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第77話 アップデート

 いよいよ、World Creation Onlineアップデート当日を迎え、プレイヤーたちはその時が来るのをそわそわしながら待っていた。


「ここしばらく出し物の調査していたから、あっという間だったな」


「そっちはなんとかなりそう?」


「後はポスターに書くだけだから、2、3日もあればいけるだろ。夏休みの宿題も終わらせたし、残りは遊び放題だ」


「いいね」


「もう時間よ、準備しなさい」


 そして、麗華が購入したヘッドギアを身に着けたカーミラと一緒にログインすると、ムービーが流れる。魔族の侵攻を食い止めてきた国々が協力し、ゲートを開いて魔王が住む魔界、ノイマン大魔境へと向かう。冒険者たちは協力して魔族を打倒するのか、それとも人類を裏切り魔族側に着くのかというのがストーリーの大きな流れだ。


「自分の立ち位置が重要みたいだね。どっちも遊びたいから、こっちはみっちゃんに合わせてダクロの方は反対側のストーリー楽しもうかな。みっちゃんは?」


「俺か。アリスとの約束もあるし、人類側だな」


「私は魔族側に着こうかしら」


「ってことはライバルってわけだ」


「いいわね、そういうの」


 とは言っても、具体的にどうすれば裏切りルートにいけるかは分からないので、三人は一緒に近隣の街を目指すことにする。空は赤い月が昇っており、沈む気配がない。暗い森の中を歩いていると、黒い双頭の犬がこちらに向かって襲い掛かる。


「確かあれは……ケルベロスじゃない方の奴!」


「オルトロスだね」


「そうだ、それ!」


 地上世界ならボスキャラとして出てきてもおかしくないような有名なモンスターが雑魚キャラとして出てくるあたり、魔界のレベルは相当高いようだ。


「クリエイトウォール」


 Carmilaが土の壁を作ってオルトロスの接近を防ごうとすると、オルトロスが口から火球を吐いて壁を破壊する。この数日でレベルアップをしてきたとはいえ、二人と比べるとレベルの低いカーミラではこの魔界においてまだ実力不足だ。


「ホーリーバインド!」


 とはいえ、火球を放つのにスピードを緩めたことで、カエデが放った光の帯がオルトロスの足元に纏わり、動きを封じ込めていく。


「【魔力付与(光)】、食らいやがれ!」


 光り輝く剣でオルトロスの首を一刀両断。首を跳ねられたオルトロスは素材を残して消えるのであった。


「見かけ倒しだったね。それにしても、日光による継続ダメが無かったし、魔界だと日光の影響は受けないってことかな」


「魔界なら日傘やパラソルを別の装備に変えても良いかもな」


「でも、昼夜判定はあるみたい。そこは気を付けないとね」


 他に魔界の仕様が変わっていないか確認しつつ、ゲート近くにある街アーリアにたどり着く。街の中を探索していると、武器屋や防具屋に紛れて冒険者ギルドがある。明かりもついていることから、中に誰かがいるのもわかる。


「敵地なのになんで味方の施設があるんだろうな」


「私たちが先発隊のはず……いつ建てたのかしら?」


「こういうのってゲームあるあるじゃない?」


 そう言いながら、カエデが警戒することなく中に入ってみると、そこには青肌の人型の魔族が武器を持って待ち構えていった。


「こんな古典的な罠に引っかかる馬鹿が居たとはな」


「こんなところに味方がいるわけねえだろ」


「ナイフの錆にしてやるぜ(ぺろり)」


「すげー歓迎されているな。後ろは頼むぜ、ウラガル!」


 ヒャッハーな連中に向かって、ウラガルとミクが飛び込んでいく。狭い室内で戦うため、機械兵を出せないというハンデはあるが、数をそろえている魔族側は味方に当たらないように武器を振り回さないといけない。逆にこちらとしては周りが敵なのだから、思う存分に攻撃することができる。


「ブラッディウェポン、ウィップ!」


「こいつ、すばしっこい」


「いてっ、てめえ殴りやがったな!」


「てめえがそこにいたからだろうが!」


「鬼さん、こちらってな。【加速】」


 さらにスピードを上げつつ、残像で相手の目くらましをする。統率が取れないどころか、仲間割れをし始めるような連中に冷静に相手の動きを見分けるような判断ができるわけもなく、瞬く間に切って落とされていく。もはや敵にすらならない。


「こ、こいつら強すぎる……」


「ずらかるぞ!」


 武器を放り出して逃げ去っていく魔族たち。誰も居なくなって静かになった偽冒険者ギルドをミクたちは何かないかとガサコソ物色し始める。


「おっ、地図発見」


「どれどれ~」


 カエデたちがのぞき込むと、そこには魔界の簡単な地形が描かれていた。地図の中央部には魔王城とその城下町があり、アーリアはその南部にある街だ。無論、アーリア以外にも町がいくつか点在しており、まっすぐ魔王城に向かうもよし、他の街に寄り道するもよしと言った感じだ。


「どこから回るか、迷うわね」


「そりゃあ、ド本命の魔王城からだろ」


「でも、その前にここで装備の更新やクエストを探して強化してからの方が良いかも」


「それはそうね。私なんかまだレベルが低いもの」


「じゃあ、3日くらいここを探索してから、魔王城に向かうってのはどうだ?」


「良いと思う。魔王城の情報もある程度そろっている頃合いだろうし」


 3人はいったん分かれて、クエストが無いかアーリアの街の人々に聞き込みを始めていく。だが……


「地上人に助けてもらうことなんてねえよ」


「武器が欲しいだぁ? なら100万寄越しな」


「おい、ここは人間くせえ奴が来るところじゃねえぜ。死にたくないならとっとと失せな」


(((心証わるっ!?)))


 ここは敵地である。人間側の立場にいるミクたちの言うことなど聞く耳を持たず、値段も吹っ掛けてくる始末。まだ襲ってこないだけマシといった状況。これはどうしたものかと三人は偽冒険者ギルドで頭を悩ますこととなった。


「なんとかして、俺たちを認めさせないとまともに冒険できねえぞ」


「認めさせるってことは私たちが魔族にとって有益であることを証明するってことだよね」


「でも、敵にとって有益ってことは私たちからすれば有害でしかないわよ」


「つまり、裏切りってわけか」


 ここでストーリーに繋がるワードが出てくる。つまり、魔界での冒険を楽に進めたいのであれば裏切りルート、苦難の道を選ぶなら人類側ルートといったところだ。となれば、最初の打ち合わせ通りにCarmillaが裏切りルートへの模索をするため、パーティーから離脱するのであった。


「私たちはどうする?」


「こういうときは人類側のお偉いさん、フォーゼの王様に相談だ」


 というわけで、偽冒険者ギルドにある転移陣を無断使用し、フォーゼまで戻っていく。もはや顔なじみとなっているミクが門番に頭を下げ、城内に入って王様に魔界での出来事を簡単に説明していく。


「う~む、魔界での物資の調達が困難であるがゆえに寝返りをする者がいるかもしれんということじゃな」


「本当は寝返りたくないと思っている人もいるかもしれねえけど」


「Wスパイのようなことをする連中もいるということか。事態は深刻のようじゃ。その偽冒険者ギルドに人員を送ることにしよう」


「できるのか?」


「お主らの活躍で地上で暴れている魔物の数は減ってきておる。多少の人員ならば送ることは可能。無論、隣国との協力も必要じゃがな」


「よし!」


「では、我らも準備に――」


「大変です!姫様がさらわれました!」


「なんじゃと!? 誰に!」


「Aランクの冒険者イザベラです」


「だれ?」


「聞いたことないから、NPCだろうね」


「彼女の活躍は聞いておるぞ。氷結の騎士と呼ばれ、魔界でも数多くの魔物や魔族を葬ったという我が国のエース。なぜ、誇りある彼女が……」


「理由を考えるのは後だ。そいつはどこにいる!」


「返しておくば3000万Gをもって、アイスマウンテンンに来いとのことです」


「どこ?」


「トリスからゼガンとは反対側に向かったところにある標高の高い山だよ。フェンリルとかいるところ」


「場所を知っておるのであれば話は早い。ミク殿、娘の救出を頼んでもよろしいかな」


「あたりまえだ!」


「お言葉ですが、陛下。この者たちはCランク。Aランクの相手など死に行かせるようなものです」


「だが、彼女は我が国を救った英雄だ。並大抵の冒険者では太刀打ちできずとも、彼女ならばできると信じておる」


「承知しました。ギルドにはそうお伝えしておきます」


「面倒な手続きをさせてすまんな。というわけだ、準備ができ次第、ギルドで依頼を受けてくれ」


「わかったぜ。カエデ、他のギルドメンバーも呼んでそのイザベラって奴を倒そうぜ」


「うん。でも、ギルドメンバーでも人類側につくって決めた人の方がよさそうだね」


「ああ、そうだな」


 カエデたちはギルドメンバーにチャットで連絡をし、パーティーメンバーを集めるのであった。

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