その9
イルの手元に大量の水が集まり、そこから彼が作りだしたのは、武器の魔法で彼がよく利用する武器である大斧だった。
こう説明してしまうと「では武器の魔法で出した方が早いのではないか」というふうに思うだろう。しかし、武器の魔法は現実に存在する武器しか呼び出せず、強度も威力も基本的には一定である。また、力が元になっているため、有翼人種であるイルはどうしても不利になりがちだ。けれどもこの凝雨細工では、全てが魔力に左右される。生み出される物の強度や大きさはもちろん、持ち上げたりふるったりする際も、魔法の一種なので筋力ではなく魔力で動かすのが一般的なので、どれだけ大きなものを作っても魔力の多い有翼人種であるイルにとってはとんでもなく好都合である。大量の水がなければ魔力があってもどうしようもないという欠点はあるが、それも今回はうまくカバーできていた。
(やるようになったわねぇ)
そんなに余裕などないはずの状況なのに、何故かアンディの思考は落ち着いていた。イルが知れば怒るだろうが、それは「イルには負けない」という絶対的自信から来るものである。大きな斧を振りかざした我が子同然の青年に、アンディは感心した後、少し意地悪な策を思いついた。
「イル、あなたに良いものを見せてあげるわ」
「な・・・」
その言葉に一度彼は怯んだものの、その技を使わせる前に決着を付けようとすぐに斧を振りおろした。
「水分神の激昂」
アンディが唱えると同時に、肘を曲げて浮かび上がらせた水の紋から、勢いよく水が飛び出してきた。それは水陰流のように、飾り気のないシンプルな魔法だ。聞いたことが無い魔法ではあったが、氷の魔法を使っているイルは水の魔法に怯える必要はない・・・はずだった。
しゅぅぅぅぅ・・・ッ
イルの斧が悲鳴を上げ出したのだ。水に触れるたびに斧が徐々に小さくなっていく。
「は?なんで・・・」
ぎょっとした彼のむき出しになった肩に、アンディの生み出した水の飛沫が撥ねてきた。そこで初めて気付く。
「あッつ・・・・・ッッ!!!!!」
それは、かなり高温のお湯だった。温泉の源泉のような温度だ。そりゃ氷も解けるだろう。
飛沫が当たった部分がひりひりして、イルは思わずごしごしとさすった。幸い火傷したわけではないようだが似たような感覚はしっかりとある。イルは氷の斧をそこに当てながら、アンディを睨んだ。
「何だよその魔法っ!」
「何って・・・反属魔法よ」
「反・・・?」
「反属魔法」
ぽかんとした顔でイルがアンディを見ていたが、外からはロジーナが同じ視線をアンディに向けていた。彼女は「その位置からだと気付かれない」ということに気付くや否や、その対象をビルに変える。それは正しい判断だったようで、笑いながら彼は教えてくれた。
「魔法には相性があることは知ってますよね?」
「あ、はい」
ロジーナは知っていたが補足がてら説明しよう。
発現魔法には属性と言うものがある。それは水の紋だの火の紋だの、すでに紋と言う形で分けられているのだが、この場では理解に便利だと思われるため、属性と言う言葉を引き続き遣わせてもらおう。
この属性には相性と言うものがある。例えば水は氷に、氷は火に、火は水に弱い。そしてそこから水は火に強く、氷は水に強く、火は氷に強いとも言うことができる。
アンディの使った「反属魔法」というのは、この相性を逆転させた魔法なのだ。もしそれが水の魔法であれば、「氷に強く火に弱い」という力関係になってしまうというわけである。




