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リナニア戦記 ~悪役貴族と転生従士は平和の国の夢を見るか~  作者: なるのるな
5 邂逅

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4 ダグラスとカティの先行き

 ◆◆◆



 一方のダグラスとカティ。


〝主人公〟との望まない遭遇を経て、彼らはそのままファルベの街への帰途につく――はずもない。白々しい擬装だ。


 打ちひしがれる主人公を背に廃村を出たが、少し進んだ先で二人は街道を外れて位置取りをする。()()()の動きを確認するために。


 ただ、街道は整備され、破棄されたとはいえ周辺は農地だったため見通しはいい。月明りだけを頼りに街道を行き交う奇特な者はいないが、魔力による強化ありきならば、昼間よりは劣るも周囲の状況を見通す程度は可能だ。


 そのため、ダグラスとカティは放棄された農具用の小屋に身を潜める羽目になってしまう。


「しかし、なんだな。まさか従士カイトと、こんなにもくだらない一戦を交えることになるとは……」


 廃村でカイトに気付かれた反省から灯りはなし。つまり、現状は真っ暗なままの狭い小屋であり、そこで身を縮めながらダグラスはぼやく。


「確かに予測不能ではありましたが……サリーア様に〝私たちが従士カイトを気にしている〟と看破された時点で、ある意味では仕方のないことだったかと……」


 主のぼやきに従士が静かに応じる。


 舞台を下りたにもかかわらず、再度〝主人公〟と関わってしまったが……どこかでカティは諦めもあった。〝嫌な予感〟がどうにも収まらなかったから。


 こうなった直接の要因はサリーアが発端であり、どうにも彼女は、思っていた以上にダグラスへの執着が強い模様。


「ふむ。次に直接会った際、そのまま客分従士を辞する旨を告げるつもりだったのだが……この分だと、素直に聞き届けてはくれなさそうだな」


「ええ。サリーア様は、私たちの知る知識や思惑を暴こうと執心されているようです。今のところ力尽くでないのが救いですが、果たしてこの先はどうなることやら……」


 サリーアは着々と〝原作〟の流れに乗っている。このままであれば、彼女は〝リナニア戦記〟の役どころ通り、〝主人公側〟と敵対することになる。


 その時まで――表立った衝突が起こる第二部の中盤まで、ダグラスたちはのんびりとサリーア陣営に居残るつもりなどなかった。


「ふっ。サリーア陣営は、このまま留まるにしろ出て行くにしろ……どちらにせよ()便()にはいかんか……くくく」


 悪役貴族キャラの面目躍如とばかりに、にたりとした笑みを浮かべるダグラス。どこかで彼は、自身に不利となりそうな今の状況すらも楽しんでいる。


 たとえ自身が主人公の敵側に回ろうとも、ダグラスは〝リナニア戦記〟の()()自体を止めるつもりはない。


「はぁ……ダグラス様は楽しそうでなによりですね。マーヴェイン家で冷遇されていた頃の我が主は、斜に構えて達観していたというか、混迷を望む破滅願望みたいなモノがあったと記憶していますが?」


「ふはは。共に過ごしてきた癖に今さらだな。確かに()()は、混迷の中で右往左往する貴族連中の不甲斐なさを夢想し、そんな連中を高みから見物するのを心待ちにしていたが――」


 カティは主たるダグラスの変化を感じている。ただし、別に以前と比べて善くなっているわけではなく、どうしようもない悪癖が身に馴染んだという類の変化だが。


「――『今となっては、混迷の中で(おの)が力を振るうことができれば重畳(ちょうじょう)』――というところですか?」


 呆れを乗せながらも、淡々と主の言葉の続きを紡ぐ従士。


「くくく。なんだ、分かってるじゃないか」


「ふぅ……まぁこれでもダグラス様とは、一蓮托生での付き合いも長いですからね……」


 そう。ダグラスは変わった。変わってしまった。決定的だったのは、やはりバールライラ山中での実戦経験だ。


 もともとは身を守るため、混迷するリナニア王国で生き延びるためにとはじめた鍛錬だったが、彼には思わぬ素質があった。鍛錬を苦としない。我が身を鍛えること、そしてそれを淡々と継続することができた。


 持たざる者からすれば、それは得難き資質。才能。


 また、王国が求める魔導士としては二流にも届かぬ才ではあったが、ダグラスには身体強化系の魔法に特化した才もあった。


 結果として、彼はそこらの従士どころか、相手が魔導士であっても、間合いに入ってさえしまえば〝戦える〟ほどに至る。


 それは揺るぎない自信となり、マーヴェイン家の〝うつけ〟を演じるくらいではどうとも思わなくなったものだ。


 その上、〝リナニア戦記〟の通りに行けば、自分を受け入れなかった者たち、〝うつけ〟だと嘲笑した者たちが、軒並み苦境に立たされるのも分かっていた。


 当時のダグラスは、周りの者らをどこかで見下し、本心から相手にしていなかったとも言える。


 そんな昏い愉悦を抱えた冷笑的なダグラスだったが……彼は変わった。


 バールライラという戦場によって。


 これまでの自分が考えていた〝生き延びる〟という言葉が、いかに薄っぺらかったかを知った。


 生と死が交差する地では、昏い愉悦や冷笑などを後生大事にしている場合じゃない。


 ダグラスは戦場を、実戦を知らないままに、鍛錬を続けて上手く立ち回れば、この先に待つリナニア王国の混迷を生き延びられると本気で思っていた。まさに机上の空論だ。


 内乱や隣国ギルギアス王国との戦となった際に、そんな考えで〝生き延びる〟ことなどできはしない……と、ダグラスは思い知ったものだ。


 また、それらと同時に、()()()()()()()()()()という()()にも――彼は目覚めてしまった。


「はぁ……以前にも少し話題に出しましたが……こうなるのが分かっていたなら、さっさとマルバ都市同盟にでも逃げて、そこで流れの傭兵として暮らしていくのが、ダグラス様にとっては正解だったのかも知れませんね」


 諦めと呆れが交じるカティ。バウフマン領の変事の前なら、まだそういう選択が実現可能だった。


 しかし、もはやその選択肢はない。今、それを望んでサリーア陣営から出奔すれば……血生臭い追い駆けっこがはじまる。


 そして、その追い駆けっこの〝鬼〟は、まずはブレイクたちが担うだろう。


「くくく。なんならいっそサリーア様の下で、〝主人公側〟と存分に死合うのも悪くはないがな」


「いえ、それをしてしまうと、仮に〝平和な国(エンディング)〟まで生き延びても、そのまま手配されて追われ続ける羽目になりますから」


 流石にカティとてそれが冗談だと理解はしている。


 戦場の現実を知ったダグラスは、どうにも脳筋な戦闘狂へと傾いてしまっているが……無謀な突撃で戦場を駆けたいわけでもない。死合いを目的にするほど傾倒してはいない。


〝生き延びる〟という点においては、以前よりも慎重になっているほど。


「ふっ。まぁ冗談はさておき……この先だが、サリーア様に目を付けられてしまっている以上、俺たちが陣営を抜けるとなれば、その行く先は、いかにサリーア様であっても迂闊に手出し出来ぬ派閥しかない」


「……そうなるでしょうね」


 ダグラスもカティも分かっている。〝リナニア戦記〟の流れのままであれば、生き延びる確率が高いのは、当然に〝主人公側〟だと。


 そんな分かり切ったやり取りをしている二人の目に――魔法によって強化された視界には、一人の少年の姿。


 どこかうな垂れたように、月明かりしかない夜の街道を歩いている。夜の街道を行くにしては愕くほどの軽装。まさに着の身着のままというところ。


「……ようやく拠点へと戻るか」


「まぁどうせファルべの街でしょう。この辺りで拠点となりそうな場所は、もとよりあそこだけですし」


 とぼとぼと歩く赤毛の少年を、農具用の小屋に潜んで遠目から見届ける二人。念には念をということで、声もかなり落とす。今や囁くような声量だ。


 当人たるカイトとしては、初の実戦、初の人殺しを経て、間を置かずに、明確な死を幻視させられる形での敗北を喫し、その敗北を噛みしめ、味わいながらの帰途だ。


 甘いと言えば甘いが……案の定、潜む二人には気付かない。


 もちろん、周囲には気を配っているが、まさか、自身にまだ監視の目が残っているということにまでは考えが及ばない。


「カイトがファルべの街へと戻るなら、俺たちはそれを見届けてから戻る方がいいだろう。〝今のカイト〟とは、これ以上接触する必要もない」


「ふぅ。夜通しの活動は肌に悪いのですが……仕方ありませんね」


「……お前なぁ……いや、もうなにも言うまい……」


 主は従士の軽口を飲み込む。


 なにはともあれ、ダグラスとカティはカイトの動向をきっちり見届けてから、ファルべの街へと戻る。



 ◆◆◆



「お? なんだ、戻ってきたんですね?」


 薄らと小汚くなったダグラスたちをまず迎えたのはウィル。


「なんだとはなんだ。その口振りだと、俺たちが戻って来ないと思っていたのか?」


 カティほどではないが、ダグラスとて、不眠での活動による不機嫌さが少々滲み出ていた。


「いえ、若様たちが戻って来なければ、そのまま()()に出ろと俺たちも命じられてましたからね」


 あっさりと物騒なことを口にするウィル。当然のように、サリーアはダグラスが出奔することも想定していた。


「くくく。やはり俺たちを狩り出すのは、ウィルたちの仕事というわけか」


 眠気による不機嫌さが失せる。にたりと嗤うダグラス。


「……ふぅ。サリーア様は色々とお見通しなんでしょう」


 つまり、こちらが次にどう動くつもりなのかもバレているだろうと、カティは想定している。


「あれ? 若様とカティ? えー……戻って来てたんだぁ?」


 次に顔を出したのはジュリア。口振りからして、彼女はダグラスたちを〝狩る〟気満々だった模様。街の中、宿の中ながらも、すでに〈猟犬〉が二匹ほど顕現されていた。


「……ウィル、ジュリア。だから言っただろ? ダグラス様は、流石にそこまで短絡的ではないと」


 最後に出て来たのはブレイク。〈死霊〉による幻影のフリントから命じられていたものの、彼はダグラスが戻って来る前提で備えていた。


「まったく……命令に忠実なのはいいが、それを追撃対象となる俺に明かすなよ」


 隊員たちが、こうも隊長を狩ることにやる気を見せるとなれば、ダグラスとて苦笑いの一つも出ようというもの。


「さて、ダグラス様。さっそくですが、()()()()()()の指示も受けています。それをお伝えしても?」


 ブレイクが告げる。フリントを通じて、サリーアからダグラスへの指示があると。


「ふっ。流石に少々休みたかったが……まぁいいだろう。その指示を聞かないという選択肢は俺にはない。ブレイク、頼む」


「承知いたしました。それではそのまま部屋の方へ――」



 ◆◆◆

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