第76話 ニアミス
リムジンが高速道路を走っていく中、部長は顔が真っ青になっており、女の子がしてはいけないような顔で紙袋と対戦している。その傍ら、みゅ~の面々はカーミラにゲーム内では聞けないようなプライベートな質問を次から次へと投げかけていた。
「しつも~ん、吸血鬼ってどうやればなれるの?」
「やっぱり噛まれたりとか?」
「嚙まれたからと言って必ずしも吸血鬼になるわけじゃないわよ。蚊に血を吸い取られたとしても、必ずマラリアみたいな病気になるわけじゃないでしょう」
「……つまり吸血鬼はウイルス」
「どっちかというとゾンビ物の定番よね~」
「それならカーミラも誰かに移された系?」
「私は自分からなったタイプよ。今だと、吸血鬼が多くなって吸血鬼から吸血鬼を産んでいるけど」
「それなら世界中には吸血鬼はどれくらいいるんだ?」
「正確には分からないけど、一説には全人口の1、2割と言われているわね。長期的な研究が必要とされる錬金術師に限れば7、8割はあるんじゃないかしら」
「それだけいると、ワタクシたちの世界と社会的システムが根本的に異なりますわね」
「そうだよな。スポーツとかだと男女のほかに吸血鬼の部門がありそうだ」
「あるわよ、実際。ねえ、あとどれくらいで着くの」
「……信号次第ではありますが、あと30分ほどですね」
「もうじき着くのね」
高速道路を降りてからもしばらくは走らないといけないため、カーミラへの質問攻めは続く。次は三雲が手を上げた。
「吸血鬼って不老不死なんだろ。でも、俺って成長しているし、実は違うとかねえ?」
「みっちゃんの胸、私よりも大きくなっているもんね~」
「背も伸びているよ。すこしだけど」
「吸血鬼と言っても成長には2パターンあるわ。私や感染者みたいに発症した時点での年齢で固定されるタイプ。もう一つは吸血鬼の子供だと成長ホルモンの影響で10~20代ごろに固定されるわ。三雲の場合は後者ね」
「でも、俺の両親は人間だぜ」
「だとすれば、チェンジリングね」
「チェン……なんだそれ?」
「取り換え子、自分の子と他人の子を入れ替える行為ですわ」
「この場合は吸血鬼の夫妻が昼間でも働ける人間の子が欲しくて自分の子と入れ替えたってところかしら。認識阻害も吸血鬼ならお茶の子さいさいよ」
「でもさ、それだと俺の意識ってチェンジリングした吸血鬼に育てられている俺に移るんじゃねえの?」
「おそらくだけど、黒幕が三雲がチェンジリングしていることを知らないから、長谷川三雲=チェンジリングした人間の男性ではなく長谷川三雲=チェンジリングした吸血鬼の女性になったと思うわ」
「黒幕ってうっかり屋さん?」
「いえ、認識阻害がゲームに紐づけされていた以上、黒幕とチェンジリングした親は何らかの共犯関係にあるはず。つまり、こちらの長谷川三雲(偽)に平行世界の長谷川三雲を乗り移させることに何らかのメリットがあるということですわね」
「自分の娘にそんなことするなんて最低な親だぜ」
「そうだよね。わかったら一発入れないと。というわけで私から質問。みっちゃんが大人になったら不老不死になるの?」
「話を聞く限り、吸血鬼としての体質が色濃くでているし、ハーフではなさそうね。吸血鬼としての覚醒、不老不死になる可能性は高いわ」
「別に不老不死には興味ないんだけどなぁ~」
「あら、人類の夢じゃないの?」
「俺は健康的に生活が送れたらいいよ。ケガや故障はこりごりだけど、吸血鬼にならない方法はないのか?」
「吸血鬼の覚醒には強い自覚が必要。自分が人だと思い続けているなら、吸血鬼に覚醒することもなく人としての人生を送れるわ。まあ多少は若く見えるかもしれないけど老化も進むし、人より十数年ほど長いけど寿命も来る。だけど、一度でも人外の力を得ようとすれば人の理から外れる。そのことは肝に銘じなさい」
「ああ、わかったぜ」
そして、すいすいと街中を走っていく中、スマホをいじっていた由美が突如として奇声を上げる。
「どうしたんだ?」
「攻略サイトみていたら、シルちゃんのこと悪く書かれていたの。ひどくない?」
「どれどれ」
三雲が自分のスマホで普段見ている攻略サイトでシルバードラゴンについて検索し始める。すると、そこにはこう書かれていた。
評価Cランク
『防御力はドラゴン種どころか全モンスターでもトップクラスのモンスターではあるが、攻撃力はドラゴン種の中では最低ランクである。タンクとして使おうにもヘイトを奪うスキルを所持しておらず、火力の低さが災いする。装備枠を1つ消費する割には使いづらさが目立つと言えよう』
「書かれようがひでえな。あっ、でもこっちだと良いように書かれているぜ」
評価★★★★☆
『防御力が高いため、継戦能力を加味すれば火力自体はそこまで低いわけではない。また、ドラゴン種の中ではランダム行動をする確率が低いため、扱いやすいというメリットもある。装備枠を消費するにしても採用する価値は十分にある』
「あたし、これからこっちのサイトを見ることにする」
「それにしてもついこの間最近したのに、結構ソーラクの開拓が進んでいるな」
「次のアプデまで何もイベントが無いと思ったところに実質新マップだもの。盛り上がらないわけがない」
「ってか、あの王様を倒さないと受けられないクエスト多すぎだろ」
「本来の攻略方法はバインド耐性が低いことを利用して動きを封じ込みながら、戦うことだったみたい」
「グリードについては……あった」
グリード
【ミダス王討伐レイド】で城内に戻ることで戦うことができる隠しボス
【ミダス王討伐レイド】をクリアしたプレイヤーが同じパーティーにいると再戦できないので注意が必要(クリアしたプレイヤーを別パテにすれば戦闘可能なので、パーティー編集は怠らないようにしよう)
攻略方法はこちら
「へえ~、バフが増えると能力が上がるほかに使ってくる技も増えたのか」
「召喚獣も消える凍て〇く波動はやばいね。完全に殺しに来てる」
「見たことないけどな!」
「ワタクシたちのギルドでは早期に、というより、最初からこの攻略方法でしたから仕方ありませんわね」
「こっちでも、未クリアで腕のあるプレイヤーは少人数でグリード討伐してからの方が楽と書いてあるくらいだしな。【GREED】のスキルはグリードにダメージをあたえたプレイヤーしか貰えないけど」
「おかげで私のカエデ、もらえそびえちゃったんだよね」
「コメント欄でも不満であふれているな、そこ。ミダス王の動きを封じ込めていた俺たちには報酬もないのかーって」
地獄のようなコメント欄をそっと閉じて、今度は機械兵の評価を見てみる。どちらのサイトも最高評価でありながらも、電撃に弱いこともバレたようだ。もし、この先PVPイベントがあったとしても、この間のイベントのように無双とまでいかないだろう。
「新エリアで新しい武器を手に入れないと次のギルド対抗戦は厳しいだろうね」
「そうだな。どんなスキルがあるか楽しみだぜ」
来週に控えたアプデに胸を躍らせていると、目的地であるT市に辿り着く。都心から比較的近いT市は数多くの研究所や工場を誘致しており、日本の最先端技術の開発を支え続けている地域だ。その一つでもある鈴星デジタルエンタテインメントは、ひときわ大きい敷地を誇る。
「でけえアンテナ」
「何に使うんだろうね」
「建設当初からありますから、使われなくともシンボルとしておいてあるのでしょう」
「部長、大丈夫ですか?」
「……だ、いじょうっぷ」
「部長――!」
紙袋との第2ラウンドが始まったため、綾香が付き添いで見る羽目となった。錬金術関連なら彼女たちよりも詳しいカーミラがいるのだから大丈夫だと三雲が思っていると、カーミラも車から出てこない。
「どうした、カーミラも酔ったか?」
「対魔除けの結界があるわ。この付近なら大丈夫だけど、中心部にいけば本物の身体ならまだしも、この作り物の身体だと持たないかも」
「マジか……じゃあ、俺も?」
「貴女は大丈夫よ。吸血鬼に覚醒していない半端物だもの」
「そいつは良かった。いや、良くねえのか」
「見取り図から些細な会話まで情報はできるだけ集めて。後で推理するわ」
「わかったよ(まるでやっていることスパイ映画みたいだな)」
三人と冥を車中に置いて、三雲たちは会社内に入っていく。会長の娘である麗華が先導し、自分の父がいる部屋へと案内する。そこにいるのはスーツでビシッと身なりをそろえながらも、鍛えられた肉体がその上からでもわかる彼女の父親である九朗だ。
「君たちが麗華の友達だね。麗華から話は聞いているよ。ゆっくりと互いに自己紹介をしたいところだが、あいにく次の打ち合わせが決まっている。話は手短に頼むよ」
「ではワタクシから。この度、友人がWorld Creation OnlineでSecret OS ver4と戦いました。急なノイズの発生、その前後におけるNPCであるカーミラの不自然な言動。それにこのボスのネーミングも他のボスキャラと明らかに浮いていますわ。これを説明していただきたく、お父様に会いに来たということですわ」
「それはサポートに問い合わせるべき案件だが、娘とその友人がここまで来てくれたんだ。私から応えようではないか。それはバグだね」
「バグ?」
「ああ、バグだ。以前、NPCと仲良くなると特殊なイベントが発生するようにしたと報告を受けている。そのときに出てくるSecret BOSSの名前の表記がバグってSecret OSと意味深になってしまったんだね。私からバグ修正をするように伝えておこう」
麗華ははぐらかしてくる父親の言葉を受けて認識阻害のことを話そうか考える。だが、証拠となるものが一切ない現状では仮に話したとしても、ゲームとは関係ないこと、迷い事の一言で片づけられてしまう。
(お父様から真相を聞き出すにはまだ早かったというわけですわね)
「質問が無いようであれば失礼するよ。それと、遠路はるばるから来たんだ。会社を見学できるように伝えておいたから、じっくりと見るといい」
応接室から出ていった九朗がスマホを取り出し、下の階に向かう麗華たちに聞こえないように小声で話す。
「私だ。Secret OSを破壊したのは娘たちの仕業だったよ」
「それは困りましたね。計画に支障をきたすのであれば、適当な理由をつけてBANしますか?」
「いや、それはまずい。あの子は私に似て聡い。理由なきアカウント削除は疑念を増す結果になるだけだ」
「【幸せの刻】まであと1年だというのに……」
「次のアップデートで次のフェーズに支障なく移行できる。計画の見直しは必要だがね。全人類を幸福へと導く最終手段、必ずや成功しなければならない」
「ええ、わかっております」
通話を終えた九朗は上の階にある会議室に行くと、客人である2人の男性が座っていた。一人は銀髪の中年男性ではあるが、衰えを感じぬほど引き締まった肉体をしており、書面上に書かれてある年齢よりも若く見える。もう一人はフードで顔を隠しているが、背格好から高校生くらいの少年だろう。そして、中年男性が話し始めると、三雲と同じように鋭い牙が見え隠れする。
「よっ、クロウ」
「伯爵からくるとは思わなかったよ。今日は何しに来たんだい?」
「少し金を……な」
「まったく。そういうところは十年以上たっても変わらない。少しは働いたらどうだい」
懐から取り出した小切手にさらりさらりと金額を書いていく。その額は100万円。決して安くない額をポンと出すが、少年以外に驚いた様子はない。
「ありがとな。おい、これを換金しろ」
「わかりました。父様」
「銀行ってのは日中しか開いてないから厄介だ」
「人間でも不便に思っている人もいる。君たち、吸血鬼なら尚更不便だろうね」
「だったら夜間でも開けるようにしやがれってんだ。あと、こいつは吸血鬼じゃねえぞ」
「これは失礼。確か名前は……」
「こいつに名前はねえ。ネームレスだ」
「ネスと呼んでください。戸籍ではそうなっているので」
フードをとってネスは自分の顔を見せる。もし、この場に三雲がいれば、驚いたに違いない。その姿は男の時の自分と瓜二つだったのだから。
「ネス君だね。覚えておくよ」
「自己紹介のついでですが、一つお願いしたいことが――」
ネスの願い事を聞く九朗。それは大金でもなく、これまで受けてきた技術供与を考えればあまりにも些細なことだったので、二つ返事で了承した。
「用事は済んだし。さてと、帰るとするか。ホレ」
伯爵と呼ばれた男性が傍らに置いていた杖で地面を付くと、魔法陣が浮かび上がり、黒いワープホールが形成される。そして、その中に二人が入っていくと、何事もなかったかのようにワープホールが消え去る。
そんなニアミスをしているとは知らない三雲たちは会社を案内されていた。
「へえ、ここで新作ゲームを作っているのか」
「はい。今は老若男女問わず遊べるスポーツゲームの開発をしています。体験してみますか?」
「やります!」
「みっちゃんがやるなら私も!」
三雲と紅葉がすぐさま手を上げて、スタッフに新作ゲームの入った試作用ヘッドギアを被らせてもらう。試作用だけに通常販売されているのと違って色々なケーブルがつながっており、スタッフのパソコンにデータが随時送られるそうだ。そして、三雲の前にはいくつかのスポーツが選べる画面があり、すぐさま野球を選択した。そして、出てくる設定を選んでいき、ゲームがスタートする。
「勝手にユニフォームに着替えるのか」
「相変わらずのリアル志向。WCOと同じで本物にしか見えない」
今、三雲が着ているユニフォームはとあるメジャー球団のユニフォーム。そして、目の前にはメジャーリーガーたち。テレビでしか見たことないスター選手にキラキラと目を輝かせる。
「すげー、小谷選手がいるぜ!」
「確か二刀流だったっけ」
「そうそう。俺のあこがれの選手」
【聞こえますか。今回は体験なため、1打席勝負となります。戦いたい相手がいれば教えてください】
「そんなの決まっている小谷選手だ!」
紅葉がキャッチャーマスクをつけ、三雲がマウンドに上がり、小谷と対峙する。女になったこともあるかもしれないが、写真やテレビでみるよりも大きく見える。
(さてと、どの球で勝負しようかな)
(まずはこれだよね)
(おっ、いいね)
紅葉のサインを見て、投球モーションに入る。三雲から放たれたのは低めのストレート。女子高生にしては早い球ではあるが、小谷を空振りにするには球威が足りない。彼の打球した球は特大アーチを描くも、ファールであった。
「あぶねえ」
「でも、ストライク1個。あと2つだよ」
「だな」
今度はストライクゾーンから球1つ外したところに投げるも、見逃される。
(振ってこねえな。変化球で揺さぶりをかけよう)
ストレート要求に首を振って、内角に向かうカーブを投げる。ストレートしか投げてなかった彼女が変化球を投げたことで、打球はあらぬ方向にいきファール。2ストライク1ボール。余裕もあり、今度はストライクゾーンから離れるフォークを投げるも、冷静に見逃される。ならば外に逃げるスライダーを投げるも、食らいつかれる。
(さてと、どうするかな。残っている変化球はスローボールくらいしかねえけど、討ち取れるビジョンがわかねえな)
(最後は……これで)
(ここにきてソレかよ。いいぜ)
球を思いっきり握りしめ、ど真ん中に投げる。球の握り方など知らなかった幼いころに投げていたそれは、当然のようにぶれる。小谷のバットの芯からずれて当たった球は高く上がるも、ライトが補給し、ゲームセットとなる。
「「イエ~イ」」
互いに拳をついて、ゲームからログアウトする。先んじて新作ゲームを体験したということで、軽いアンケートがとられ、今後の開発の参考にするとのことだ。
「楽しかった!」
「うん!」
当初の目的を忘れかかっているが、他の設備も見せてもらった後、車待機組に会社内であったことを事細かく伝えながら、帰路に着くのであった。




