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リナニア戦記 ~悪役貴族と転生従士は平和の国の夢を見るか~  作者: なるのるな
5 邂逅

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6 学院への帰還

 ◆◆◆



 そこは宿舎。有力な貴族子弟らに割り振られた、宿舎という体で用意されている個別の邸宅とは違い、在籍する者たちが年度によって入れ替わりながら利用するという、言葉通りの宿舎であり寮。


 貴族子弟らが直接利用するというよりは、その従士や使用人が一時的に利用したり、あるいは素質を見出され、平民のまま〝魔導士〟として学院に在籍を許された者たちが利用する場。


 広大な学院の敷地にあって、宿舎はヘルメイス魔導学院においての基礎部門の施設に併設されている。


 そんな宿舎の一室にて、とある主従が語らっていた。


「――くく。それにしても、以前にも増して居心地の悪さを感じるな」


「ええ。ですが、周囲もどう接していいのか困っているのでは? ダグラス様が除籍になっているのは事実ですし、こうして学院に入り込んでいるのは、あくまでサリーア様の客分従士という立場によってですし……」


 宿舎の部屋は、貴族子弟らが使う見込みはほぼないとはいえ、流石に街の安宿などとは比べ物にならぬほどにしっかりとした作りとなっている。また、一応は貴族子弟の利用も視野に入れられており、従士や使用人用の部屋もしっかりと用意されていた。


 今は他の者の目もないため、主と従士という形式に拘らず、ダグラスとカティは応接用のローテーブルを挟み、お互いに一人掛けのソファに腰掛けて向き合っている。


「ふっ。確かにな。今の俺の中途半端な立場を考えると、周りからすればなかなか触れたくない人物なのは間違いない」


 自嘲気味ではありつつも、どこか楽しげでもあるダグラス。


 すでに一年以上前。


 従士カイトとの決闘を終え、サリーアの従士となり、マーヴェイン家の縛りを脱して学院を除籍となり、〝悪役貴族キャラ〟の役目を果たして舞台を下りた。


 なのに、まさか再びこのような形で魔導学院に戻って来ようとは……流石にダグラスも考えが及ばなかった。


「――それで? カティとしてはどうしたい? フリント殿からの()()通り、例のミリオス・ビーリルの周辺に接触するか?」


 馴染みであるブレイクたちと共に、ダグラスとカティは魔導学院へと戻って来た。ファルべの街を出てからの道中は、本当に平和そのもの。ただ整備された街道を馬車によって移動しただけ。


 街道沿いの宿場で出会う商人たちからは、比較的人里に近い街道であっても賊が出るようになった、貴族様の支払いが渋くなっているなど……治安の悪化を含めた景気の悪さ、不穏な空気感を伝える言葉が出てきたりはしていたが、直接的にダグラス一行が賊の襲撃を受けることはなかった。


 ただ、そんな道中ではあったものの、ダグラスとカティが〝原作〟を踏まえたこの先についてを相談する機会などはない。


 訓練所時代、カティは『よく分からない物語の話をする、よく分からないやつ』という評価であり、ブレイクたちの前で少々〝原作〟の話をしてもスルーされてはいるが……流石に込み入った話まではできない。


 あまりにも怪しい動きを見せてしまうと、ブレイクたちも雇い主に報告せざるを得なくなる。


 魔導学院に帰還し、諸々の手続きの末に宿舎の利用を許可され、今、ようやく〝込み入った話〟ができる環境に落ち着いた次第。


「そうですね。せっかくサリーア様が温情を掛けて下さったのですし、ミリオス様の周辺を探る〝フリ〟くらいはしなければならないでしょう」


 カティも色々と考えた。〝平和な国(エンディング)〟に辿り着くにあたり、それなりの自由が許される立場というのは――やはり〝主人公側〟に属するのが手っ取り早いと。


〝悪役貴族キャラ〟というそもそもの立場を考えれば、舞台を下りた直後は主人公サイドと距離を取るしかなかったが……今なら別の可能性もある。


「ふむ。まぁサリーア様の温情をまるで無視するわけにもいかんだろうな。だが、その〝ミリオス〟という者はリナニアの王子であり、〝原作〟においては最後の敵なんだろう?」


「ええと……名目上はそうなのですが、ただの敵ではなく〝リナニア戦記〟の最終エピソードを飾るもう一人の主役と言いますか――カイトはミリオスを救うために戦うという感じです」


『苦楽を共にした仲間であり友であった者が終盤に敵へと回る。だが、主人公はそれでも友を殺したいわけじゃなく、その敵にしても、抜き差しならぬ事情によってそうなってしまった』


 エンタメ作品としてはありがちな展開なのだが……


「ん? よく分からんな。〝ミリオス〟は平和になったリナニアが気に食わず、王家が継承してきた繁栄の(いしず)である古代魔法を停止させようとするのだろう? たとえ戦の立役者や王子という立場であれ、国家転覆の意を表明し、実際に行動に移せば反逆者だ。救うもなにもないだろうに……」


「ま、まぁ、それはそうなんですが――〝リナニア戦記〟においての〝ミリオス〟は反逆者を前面に出しておらず、あくまでカイトの仲間であり友という面を強調していましたので……(うーん、こういうところで文化の違いが……というか〝リナニア戦記〟はあくまでもエンタメ作品(ゲーム)だったしなぁ)」


 リナニア王国には、その繁栄を支えるための古代魔法が国土に敷かれており、その管理をリーンゼアル王家が担ってきたという背景設定がある。


〝原作〟においての〝ミリオス〟は、ギルギアス王国との戦が終わった後、めでたしめでたしで終わりそうなシナリオの終盤に突如として、その古代魔法を停止させようと動く。


 ちなみに、そんな〝ミリオス〟に〝フェリシア〟も付き従う。序盤からの主力メンバーでありメインヒロインの彼女が、いきなりパーティメンバーから抜ける仕様はユーザーから受けが悪かったらしいが……。


 なにはともあれ、カティの前世で考えれば〝ミリオス〟たちの行為は、原子力発電所に忍び込み、機能停止を狙うというのに等しい。


 完全にテロ行為だ。


 普通に考えて捕まる。というより、捕殺されても文句が言える立場じゃない。


 前世基準であっても、ダグラスの感覚の方が至極真っ当だと言える。


「おほん。と、とにかくですね、〝ミリオス〟の暴挙を主人公が止めに入り、全力で戦いながらも、最後は和解してめでたしめでたしとなるわけです。で、結局はその〝ミリオス〟がリナニアの王となり、主人公はヒロインの〝フェリシア〟と共に彼に仕え……王国は平和の時代を謳歌しましたとさ。で、後はエピローグにて終了です」


 端折って説明するカティ。細かいところまで言えばキリがないと、ばっさりと切り取る。


「ふむ……特級オーブを扱う魔導士が、お互いの姿が視認できる距離で全力で戦えば、周辺の地形ごとただでは済まないと思うのだが? その古代魔法の施設ごと吹き飛ぶんじゃないのか? そんな状況でお互いに生き延びて和解? そもそも、そんな反逆者が王になる……?」


 カティの苦心も知らずに、細かいところをツッコむダグラス。


「ふぅ……ダグラス様、今はそんな細かいことはいいんです。今さらですが、あくまで私が語っているのは〝リナニア戦記〟という物語なのです。この世界の実情と掛け離れた描写があるからといって、私に言われても困ります。――()()()()()()()()()()()?」


「おま……ッ……あー分かった分かった。いちいち細かいことは口にしない。分かったから槍をしまえ」


 ソファに腰掛けたまま、目の座ったカティがダグラスの眼前に短槍を突き付けている。強制的に相手を黙らせる手法。細かい男は嫌われるというやつだ。


「ありがとうございます。流石は我が主。乙女心の分からぬ殿方ではありますが、一度の注意で身を正すのことができるというのは、それなりにマシな部類かと……」


 慈愛に満ちた微笑みを浮かべながら、なにもなかったかのように短槍を消すカティ。


「……えらく物騒な乙女心だ。カティは俺のことを〝悪い意味で戦闘狂へ変わってしまった〟などと言っているが、一体どの口がだ? 確か――〝身を守る以外での暴力の行使は好きになれません〟とか言ってただろうが……」


 マシな部類の主からの、呆れと悔しさの混じった抗議だ。


 実のところ、短槍を突き付けられたことに対して、ダグラスはまともに反応できなかった。出遅れてしまった。


 殺気もなく()()()が極端に少ない、流れるような所作を見せたカティに、あまりに自然に暴力を見せた従士に……戦闘狂なダグラスは少々疼く。


 バールライラを経て変わったのは、彼だけではなかった模様。


「ダグラス様、乙女心というのは移り変わるものなんですよ?」


 ただ、指摘を受けたカティの方は〝私は正真正銘、純真無垢な乙女です〟という顔のままに、こてんと首をかしげながら流す。


「く……ッ! 相変わらず図々しいやつだな! まったく……」


「さて、ダグラス様。そんなどうでもいい話は終わりにして、私たちの今後の身の振り方についてです」


「おま! …………ふぅ……分かった分かった。それで? ここから俺たちが〝主人公側〟に付くにはそれなりの振る舞いも必要だろう。どう立ち回るつもりだ?」


 深呼吸を一つ。身勝手な不良従士への諸々を飲み込んだ。なんだかんだと言いながらも、ダグラス・マーヴェインは配慮のできる男だ。


 乙女がどうのと言い出したエセ乙女(カティ)には、なにを言っても無駄。同じ舞台に立たず、負けるが勝ちだと学んできた。


「あの廃村での件は事故のようなものでしたが、すでに主人公(カイト)は、ダグラス様が〝うつけ〟ではなかったと思い直していることでしょう。そして、その情報は、主であるフェリシア様とも共有しているはずです」


「当然にそうしているだろうな」


 カイトがまともな思考力を持っていれば、かつてのマーヴェイン家の〝うつけ〟という姿が、周囲を欺くための演技(モノ)だと思い至るはず。


 カティはそう考えている。それらの考察について、ダグラスも理解している。


「――ならば、ここは()()()からの接触を待ちましょう」





 ◆◆◆





 ヘルメイス魔導学院にて噂は巡る。


 曰く、学院を除籍になったものの、どういう経緯か、深窓なるバルボアナの御令嬢の客分従士として学院に戻って来た者がいるらしい。


 曰く、その者はかつて〝うつけ〟と後ろ指をさされていたにもかかわらず、戻って来た今はまるで佇まいが違うのだとか。


 曰く、裏でどのような動きがあったかは不明ながらも、その者はしばらくは〝従士〟として学院に留まるのだとか。


 真相を知る者も多くを語らない。直接その者へ話を聞きに行く者もいない。


 噂は巡る。





 ◆◆◆

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乙女(脳筋)だあ
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