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第46話:真美の浮気

「もうあなたのこと男として見てないし」

真美のその言葉は残酷だった。

太郎も限界だった。

美香に家族のことを相談するようになる。

陽菜のいじめが発覚してから、家の空気はさらに重くなった。


太郎は何度か陽菜に話しかけようとした。


「学校、どうだ?」


「今日は大丈夫だったか?」


だが陽菜はほとんど答えない。


「別に」


「普通」


それだけだった。


部屋に閉じこもる時間は増え、食事も一人で済ませることが多くなった。


太郎は、どうしていいかわからなかった。


一方、真美はというと——


陽菜のことをほとんど気にしていなかった。


「高校生なんだから、自分でなんとかするでしょ」


そう言って、家にいる時間がどんどん減っていった。


美容院の仕事が忙しいと言っていたが、帰宅はいつも深夜だった。


ある日、太郎が夜中に目を覚ましたとき、隣のベッドは空だった。


時計を見ると、午前2時。


(まだ帰ってないのか…)


太郎はリビングへ行った。


暗い部屋。


真美の靴もない。


そのとき、ふと違和感を覚えた。


最近、真美のスマホにはよくメッセージが届いている。

そしてそのたびに、急に機嫌が良くなる。


ある日、太郎がリビングに入ると、真美は慌ててスマホを伏せた。


「何?」


と聞くと、


「別に」


としか言わない。


その時、太郎の胸の奥に嫌な予感が芽生えていた。


そして、それはすぐに確信に変わる。




その夜。


真美が風呂に入っている間、テーブルの上にスマホが置かれていた。


太郎は迷った。

だが、手が伸びてしまった。


画面を見る。


そこに表示されていたメッセージ。


「今日も会えて嬉しかった」

「次はホテルゆっくり行こうね」


太郎の頭が真っ白になった。


送信者の名前は——


健太


さらにスクロールする。


「旦那まだ気づいてない?」


「あんな男ほっとけばいいよ」


太郎の手が震えた。


(浮気…)


胸の奥から、怒りと虚しさが込み上げてきた。

だが同時に、奇妙な感情もあった。


(俺が言える立場か…)


自分も同じことをしてきた。


美香を裏切り、沙織とも関係を持った。

その報いなのかもしれない。


真美が風呂から出てきた。

太郎はスマホをテーブルに置いた。


「真美」


真美は髪を拭きながら言った。


「何?」


太郎は静かに聞いた。


「健太って誰だ」


真美の動きが止まった。


一瞬の沈黙。


そして真美はゆっくり笑った。


「ああ」


驚く様子はなかった。


「見たんだ」


太郎は言った。


「浮気してるのか」


真美は肩をすくめた。


「そうだけど?」


あまりにもあっさりしていた。


太郎は怒鳴った。


「ふざけんな!」


真美は冷たい目で見た。


「何怒ってんの?」


その一言が、太郎を黙らせた。


真美は続けた。


「あなた散々浮気してきたじゃん」


「……」


「今さら何?」


太郎は何も言えなかった。


真美はソファに座った。


「それに」


スマホを手に取る。


「もうあなたのこと男として見てないし」


その言葉は残酷だった。


「じゃあ何で一緒にいる」


太郎が聞くと、真美は笑った。


「子ども」


短い答えだった。

だがその言葉に、重みはなかった。


現実は違った。


真美は陽菜のことをほとんど見ていない。


朝も起きない。

弁当も作らない。

陽菜はコンビニのパンで学校に行くことが増えた。

それでも真美は気にしない。


「高校生なんだから平気でしょ」


それが口癖だった。

育児は、完全に放棄されていた。




ある日の夜。


陽菜が夕飯も食べずに部屋にこもっていた。


太郎がドアをノックする。


「陽菜」


返事はない。


「入るぞ」


ドアを開けると、陽菜はベッドに座っていた。


目が赤い。


「また何か言われたのか」


陽菜は首を横に振った。


「別に」


その言葉を、太郎はもう信じられなかった。


太郎はベッドの端に座った。


「ママ、最近帰ってこないだろ」


陽菜は小さく言った。


「知ってる」


「え?」


「男でしょ?」


太郎は息を飲んだ。


陽菜は笑った。

乾いた笑いだった。


「家族って何なんだろうね」


その言葉に、太郎の胸が締め付けられた。


陽菜は続けた。


「パパも浮気」

「ママも浮気」

「バカみたい」


太郎は何も言えなかった。



その夜。


太郎は久しぶりにスマホを手に取った。


連絡先を開く。

そこにある名前。


美香


しばらく画面を見つめていた。


連絡していいのか。


今さら。


でも——


太郎は、どうしても誰かに話したかった。


そして思い浮かぶのは、やっぱり美香だった。


震える指でメッセージを打つ。


「久しぶり。少し相談してもいいかな」


送信ボタンを押したあと、太郎の心臓は激しく鳴っていた。


数分後。


スマホが震えた。


美香からの返信だった。


「どうしたの?」


その短い言葉を見た瞬間、太郎の胸の奥に溜まっていたものが崩れそうになった。


太郎は長いメッセージを書いた。


家庭のこと。

陽菜のこと。

真美の浮気。


すべて。


送信してから、しばらく沈黙が続いた。


そして美香から返信が来た。


「大変だったね」


その一言だけだった。


でも、その言葉が、太郎の心を救った。


太郎は気づいてしまった。


やっぱり自分は——


美香に頼ってしまう。


そしてその再び始まった連絡が、


この先、太郎の人生をさらに大きく揺るがすことになる。

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