第65話:愛しい人
美香との再会。
長い長い時間をかけて。
やっと二人はまた、同じ場所に立った。
「いいよ」
その三文字を見たあと、太郎はしばらくスマホを持ったまま動けなかった。
本当に会えるのか。
あの美香に。
何十年も前に別れた人に。
太郎はゆっくり息を吐いた。
そして返信を打つ。
「ありがとう」
少し間を置いて、もう一行。
「いつ空いてる?」
数分後、美香から返信が来た。
「今週の日曜なら大丈夫」
太郎はカレンダーを見た。
三日後だった。
たった三日。
でも妙に長く感じた。
「じゃあ日曜」
「駅前のあのカフェ覚えてる?」
メッセージを送る。
すぐに既読がついた。
「覚えてるよ」
その一言で、太郎の胸に昔の景色が広がった。
葬儀屋の帰り。
よく二人で寄っていた小さなカフェ。
美香はいつも同じ席に座っていた。
窓際の席。
太郎はスマホを置いて天井を見上げた。
「会えるのか…」
胸の奥がざわつく。
何を話せばいいのか。
謝るべきか。
それとも普通に話せばいいのか。
答えは出ない。
ただ一つだけ確かなことがあった。
太郎はまだ、美香を忘れていない。
そして。
きっと美香も、完全には忘れていない。
日曜日。
駅前のカフェ。
太郎は少し早く着いた。
店の中は昔とほとんど変わっていなかった。
古い木のテーブル。
コーヒーの香り。
太郎は窓際の席に座った。
心臓が落ち着かない。
ドアが開く音がするたびに、視線が向いてしまう。
そして――
店のドアが開いた。
ゆっくり入ってきた女性。
髪に少し白いものが混じっている。
でもその歩き方。
その表情。
太郎はすぐわかった。
美香だった。
二人の目が合った。
次の瞬間。
時間が止まったようだった。
美香は少しだけ笑った。
「久しぶり」
その声を聞いた瞬間、太郎の胸の奥で何かが静かにほどけた。
長い長い時間をかけて。
やっと――
二人はまた、同じ場所に立った。




