その10
「そ、それってかなり高難度じゃ・・・」
「そうですね。レベルが特級までしかないので特級扱いですが、私もアンディ以外が使っているのを見たことがありません」
魔法自体は遠い昔に生み出されたものなのだが、新しい魔法を生み出すほどの魔道士などこの世にはおらず、結果使えるものがほとんどない魔法と言うのが存在するのは悲しいかな事実だ。レベルが高過ぎて、現代の魔道士には普通は使いこなせないのである。
「な、何者なんですか?あの人・・・」
「『水魔法のアンディ』と呼ばれる、オネェ言葉のただの男さ」
肩書き的にも「オネェ言葉」という説明からも、まったく普通の男ではないのだが、ロジーナはそこに気付かなかった。ただただ自分の思い描いたままの「一流の魔道士」に感動を抱いている。
結界内では水の紋、氷の紋を封じられたイルが、苦笑いをこぼしていた。折角崩した体勢も、もう戻されてしまっている。
(伝説級の技を使っちゃうとか、何処のボスキャラだよ・・・)
けれども、万策尽きたというわけではなかった。まだ使っていない紋がある。
イルは手のひらを拳でパンと叩いた。するとそこにまた新たな紋が浮かび上がる。前回のモグラ退治では、相性が悪いため使わなかった魔法、雷の紋だ。
「昇電流!」
「あらやだ忘れてたわ」
少し焦った口調で、アンディが呟く。そのすぐ後に再び下から、今度は電気がバチバチと噴きだしてきた。が、言葉や状況とは裏腹に、アンディはその場でくるりと優雅に回転して見せる。すると、足元にまた水の紋が浮かび上がった。
「え、三つ目?!」
ロジーナは思わず大声で言ってしまった。中には電気がバチバチと激しく音を立てているため届かなかったが、シュールからじろりと睨まれる結果になる。
「もっと静かに鑑賞できないのか」
「いやぁ、単紋使いで三つ持ってる人なんてそうそういないんで、仕方ないですよ」
ビルがそう笑ってフォローを入れてくれたが、シュールの機嫌が直ることは無く、呆れと怒りが混ざった視線とため息がロジーナに贈られた。
一方の中ではアンディが呪文を唱えていた。
「これで終わりよ、氷夷の道楽」
紋からぶわっと水が溢れ出す。そしてその水は彼の手元に集まり、一つの槍へと変化した。水製の槍に、だ。
そこからは一瞬だった。電気の隙間をねって走っていくと、アンディは手に持った槍を豪快に振るった。その尖端はとっさに避けたイルの胸元をかする。けれどもふるった回転を利用して、アンディはくるりと一回転すると、すぐさま二撃目がイルを襲う。それをまたかわそうとイルは動いたのだが、そこでいきなりアンディは槍を鞭へと形状変化させた。水だと、一瞬でこう言うことができる。
「んな・・・ッ!!!」
バチンッ
慌てて腕で防御したが、イルには結構なダメージが入る。しかも、そのまま鞭が彼の体に巻きついて、その動きを封じた。
「しまっ・・・」
「はぁい、ざーんねん!」
語尾にハートマークでも付いていそうな楽しそうな言い方で、イルは敗北が決定してしまったのだった。




