなら3000円以上は買え」
「あ、いけないんですよ?
買った金額でお客さん差別するの」
「知り合いだから話は別だ」
…ァァァァァ…
「そういえば、帰りがけに店長さんに会ったので
ちゃんとこの間のお礼言っておきました。
沖山さんの早上がり、ご迷惑おかけしました、って」
「なんで俺が悪い事になってんだよ。
だいたいお前らの来るタイミング…」
「あの!」
真壁さんが私達の間に割り込む。
「あの、聞こえる気がするんですけど、声」
「え?」
私と沖山さんは耳をすませる。
アアアアアー…
沖山さんが身構える。
私も周りを見回した。
まだ何も見えない。
でも、確かに聞こえる。男の人の、絶叫するような声。
この通路の先、反対側のホームに続く階段を見つめる。
ブワッ
反対側の階段から、突如何かが転がり落ちてきた。
オレンジ色にゆらゆらと揺れる、人影。
その人影は階段下に倒れ込む。
アアアアアー!
そのまま狂ったように叫びながら立ち上がると、
こちらに向かって走ってきた。
「うわ!沖山さん、来ましたよ!」
沖山さんの袖をつかむ。
「わかってる!邪魔だ!引っ張るな!」
沖山さんはリュックから霊水の瓶を出して、構える。
苦痛に頭を押さえるような、もがくような動きのそれは、
よろめきながらすごい速さで走ってくる。
私達に向かって来ているというよりは、
とにかくこの通路を駆け抜けようとしているように見える。
だからといってこの狭い通路で、
それを避けるようなスペースは無い。
目の前まで迫ったその人影に、沖山さんは瓶の水をかけた。
バシャッ
水がかかったその瞬間。
人影は蒸発したかのように、一瞬にして消えた。
あっけなく、跡形もなく。
「…消えた?
倒せたんですか?」
「霊水は確かにかかった。
それで消えたのは間違いないが…」
「そうですか、良かった…」
私達は、そのまま人影の消えた場所を見つめた。
壁や床に、沖山さんがばらまいた水がかかって濡れている。
あっけない。
それが、正直な感想だった。
しかし。
…ァァァァァ…
また、聞こえてくる。
私は奥の階段を見た。
再び、オレンジ色に揺らめく人影が転がり落ちてきた。
階段下に倒れ込むと、立ち上がってこちらに走ってくる。
アアアアアー!
「ひぃっ!」
私は恐怖で立ちすくんだ。
真壁さんも口に手を当て震えている。
沖山さんは小さく舌打ちすると、
リュックから例の、縄のついた霊山の石を取り出す。
くくりつけた縄の部分を持って振り回し、
勢いをつけて迫ってくる人影に放った。
ボウンッ
当たった瞬間、人影はまたあっさりと霧散する。
「沖山さん…なにこれ…」
「こいつは、ただの念だ…。
感情や記憶が残っただけのもの…本体じゃない」
…ァァァァァ…
「ひゃっ!うそでしょ…
何度も来ますけど…?」
「念は一度吹き飛ばしたところでいくらでも湧く。
こいつはきっと…」
奥の階段。またオレンジ色の人影が転げ落ちてきた。
先ほどとまったく同じ。
階段下に倒れ込み、立ち上がり、こちらに走ってくる。
アアアアアー!
沖山さんが石を放つ。
当たった瞬間、また人影は消える。
「きりがないな…」
沖山さんが不機嫌そうに言う。
「こいつはきっとお前らが調べた強盗犯の霊だろう。
火だるまになって地下通路に転げ落ちて、
死に物狂いで走り抜ける…あの記事にあった犯人の
最期の動き、そのままだ。
でも本人の意識はここにはない。
強すぎる念だけが、自分が死んだ最期の瞬間の記憶を
ずっと繰り返してる」
「記憶だけなんですか…?あれ」
「そんなとこだろう。だから何をいくらぶつけても
一時的に散るだけだ。意味がない。
前園のじいさんの小言を一度遮ったところで、
いくらでも説教される、あれと一緒だ」
「たとえが全然上手くないです!
あと私は前園さんにお説教された事なんてありませんよ」
あの温厚な前園さんにしつこくお説教されるのなんて、
きっと沖山さんくらいだ。
「とにかく、あいつ本人の意識をなんとか覚まして、
本体と向き合わないと話にならない」
…ァァァァァ…
また来る。
奥の階段からオレンジ色の人影が転げ落ちてくる。
その瞬間、沖山さんは人影に向かって叫んだ。
「おい!お前、いい加減にしろ!目を覚ませ!」
人影はまた先ほどと同じ動きで階段下に倒れ込む。
「お前はもう死んでるんだよ!20年も前に!」
沖山さんは大声で呼びかける。
「沖山さん…何してるんですか?」
「あいつに自分の事を具体的に思い出させる。
本人の意識を覚まして、引っ張り出すんだ」
人影は、ゆっくり立ち上がる。
「聞こえてるか!お前はずっと前に死んだ!
盗みに失敗して、警察から逃げて、
その途中この通路で焼け死んだんだ!」
人影は、立ち尽くしている。
「もう諦めろ!お前は死んだ!」
すると…
人影は動きを止め、その場で頭を抱え始める。
グアアアアアアアアアアアー!
ひときわ大きな声が響く。
オレンジの人影の、周りの空気が変わった。
明らかな炎の形が巻き上がり、
その声には恨み、怒り、苦しみのような感情が渦巻く。
「沖山さん…なんか雰囲気が変わりました…」
「ああ…本人の意識が起きた。
自分の最期、自分が死んだ事、自分の人格、
全部思い出したんだろう」
沖山さんは人影を睨みながらいう。
「…で、ちょっとまずいことになった。
あいつ、悪霊になった」
「へ?」
「逃げるぞ!後ろの階段まで走れ!」
沖山さんは私達にそう叫ぶと、
リュックから瓶を数本取り出して身構えた。
「ひぇ!」
(なんかヤバいんだ!)
私は咄嗟にそう理解すると、真壁さんの手を握って
もと来た階段に向かって駆け出した。
「真壁さん、走って!」
「うん、わかってる!」
私達は止まらずに走る。
先ほどの階段の入り口まで着くと、沖山さんを振り返る。
沖山さんは先ほどの位置で、悪霊を迎え撃とうとしていた。
掴みかかろうとしている相手に、霊水をばらまく。
しかし…
ジュワッ
霊水は確かに相手にかかったが、その勢いは止まらない。
悪霊は沖山さんに飛びつくと、勢いよく壁に押さえつけた。
衝撃でリュックがこちらの足元まで転がってきて、
霊水の瓶が散らばった。
「ぐ、う…」
沖山さんがうめく。
悪霊につかまれた沖山さんの腕が、
みるみるうちに火傷のようにただれていく。
悪霊から吹き出す炎が、沖山さんを包んでいく。
「沖山さん!!」
沖山さんの体はあっという間に火だるまになっていく。
(嘘でしょ…!)
次の瞬間。
ドガッ
悪霊に霊山の石がめり込み、数メートル吹き飛んだ。
沖山さんは縄を掴んで石を自在に振り回すと、
悪霊を睨みつける。
腕には火傷のようなあとが浮かんでいる。
でも、燃えてない。
「心配するな。本物の火じゃない」
沖山さんは私に言う。
「念が見えてるだけだ。このクソゴミカス野郎のな」
クソゴミカス野郎とは…。
どうやら沖山さん、これまでで一番機嫌が悪そうだ。
「今つかまれた時に、こいつの考えが見えた。
こいつは体についた炎にもがきながら、
頭の中はまだ金目の物や、邪魔するやつを始末する事、
そして自分が逃げるしか考えてない」
沖山さんの声が低い。本当に怒っているようだ。
「死んだ瞬間も、そしてその後20年近くの間も、
ずっとそんな事しか頭になかったんだろう」
自分の腕や顔についた火傷のあともそのままに、
沖山さんは悪霊に向かってゆっくりと歩いていく。
「本体が出てきたおかげでこの石が効くようになった。
ここからは俺の番だ。
…覚悟はできてるんだろうな」
グアアアアアアア!!
悪霊が体を起こす。こっちも怒っているようだ。
憎しみのこもった声が発せられると、
火の塊のようなものが周りにばらまかれた。
沖山さんは表情を変えずに体をひねってそれをかわすと、
縄を両手で引いて勢いをつけ、
霊山の石を思い切り叩きつける。
バァン
悪霊はゆらりと避け、石はコンクリートの床を割った。
つかみかかってくる悪霊。
沖山さんは縄を操り、引き戻した石で悪霊をたたき落とす。
「ねえ、海野さん…なにあれ」
真壁さんが沖山さんを見てつぶやく。
「沖山さんはね、悪霊退治の人なんだ。
私も本気で戦ってるのは始めて見たよ」
「いや、そこじゃなくてさ」
(おや?)
「なんであんな、西瓜のネットに石入れたみたいな
もので戦ってるの?
しかもなんか手作りっぽいし…」
「真壁さん…」
「助けてもらってなんなんだけど、
あんまり、かっこよくないというか…」
「真壁さん」
「あ、ごめんごめん、その…」
「ううん、私もそう思ってる。同感。
でも言わないであげて。あれが本人にとって
最適な方法らしいんだよ、センス無いけど…」
「お前ら、聞こえてるからな!」
沖山さんが石を振り回しながら叫ぶ。
戦いに集中してほしい。
沖山さんは武器を振り回しながら、
悪霊と、その体から放たれる火の玉を叩き落としていく。
一瞬の隙をついて、沖山さんが石を横薙ぎに振る。
悪霊は人の形を崩すようにありえない角度に首を引く。
バンッ
石は悪霊をかすめて、横の壁を叩き割った。
沖山さんと悪霊は睨み合う。
一進一退。
すると、一瞬悪霊がこちらを見て、狡猾な笑みを
浮かべたような気がした。
そして、その体からまた火の塊が飛ぶ。
沖山さんをかすめ…私に向かって飛んでくる。
「いいぃっ!」
私は避ける暇もない。そのままの体勢で、
身をすくめる事しかできなかった。
「美風!」
沖山さんが振り返りざまに石を振り、
火の塊をはたき落としてくれる。
しかしその瞬間に悪霊は沖山さんに飛びかかり、
地面に押し倒した。
「ぐっ…」
沖山さんの喉からくぐもったうめき声が漏れる。
「沖山さん!」
沖山さんは後ろから押し倒されたような形になり、
うつ伏せで悪霊に背を向けたまま押さえこまれた。
グワアアアアア!
悪霊は体から炎を巻き上げ沖山さんを包み込む。
沖山さんの体が、顔が、焼けただれていく。
「沖山さんっ!」
私は咄嗟に動いた。
(沖山さんが死んじゃう!)
目の前に散らばった霊水の瓶を両手に拾い上げ、
ふたを開ける。
「うわああああ!」
そのまま沖山さんと悪霊のところに走り込んだ。
霊水がこの悪霊に効かないのは、さっき見てわかってる。
私は思い切り中身をぶちまけた。
…沖山さんに向かって。
バシャァッ
沖山さんは頭から霊水をかぶり、頭から肩、腕にかけて
びしょ濡れになる。
「…お前」
沖山さんが私を見る。
「なかなか、いい判断だ」
にやりと笑う。
霊水のかかった沖山さんの体。
濡れた部分には、念で作られた炎は届いていない。
沖山さんは縄を引き戻すと、
その勢いで覆いかぶさっている悪霊に石を叩きつけた。
うつ伏せの状態で、器用に。
悪霊が吹き飛ぶと、起き上がり、構えなおす。
「助かった。借りにしとく」
沖山さんは私に言うと、悪霊が体勢を立てなおす前に
一気に走り込む。
悪霊は沖山さんに火の塊を飛ばす。
沖山さんは、霊水で濡れたままの手でそれを掴んで、
握りつぶした。
「うおおお!」
そして渾身の力を込めて、縄を振る。
ブゥン、という空を切る音と共に、霊山の石が悪霊に振り下ろされた。
パァァァン!
高い破裂音。
石は悪霊に直撃。その瞬間、悪霊の身を包んでいた炎が
はがれて吹き飛んだ。
真っ黒く焼け焦げた炭のような体が残り、静止する。
そして、輪郭にひびが入り、崩れるように消えていった。
…
通路には静寂が戻り、私達3人だけが残った。
肩で息をしながら悪霊の崩れ去った地面を眺める沖山さん、
階段で両手を口に当て、目を見開いて震える真壁さん、
そして、威勢よく飛び出して霊水をばらまいたあと、
その場で腰を抜かして座り込んでいる私。
「終わりましたか…?」
「ああ。もう二度と奴がこの通路に出てくる事はない。
…お前たち、大丈夫だったか?ケガは?」
「大丈夫です。
でも、沖山さんが…」
沖山さんの両腕や顔には焼けただれたようなあとが。
「…って、あれ」
焼けただれたようなあとが、あるにはあった。
でもさっきより、全然薄くなっている。
「言っただろ、本物の炎じゃない。
この焼けあとも真壁さんの腕についたアレと同じだ。
ただ念がこびりついて、焼けただれたように
見えてるだけだ」
「あ…」
「お前が思いっきり霊水ぶっかけたおかげで、
だいぶ念が払われた。
それに、その怨念ばをらまいていた本人も、
もう消えたしな」
沖山さんはそう言うとリュックを拾い上げ、
残っていた瓶を取り出して、開ける。
そして中身をタオルに染み込ませて、顔に当てた。
「こうしてなじませておけばすぐに落ちる」
余裕そうな笑顔を見せてくれる。
私は安心した。少し、泣いていたかもしれない。
そして、その霊水の瓶を眺めながらなんとなく、
昼間にスーパーで見た台所洗剤のボトルを思い出していた。
頑固な油汚れもこれ一本。
…頼もしい。
…
その後は少しだけ大変だった。
ほとんど人のいない時間だったとはいえ、沖山さんが悪霊と戦う音は階段の上まで聞こえていたらしい。
私達がホームに上がると、そこには駅員さんの通報を受けて
駆けつけた数人の警察官がいた。
こちらの状況といえば、
縄を巻き付けた石を担いだ傷だらけの男が1人。
こんな時間に高校生が2人。
そして地下通路には、壁や床に派手な割れ目や傷。
水も撒かれて、ところどころびちゃびちゃ。
…連行は免れそうにない。
でも意外なことに、警察官は沖山さんの顔を見た途端
顔つきを緩めた。
「なんだ、沖山さんじゃないですか」
慣れた相手のように声をかけてくる。
そして、事を穏便に済ませたのだ。
「沖山さん、お巡りさんと知り合いなんですか?」
「まあな…」
聞くと、警察で対応するにはちょっと畑の違う怪異など、
度々依頼を受けて代わりに対応しているらしい。
今回の事も内容を聞くとあっさり納得して、
警察側で後処理をしてくれた。
つまり、通報をもみ消したのだ。
「沖山さん、顔が広いんですね」
「大したことはない。いいから帰るぞ」
…
私達は駅を出た。
地上に上がると、目の前には真っ暗な川とそこにかかる橋、そして、街の明かり。
上を見れば、少し霞んだような夏の夜空。
3人で帰路につく。
「…あ、ねえ沖山さん」
「どうした?」
「沖山さんさっき私の事、
美風、って名前で呼びましたよね」
「なっ…」
沖山さんが固まる。
「ほら、悪霊が私に火の玉飛ばしてきた時。
美風!って呼び捨てで。
これまではお前としか呼んでくれなかったのに」
「…呼んでない」
「呼んでましたよ?
ね、真壁さん」
真壁さんに聞く。彼女はニヤニヤしながら答える。
「呼んでた!確かに!」
「…呼んでない」
沖山さんは顔をそらす。
「前園のじいさんがいつもお前を名前で呼んでるから、
咄嗟に出ただけだ」
どうやらその咄嗟で思わず女子の事を名前で呼んでしまい、
恥ずかしがっているようだ。
かわいい。
沖山さんの様子を見て真壁さんも爆笑している。
「私は別に美風って呼んでくれて良いですよ?
ほらほら、呼んでみて下さいよ」
「…もういいだろ。早く帰るぞ」
静かな街。
夜に歩く街中もこれはこれで、
何だか不思議な空気に包まれていて楽しかった。




