愛されるヒロイン【デイジー】
多分、ううん。きっと私は特別な女の子。
お母さんも周りにいる人達もみんな、私のことをすっごく可愛いって褒めてくれるんだもん。私のような可愛い娘がいて幸せだと、お母さんはよく褒めてくれた。
でも、私は平民だから人並みの幸せしか得られない。はずだった。
すごいの!お母さんが貴族の人と再婚して、私も貴族の仲間入り。
これって何だか……。そっか!私はヒロインなんだ!!
平民から貴族になる女の子なんて、私しかいない。本の中でしかなかった“当たり前”が私の目の前に現れた。いつか、王子様が私を迎えに来てくれて、幸せにしてくれるんだ。
熱い眼差しで見つめられ、名前を呼ばれた後に美しい唇が徐々に……。キャー!!私ったら!!
ずっと読むだけだったキラキラした世界。
毎日、友達とお茶会をして、ドレスも違うものを着て。
胸が踊るとはこのこと。
夢はいつか現実になる。私はその日を信じているのよ。
でも、お母さんが再婚した家は貧乏で、暮らしはあまり変わらなかった。
美味しい物は食べられるけど贅沢が出来ない。
もしかして、ずっとこのまま……。
──そんなはずない!!
私はヒロインなんだもん。必ず幸せになるのよ。
貴族になって初めてのパーティー。主催者は王子様。
これって……運命!?
神様が幸せになれるようにお手伝いしてくれてるんだ。
貴族の集まりはとても堅苦しくて、めんどくさい。お父さんには王族への挨拶は階級順だと教えられた。
──もう!順番なんて待ってたら陽が暮れちゃう。
王子様は私のモノなんだから、気を利かせてくれないと。
そうだ!割り込んじゃえばいいんだ!王子様は私の旦那様になる。他の人と話す時間なんて無駄。
他の人と話している王子様の目の前に立って、私の名前を覚えてもらうために自己紹介。
ほら、やっぱり私は特別な女の子、ヒロインなんだ。王子様は私に釘付け。
他の人には目もくれなくなり、ずっと私とお喋りをしてくれる。
キャーキャー!王子様の微笑み、素敵!
王子様なら私の願いは何でも叶えてくれるはず。
私は平民の出であることを明かして、貴族になれたのに生活があまり変わらないことを伝えた。
すると、これからは王子様が私に援助してくれると。
嘘!?やった!
嬉しさのあまり腕に抱きついても怒るどころか、受け入れてくれている。もうーー!王子様ってば、絶対に私のことが好きよね。嬉しい!!
──私も好き!大好き!!
それだけじゃない。
王子様は私に一目惚れをしてくれた。
こんなの……私達が運命の赤い糸で結ばれている証拠じゃない!夢物語ではなく現実。だって王子様が私に触れてくれる熱は本物。
夢のような時間が終わって、その日のことをお母さんに話すと、とっても喜んでくれた。
王子様の名前はセリア。帰り際に私と愛を育んでいきたいって告白までされちゃった!
「すごいわデイジー!セリア殿下は王太子で次期王様なのよ」
「王……様?じゃあじゃあ!私は王妃になるのね!」
「ええ、そうよ。これから殿下とお付き合いをするなら、いつまでもみすぼらしい恰好じゃダメよね。そうだ!屋敷にある物を売ればお金になるわ」
「そうね!前の奥さんの物を置いてても邪魔になるだけだもん」
お父さんは前の奥さんのことを大切にしていて、残しておきたいって言った。
もう。お金がなかったら新しいドレスが買えないじゃない。王子様、ううん。セリアがお金を援助してくれるとはいえ、セリアに会うための新しいドレスは自分のお金で買いたい。
お母さんはお父さんをしばらくの間、領地に滞在するように説得してくれた。
──ふふ。お父さんが帰ってきたときには私は王太子妃。きっとビックリするだろうな。
セリアと付き合うようになって一週間ぐらいが過ぎた頃、ある真実を聞かされた。
セリアには婚約者がいるんだって。しかも公爵令嬢。
婚約者は家の権力を使ってセリアの婚約者の座を奪い取ったとか。
最低!!セリアの気持ちを無視するなんて。
同じ女として許せないわ!!
神様。この試練を私に乗り切れってことなのね!
そうよ。ヒロインにはライバルとなる悪役令嬢が必須。必ず私が悪役令嬢を華麗にざまぁしてやるんだから!!
「大丈夫よセリア。セリアの心が私だけにあることを知ってるから」
「デイジー……」
セリアの抱きしめられると胸がドキドキする。
この高鳴りを抑えるには抱きしめるだけじゃ足りない。ボロボロの屋敷を見られるのは恥ずかしいけど、二人きりになりたくて、勇気を出して誘った。
一緒にいた護衛?の人達には帰るように命令して、セリアは私の屋敷に来てくれた。
セリアの傍にいるあの二人もカッコ良いけど、やっぱり私にはセリアが一番。
お金がないから使用人も多くない。
セリアは特別手当てだと言いながら使用人にお金を渡す。
すごい!スマートに使用人を追い出しちゃうなんて。
お母さんは屋敷の物を売ったお金を取りに行くからと、屋敷を空けてくれる。
正真正銘の二人きり。
私の部屋に案内すると、私の名前を呼びながらベッドに押し倒された。
事が終わって、セリアのたくましい腕に頭を乗せていると幸せとは別に、小さな不安が胸をよぎる。
「セリア。私、こんなに幸せでいいのかな」
ヒロインである私が幸せになるのは決まっていることとはいえ、悪役令嬢は権力を使っていじめてくるから心配。
もしかしたら殺されちゃうかも……。
「いいに決まってる。僕達は真実の愛で結ばれているんだから」
「そうよね!」
私を幸せにしてくれるセリアのことはほんと好き。大好き。
セリアに婚約者がいたことをお母さんに相談した。
私達がいくら結ばれていたとしても、権力は向こうが上。こんな貧乏男爵家なんて一日で潰されちゃうかも。
「大丈夫よデイジー。その婚約者は殿下に愛されているわけじゃないんでしょ?公爵家の力を使うってことは、外見に問題があるってこと。不細工なのよ、きっと。それに比べてデイジーは世界一可愛い女の子。どっちが次期王妃かなんて、わかりきってるじゃない」
「そっか……。うん!ありがとう、お母さん!」
顔だけじゃなくて体も太ってて醜いんだわ。
あぁ!セリアが可哀想!!そんな女として終わってる人と無理やり婚約させられるなんて。
必ず私が助けてあげるんだから!!
「え?誕生日パーティー?」
貴族の生活にも慣れて、そろそろ学園に通えるよう準備を始めた頃、セリアに言われた。
婚約者の十六歳の誕生日パーティーを開かなくてはいけないと。
どうして好きでもない人のために、そんなことをしなくてはいけないのか。
「そうだ!ねぇセリア。お願いがあるの」
「なんだい?」
「えと、あのね……。そのパーティーで婚約破棄とかって、出来ないの?」
「婚約破棄か」
「うん。だって、セリアの身も心も全部、私しか愛してないでしょ?それなのに婚約者ってだけで私のセリアが他の人と結婚しちゃうなんて、そんなの嫌っ!!」
「デイジー……。僕もだよ!君が僕以外の男と付き合うなんて……考えただけでもおかしくなりそうだ」
ベッドの中で力強く抱きしめてくれるセリアの温もり。
ずっとこうしていたいけど、セリアは王太子で忙しい。私はちゃんとセリアのことを想い考えているから、ワガママを言ったりはしない。
愛しているからこそ、思いやる心が大事。
「婚約者に教えてあげるべきよ。セリアが誰を愛しているのか。それでね、私。ちょっとだけ憧れてるの。私のために大勢の前で婚約破棄宣言をしてくれる王子様に」
「わかったよデイジー!アンリースとの婚約は破棄する!今度のパーティーで」
「本当!?嬉しい!!」
私の望むざまぁにはならないけど、愛する人からの婚約破棄。それも多くの人の前で。
どうせ公爵令嬢なんてプライドの塊みたいなものだから、それだけでも充分なダメージは与えられる。
そして、迎えた当日。
セリアの婚約者は不細工でも、醜くもなくて。息を飲むような美しさ。
雪みたいに白くて透き通るような髪。まるで雲一つない空を切り取ったような瞳。
──本当にこれがセリアの婚約者なの!?
女の私でも見とれてしまう。
それでも!!セリアは私を選んでくれた。約束通り、婚約破棄宣言も。
美しいのは外見だけで、性格は最悪に違いない。
そうじゃなきゃ、あんな美人をキープもせずに別れるはずないもん。
アンリースさんは嫌がる素振りを見せることなく受け入れた。それだけでなく、私達の祝福まで。
──なぁんだ。単にセリアが大好きなだけか。
まぁね。気持ちはわかるよ?
セリアはカッコ良くて優しくて、とにかくカッコ良いんだもん。
大好きな人に愛されないアンリースさんが可哀想だから、私が友達になってあげよう。
同じ人を好きになった者同士、色々と助け合わないとね。
王立学園に入学した。
これで朝からずっとセリアと一緒にいられる。
セリアがアンリースさんを側室に誘う姿は胸が痛む。
わかってるもん。これは愛じゃない。セリアが王様になるにはアンリースさんと結婚しなくちゃいけないって。
なのに、アンリースさんは気持ちのこもったセリアからの花束をいらないと受け取り拒否をした。
もう!意外と頑固なんだから!!本当は嬉しいくせに!!
昨日の婚約破棄で相当なショックを受けているかもしれないけど、やり直してあげるって、セリアのほうから言ってくれてるんだよ!?
泣きそうな気持ちを抑えて私達を祝福したから意地になってるのね。
貴族ってめんどくさい!側室でも、結婚出来るんだから喜ぶべきじゃないの。私だったらセリアに抱きついて、嬉しい!って伝えるのに。
それからも、アンリースさんの態度が変わることはなかった。
頑なに断り続ける。
何なの!?セリアに構って欲しいからって、好きじゃないなんて嘘までついて!
優しいセリアの心を傷つけるなんて最低!!やっぱり性格は最悪だったのね!
もしかしてセリアが私しか愛さないから怒ってるんじゃ。
仕方ないもん。私とセリアは運命で結ばれてるんだから。
それに!!ちゃんとアンリースさんのことも考えて月に一度は寝室を一緒にしてくれるって案を出してあげてるのよ。
──私のセリアなのに……。
好きでもない人と一夜を共にするなんてセリアにとっては苦痛。だから私がいっぱい慰めてあげると約束した。
あまりにもアンリースさんが卑劣な嘘をついて返事を先延ばしにするから屋敷に直接、乗り込んだ。
セリアとのデートの時間を削って来てあげたんだから、今日こそは本音を語ってもらわないと。
お金を持ってる家は違う。出てくる紅茶もクッキーも美味しい。
なんか、自慢されてるみたい。
貧乏人には買えないから、じっくり味わってねって。
──いいもん!私はセリアにいっぱい色んな物を買ってもらえるから!!
それにしてもアンリースさん。セリアと婚約していながら浮気してたなんて。
しかもセリアの側近と!可哀想なセリア。
好きではないとはいえ、婚約者が身近な人と浮気。セリアの心のはひどく傷ついてる。
私ならよそ見なんてせずに、セリアだけを愛してあげるのに。
「え!本当にいいの!?」
国で一番のブティック、グラースの店長自ら、私にドレスを売りに来た。
もっと歳を取ったオバサンかと思ってたけど、意外と若い。それに美人。
隣りにいる男の人はカッコ良いんだけど、あんまり私の好みじゃない。だって、目付きが悪いんだもん。
「ええ。お気に召した商品は後払いで構いません」
「後払いってことは、今すぐ払わなくていいってことよね!?デイジー!全部、買いましょう!」
「うん!ねぇねぇ、店長さん。これ全部、私に似合ってると思わない?まるで私のためのドレスみたい」
「…………。こちら、《《必ず後でお支払い頂く》》という契約書です。サインをお願いします」
私は未来の王妃。これっぽちなら倍の金額を支払ってあげる。
グラースのドレスが着られるなんて夢みたい。これを着て、セリアの誕生日パーティーに出たら注目を浴びちゃう。
──他の人からも告白されたらどうしよう。
もちろん!私はセリア一筋だから浮気なんてしないけど。やっぱり、男の人にモテるのは悪い気はしない。
当日はうんと着飾って、アンリースさんよりも私のほうが王妃に相応しいとみんなを納得させてあげなくちゃ。
セリアの誕生日パーティー。
今日はアンリースさんの悪行を断罪する特別な日。
アンリースさんとなら仲良くなれると思って、友達になってあげるつもりだったのに。
やっぱりアンリースさんは悪役令嬢だった!
だから、ヒロインである私をいじめる。
ずる賢いアンリースは権力で周りの人を口止めして、私への悪口をなかったことにした。このままだと私、いつかアンリースさんに殺されてしまうかも。
勇気を出して、いじめられたことをセリアに伝えると、国王陛下もいるこの場でアンリースさんの悪行を知らしめてくれると約束した。
私はヒロインだから全て上手くいく。
いく……はずだった。
私をいじめたあの日、アンリースさんは王宮にいたとかで、私をいじめることが出来なかった。
あれ?なにかおかしい。こんなはずじゃないのに。
私と一緒になって断罪してくれる友達も、なぜか私を裏切る。
確かに!ブレスレットは自分で壊した。でも!!いつかはアンリースさんに壊されていた。つまり、アンリースさんが壊したと同然。
──悪いのはアンリースさんなのに!!
どうして私が悪いみたいに言うの?
私は未来の王妃なのよ!?
大切に、愛されるべき存在。
「クラッサム嬢は王妃にはなれませんよ?」
その一言で、これまでセリアの愛によって取り除かれていた不安が再び顔を出した。
アンリースさんが何を言っているのかわからない。
私はヒロインなんだよ?平民から貴族になって、王妃になる。国民から愛される。
わからない。どうしてセリアが王族から外されるのか。
王族じゃなくなったら、誰が私を王妃にしてくれるの?
あ、そっか!
「そうだ!私、セリアの弟の……えっと、リカルド?と結婚します!そしたら私は王妃になれるんですよね」
私と運命の赤い糸で結ばれていたのはセリアじゃなかったんだ。納得!
ふぅ、危ない危ない。もう少しでセリアに騙されるところだった。
歳下はあまり好みじゃないけど、仕方ない。だってリカルドこそが私の真の相手だったんだもん。
リカルドも可哀想。好きでもない人と婚約させられただけでなく、いつもいじめられているなんて。
お母さんが貴族でなくなったのは可哀想だけど大丈夫!
私が王妃になったら王族の仲間に入れる。むしろ離婚してくれて良かった。
実家が貧乏男爵家なんて恥ずかしかったんだもん。
「確かにミリアは口調こそ厳しいけど、私が王太子として未熟だからだ。私が間違わないように、道を踏み外さないように見ていてくれている。そんなミリアを私は愛しているんだ。貴女のような人に想いを寄せるなんてありえない」
「恥ずかしがらなくてもいいのよ。私は全部、わかってるから」
「先程から不敬ですよ。たかが平民が王太子である私に馴れ馴れしい」
「え?あ……でも!私は貴方と結婚して王妃に……」
「平民が王妃になれると本気で思っていたのですか?」
「だって貴方は私の婚約者だから……」
「はぁ?私の婚約者はミリア・フラスレイスただ一人だ!!貴女の婚約者はそこにいる平民のセリアでしょう」
どうして?どうしてそんな酷いことを言うの!?私達は真実の愛で結ばれているはずなのに!!
わかったわ!これはきっと、リカルドの婚約者が私に嫉妬していじめようとしてるんだ。
「アンリースさん!みんなが私をいじめるんです!助けて下さい!!」
ああ、良かった。アンリースさんと友達になっておいて。
私が王妃になったらアンリースさんの家を贔屓にしてあげなくちゃ。
「平民が貴族の名前を気安く呼ぶなんて無礼よ」
助けを求めたのに冷たく突き放される。
それだけじゃなくて、ぶたれた。
やっぱり!!アンリースさんは悪役令嬢だったんだ!!
一瞬でも気を許して、友達になってあげようとした私がバカたった!!
未来の王妃にこんなことをして死刑は免れない。
絶対に許さないんだから。
「ちょ、ちょっと!どこに連れて行くのよ!?」
男の人が二人、私の両腕を掴み、会場から出される。
「罰を受けるのは私じゃなくてアンリースさんでしょ!?離しなさいよ!無礼者!!」
誰も助けてくれない。
悪いことをしたら裁かれる。
悪役令嬢に待つのは断罪のみ。
そうしてヒロインは王子様とハッピーエンドを迎える。
これじゃまるで、私じゃなくてアンリースさんがヒロインみたいじゃないの!!




