その5
風呂に入れてみて、アンディはいくつか解ったことがある。
まず、この少年はおそらく孤児だ。そしてろくな生活を送ってきていないのだろう。証拠として、シャンプーも石鹸も5~6回がしがしとしっかり洗わないと泡立ちが悪いどころか泡が全く立たなかった。何よりも、泡に吃驚していたのだ。この世の中では見ないで育つ方が大変なはずだが。
また洋服も脱がせた後バケツに浸したが、少し擦っただけで水がすぐ茶色になってしまったほどに汚れていたのだ。そのまま入れていたら今日の洗濯当番であるアリスに殴られていただろう。
風呂で疲れて眠ってしまった少年を、アンディは背中越しに感じる。
(おそらくまた、「問題のある子」を連れてきたんだとは思うけど・・・)
一見すれば少し臆病なだけの少年だ。どこにも問題は見当たらない。
角を曲がったところで、下を向いて歩いていたアンディは思い切り誰かとぶつかってしまった。
「あら、ごめんなさい」
「いやいや、大丈夫で・・・」
相手の言葉がフェードアウトする。当たり前だ、その人の顔をアンディが差すような視線で睨んでいるのだから。ぶつかった人、ティムは、能天気を装った。嬉しそうにアンディの背中で眠っている少年を見て笑う。
「おお、早くも懐いたようだね。私の人選にミスは無かった!」
「黙りなさいよ。私、この子の『問題』について何も聞いてないんだけど」
「ああ、そうだね、説明しないと。彼を置いてからロビーに来れるかい?」
「解ったわ」
こう約束を取り付けることができれば、ティムがどこかに逃げることは無い。話してもいいのならさっさと話せばいいのに、何故溜められたのかがアンディには理解できなかった。
十分後、アンディはロビーにいた。ティムが応接スペースに座っているのを確認して、彼の座る正面席にどかっと座った。
「で?」
「何処まで話した?」
「全く話してないわよ」
「あれ?あの子からも聞いてないの?」
「そうよ。全く、自分の名前すら聞いても返事くれないんだもの」
アンディがお手上げと両掌を軽く上げて見せると、ティムが少し固まる。が、それは彼の考える時の癖であり、すぐに答えをくれた。
「一応ざっと説明すると、彼の名前はスイリス・ジェイド。コクイ族の少年だ」




