その1
仕事の都合により、誠に申し訳ありませんが不定期更新とさせていただきます。
翌日。ロジーナの寝起きは最悪だった。原因はたった一日前の、朝のあれのせいだ。
おかげで昨日は一日中、今日のことを考えてどきどきしたりびくびくしたり、百面相をしていたもので、ビルやアンディからはかなりからかわれた。そしてそれもまた彼女の疲労になる。
(私・・・何してるのかしら・・・)
魔道士免許試験のために勉強の日々を送っていたロジーナは、男性と付き合ったこともない。もちろんデートなんかも初めてで、賭けと言う不本意なきっかけではあったが、あのように真正面から誘われたことすらなかった。だからこそ、妙にアンディを意識していたと言っていいだろう。しかし。
一晩寝て目が覚めたら、何もが馬鹿らしくなっていた。アンディは確かに生物学的には男だ。けれども口調や、昨日一日の触れあいで解った性格は、どう考えても「お母さん」のそれだった。
(結局、お姉さんと買い物に行くイメージで良いんじゃない)
そう結論付けると昨日一日まごまごしていた自分が恥ずかしくなり、同時に呆れていた。下手したら「イケメンとのデートに舞いあがっている」と取られてもおかしくない。女性なのだから喜んでも悪くないのだが、そういうミーハーな感覚は、ロジーナにとっては気恥ずかしいものがあった。プライドの高いリパ族故の考え方かもしれないが。
適当な服に着替えて下に降りると、すでに朝食が並んでいた。昨日のロジーナの行動から、アンディが先に動いてくれたのだろう。本当に母親気質だ。
「あら、おはよう」
「!お、おはようございますっ!」
いきなり脇から声をかけれて吃驚してそちらを見ると、アンディが朗らかに笑っている。骨格は細めだが、筋肉はきちんと付いている。それでいて前掛けがこれほど似合う男はそうそういないだろう。
彼はテーブルの端に寄せてあったお椀に作っていたらしいスープをよそう。どこかの民族料理なのか、あまり見ないスープだ。料理の知識まで豊富なようである。それぞれの座席に並べられたそれを、ロジーナは一口先に味見する。薄味だがふわりと香りが広がった。味と共に匂いを楽しめるスープのようだ。デート最中に何を話そうかと内容に困っていたが、料理について教えてもらえれば助かるかもしれないと、回路を見出す。
「ああ、ロジーナさん、もう起きてたんですね」
後ろから声を掛けられて振り返ると、階段を不機嫌な顔のシュールとイルを連れて、ビルが下りてきていた。二人とも相当ひどい顔をしているので、一体どんな起こし方をしたのだろうかと密かに気になる。
ロジーナの隣りに来たビルは、「美味しそうですねぇ」と並べられた料理を見た。
「ああ、でも残念です」
「何がですか?」
「折角ロジーナさんの寝起きが見れると思って・・・」
ゴンッ
「黙れ変態」
ぽかんとしていたロジーナに変わって、シュールがビルの頭を殴ってくれた。そこそこ痛そうな音がしたが全く効いておらず、ふざけているとしか思えない怒り顔でぷんぷんとビルが怒る。
「ダメですよ、暴力反対です」
「くたばれジジィ」
「私がジジィなら貴方もジジィですよ。そんなに年齢違わないでしょう」
「そいつがお前のせいで逃げたらどうするつもりだ?」
「それは意外ですね、ロジーナさんのこと狙ってたんですか?」
「お前は俺と話をする気があるのかないのかどっちなんだ?」
「いやだな冗談じゃないですか」
ビルはけらけらと笑っていたが、シュールの目から放たれている殺気は本物だ。ロジーナは流石にこれ以上放っておくのはどうかと思ったけれども、彼女にどうにかできる二人ではない。しかし、二人と長年いるのであろうイルは全く止めるそぶりを見せない。
すると。
「ほーらっ!ご飯冷めちゃうでしょ。下らないことで喧嘩してないの」
アンディが二人の頭を同時に叩いた。すると二人とも、大人しく・・・はなかったが、喧嘩・・・というには多少一方で気だったものの殺気だったやりとりを止めて席に着く。この止め方も、一応習った方が良いかもしれないと、ロジーナが思ったことは知る由もない。




