その11
その一瞬の出来事に、魔道士同士の戦闘を見慣れていないロジーナは目を丸くした。モグラ相手にあれだけ頼もしく戦ったイルだ。蒼藍でもあるわけだし、魔道士の中ではそれなりに上位の実力者だろう。それなのに、あの結末を見ただけで新人のロジーナにでも全て解ってしまった。
アンディは、最後の最後まで本気で戦っていなかった。
もし彼が初めから本気を出していたら、きっと五分で勝敗が決まっていただろう。となると、彼にはイルの成長をちょっと見てみようなんて余裕まであったと言うことになる。
(ほ、ほんとに何者なのかしら・・・?)
ぱっと結界が消え、練習試合で戦っていた二人が外野の三人のところまで歩いてきた。
「あーもーくっそ!また負けた!!」
「勝てるわけがないだろう」
「んだとてめぇ」
剣呑に睨みあう二人の間にアンディが腕を割り込ませる。
「二人とも喧嘩しないの!いくつになったのよ?」
「「25」」
「律義に答えなくてもいいわよ・・・」
有翼人種は外見年齢が若いという特徴がある。一説によれば「四年に一度年を取らない」という換算で行くと、外見的年齢のイメージが付くのだとも言われている。イルもシュールも外見は18歳なわけだから、なるほど確かに計算上は納得がいく。
と、不意にアンディがロジーナの方を見た。
「じゃあ、明日一日ロジーナちゃん借り出しね?」
(そ、そうだった・・・!)
アンディが想像以上に凄い人だったため、ロジーナは完全にその賭けのことを忘れていた。けれども、彼女の中でそれも罰ゲームからチャンスへと変わる。これだけ凄い人を一日観察でき、話までできる機会というのは滅多にないのだ。いろいろ学びたいところは学びたいし、聞きたい謎はどんどん解明したい。意欲的な彼女は、すぐにそう考え方をシフトチェンジしたのである。
「ま、ともかく、今日はのんびりしてくださいね」
何処から取り出したのか、ビルが汗だくのアンディにタオルを投げて渡す。彼はうまくキャッチすると、顔の次に頭をわしわしと拭って髪についた汗もとると、使い終わったタオルを首から下げた。その動作はどう見ても少女漫画の運動部に所属している系のヒーローそのもので、春風のような絶対的な爽やかさが見られる。しかし。
「あら、どうしたの?早く行きましょ?」
口を開けばこんな、今時女性でも使わないような言葉遣いであり、「なんてもったいない人なんだろう」という感想を、ロジーナはどうしても抱かずには居られなかった。




