その3
「さ、今度からここが貴方の部屋よ。って言っても私と相部屋なんだけどね」
部屋の中で下ろされた少年は、すぐに部屋の隅に逃げていく。白基調の綺麗な部屋に薄汚れた赤い服を着た少年は少々目立つ。アンディは彼を淡々と見ていたが、立っていても仕方がないので、部屋にあるソファにぼすっと座った。
「貴方、名前は?」
「・・・・・・」
しゃべれないのか、しゃべらないのか、アンディには判断できなかった。しかし、少なくとも彼は話そうとしなかったのは事実だ。
(自分の名前も言えないの・・・?)
面倒な事を押しつけられたと、アンディの眉間にしわが寄った。すると、少年がビクッと怯える。どうやら、彼は自分が怒られていると誤解しているようだ。
「ん?ああ、貴方にイラッとしてるんじゃないわよ?」
言ってみたものの効果は無く、少年はまだ怯えた目でこちらを見ている。もしかして言葉が解らないのか?と言うことに遅れて気付く。言語は一種類しかないものの、アルスガという国は意外と広い。そのため場所によっては訛りが激しく、標準語のやりとりすら危ういところもある。特に有翼人種は外界との交流を最小限にしてしまっているため、標準語を知らない者も珍しくなかった。
「ほーら、なんにもしないわよー?」
ゆっくりとした口調で、両手を顔の横でひらひらとさせてみたが、少年はその動きにすらびくついた。顔は今にも泣きだしそうである。何がそんなに怖かったのか解らないが、その動作で怯えられるのは少し悲しかった。
(どうしたらいいのかしらねぇ・・・)
少し考えたアンディは、とにかく着替えてもらうことにした。あの服ではあまりに汚すぎる。少し大きいが、自分のTシャツでも着せれば丁度いいだろう。
「ほら、その服洗うから脱いで頂戴?」
「!!」
少年はぶんぶんと首を振った。一応、言葉の意味は解っているということは解った。が、汚れをおとすという目的は達成していない。
(もしかしたら、身ぐるみ剥がされると思ったのかしら?)
孤児生活が長いとそういう経験もあるのかもしれない。そう思ったアンディは、部屋の隅にいる彼の手を優しく掴むと、そのまま綺麗な顔で笑いかけた。
「じゃあ、お風呂にしましょうか」




