その9
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「あのイルがあそこまで強くなったなんて、感動だわ」
ビルの入れてくれたコーヒーを飲みながら、アンディはそう零した。あまりにもそれが感慨深い雰囲気だったもので、向かい合って座っていたビルが笑いだす。
「そうですねぇ。いつも泣いていましたよね」
「今じゃ中々泣かないでしょう」
「感情は相変わらず豊かですけどね」
おかげで毎日くたくたにされていると、さりげない苦情を育ての親にビルは告げる。
今の時間は夕方だった。朝あの試合があってから、午後は前回来た時から今回来るまでの間に合った依頼や出来事を嬉々として語るイルの話を、ずっと聞いてやっていたのだ。今は若者三人で、食料の買い出しに行かせているところである。ロジーナが少し上の空に見えた気もしたが、喧嘩の止まらない二人と一緒に行けば嫌でも考えている時間は無くなるだろう。
「しかし、本当にあのまま貴方が最後まで面倒みるとは思っても見ませんでしたよ」
「私もびっくりよ。でも、だんだん可愛くなってきちゃったのよね」
ちなみに別れる時にイルが相当駄々をこねたのは言うまでもないだろう。彼にとって初めて優しく接してくれたアンディはかなり特別な存在なのだ。
コーヒーカップを置いたアンディは、ため息を一つ吐くとビルの方を見た。彼は蒼春院に新しく来た依頼の書類をぱらぱらと眺めている。
「・・・ねえ、ビル」
「何ですか?」
「貴方、いつまでその喋り方続ける気?」
「・・・もう、癖なもので」
ビルは笑いながらそう返したが、それを受けたアンディの顔に笑顔はない。しばらく沈黙が続くと、ビルも笑うのをやめた。
「本当ですよ」
それだけ言うと、「もう飲みませんよね」と確認をとってアンディのカップと自分が使っていたカップを持って台所の方へ姿を消す。
「・・・今は、イルよりも貴方の方が心配なのよ」
多くを語ってくれない友人の消えていった方向を、アンディは静かに見つめて目を伏せた。




