その4
動くのを待っていても無駄だと解ったアンディは、彼の回答を待たずに抱え上げようとした。が、これだけ臆病な少年なのだ。当然逃げ出す。そして最悪なことに、当時はまだアンディも若かった。イラッとした彼が躍起になって捕まえようとするものだから、少年はさらに怯えてしまう。
少年を壁際に追い詰めたその時だった。
ガチャッ
ノックもなく、部屋の扉が開かれた。顔を見なくても、「ノックがない」というところからすぐに誰が入ってきたのか解る。が、彼は今入ってくると面倒くさい奴だった。
「・・・お前、やっぱり男好きだったのか」
「違う」
「しかもショタとは・・・お前との友情ちょっと考えるわ」
「違うって言ってんでしょうが!」
言いながらも何とか少年を捕まえた。逃げるために全力で抵抗されるかと思いきや、観念したように大人しく少年からくたりと力が抜ける。それを疑問に思いながらも、アンディはくるりと振り返った。
そこに立っていたのはアンディの同期の男だ。真っ白な髪に緑色の目が映え、アンディとは別の意味で浮世離れしている。
「ビル、あんた解って言ってるでしょ!」
「まあ、薄々そうかなとは思ってたけど」
「まだ続けるかこん畜生」
じっと睨み合っていると、アンディの腕の中で動きがあった。きょとんとした顔で少年が彼を見ている。どうやら、アンディの敵意が自分に向いていないということに気付いたようだ。
その少年を、ビルがじろっと睨んだ。切れ長の目はカッコいいというよりももはや怖いと言った方が正しい。ビクッと震えた少年は完全に怯えていて、アンディの服を必死に掴んでいた。
「あんた、本当に子供に嫌われるわよねぇ」
「るせぇ。んなことより、このガキは何処から誘拐してきたんだよ」
「さあね?」
「・・・ジジィか」
「他に誰がいるってのよ・・・?」
少年が怯えない程度の怒りをビルに見せつけたつもりだが、あっけなくそれは受け流される。
「んじゃ、『また』有翼人種だな」
「ウォードの次は私よ?嫌になっちゃうわ」
「ならあのババアに渡してこいよ」
ウォードはティムの次に古株であり、約一年前、アンディと同じようにティムに連れてこられた子供の面倒を押しつけられた魔道士だ。順序的にウォードの次の古株としてスーザンと言う女性がいるのだが・・・
「あの人が子供の面倒なんて見れると思う?」
「ま、無理だろうな」
ビルは180度方向転換して、部屋を去っていく。彼が部屋に来る時は大体アリスからの仕事のお誘いがほとんどなので、少年を見た時すでに誘っても来ないと解ったのだろう。出来れば少年をティムに返して仕事に飛び出したいところなのだが、ティムに逃げられてはそれも無理だ。
「あんのクソ院長」
誰にも聞こえない声量で暴言を吐いた後、彼は少年を連れて風呂場へ向かった。




