86:うちの面子が立たないから!!
「ええぇぇ!?」
馬で駆けながら、前方を見て叫んだ。
王国騎士団が到着する。だから俺は、ロバート卿以下十人ほどを連れて北上し、迎えに来たのだが……。
「ゼナスが豊かになり始めたことで、野生動物が増え、同時にモンスターも増えましたからね」
「呑気なこと言ってないで、加勢するよ!」
必要ないことはわかっている。でも、ここは辺境領だ。うちの土地なんだ。
うちで襲われている人がいるのに何もしないなんて、治める者の息子として失格だろう!
あと、うちの面子が立たないから!!
少し前まではもっと北西の土地に生息していたグラスウルフの群れだ。
確かモンスターランクは。
「Dランクだったよね!?」
「左様でございます。ものども、雑魚だと言って油断するな!」
「「おぉー!」」
最近、ロバート卿が騎士団の隊長じゃなくって、傭兵団の隊長っぽくなってきている。
ワイルドだ。
この人も一応、貴族出身なんだけどな。
「お迎えにあがりました! 遅くなって申し訳ありませんっ」
「助太刀、かたじけない」
先頭で指揮をする騎士に声を掛けると、こちらの事情も汲んでか、素直に援護を受け入れてくれた。
たまに「余計なことをするな!」って怒る人もいるって聞くからドキドキもんだったけど、なかなかデキた人みたいで安心した。
ん? 後方に馬車。しかも上等な馬車だ。
もしかして誰か視察に来たのか?
あっ。女の子が降りてきた!?
「はっ!」
馬の腹を蹴って駆ける。間に合えぇぇ!!
剣を抜き、今まさに女の子を襲おうとしているグラスウルフに向かって振り下ろす!
ガキィンっと音がして、まさか口を受け止められた!?
「こ、こいつ! 放せっっとわぁっ」
逆にこちらが引っ張られ、落馬させられる。
ギリギリのところで手を離し、地面を転がって難を逃れた。
「ガルルゥ」
「馬車の中へお入りください!」
「で、でも……」
「早く!」
「危ないです!」
……え?
黒髪の少女がひらりと舞う。そう、舞っている。
その手には細身の剣、レイピアを携えて。
そして、グラスウルフの首筋に向かって一閃。
な、なんて見事な剣さばきだ。見惚れてしま……いややいやいや。どう見ても俺より年下の女の子、しかもご令嬢だろう!?
助けに来た俺が助けられて、どうする!!
「お、お怪我はございませんでし、た……はわっ。ひゃあぁ~っ」
え……こ、今度は何?
両手で顔を隠して蹲ってしまっ、あ!
クソッ。剣はさっきのグラスウルフが向こうに投げてしまった。
高台から飛び掛かって来るグラスウルフが一匹。
「ならこうだ!」
両手を地面について、土を錬金!
上から飛び掛かって来たグラスウルフに向かって、土の錐が地面から飛び出した。
マントを広げ、令嬢に血しぶきがかからないようしっかりガードする。
「ギャインッ」
断末魔が聞こえチラりと向こうを見ると、くく、見事に串刺しだぜ。
でもこいつの肉、美味くないんだよなぁ。まぁ毛皮は売れるっていうけど。
死体をこのまましておくわけにもいかないんだよな。放置していくと、血肉のニオイに釣られて他のモンスターが山から下りてくるから。
「令嬢、だいじょ……いえ、助けてくださり、ありがとうございます。全部片付いたようなので、モンスターの死体を埋めますので、出発まで馬車の中でお待ちください」
エスコートをしようと思ったけど、手に土がついて汚れてしまっている。慌ててズボンで手を拭き、土がついていないか確認してから差し出した。
女の子は俺の手を見て、それから顔を背けそっと取る。
や、やっぱり汚れてた?
「あ、あひが、あ、ありがと、う、ごひゃいま……ひゃあぁぁっ」
「え、あの……」
彼女は俺の手を振りほどき、慌てて馬車の中へ入ってしまった。
お、俺、何かマズいことでもしただろうか?
彼女が中へ入ると、次は男の人が出てきた。
イケメンだ。銀髪の超イケメンだ。
このイケメンを知っているぞ。この方は……。
「エーリヒ様!? ど、どうして辺境へ」
「や。覚えていてくれて、嬉しいよディルムットくん。実は国王陛下の頼みでね。この地を直接見てきて欲しいと」
「へ、陛下が!? え、じゃあ……先ほどの令嬢は」
黒髪の、ティファと変わらなさそうな年齢というと……誰?
エヴァンゼリン嬢はエーリヒ様と同じ銀髪だし、さっきの子は黒髪だ。
少しだけぽっちゃりした、いや、健康的な体形というべきだろう。
そんな子だった。
その時、後ろで馬車の扉が開いた。
バンっと開いたので、エーリヒ様が頭を打っている。
「だ、大丈夫ですか!?」
「あぁ、平気だ。大丈夫。ちょーっと待っててもらえるかな?」
頭をさすりながら馬車の中へ。少しして出てくると、エーリヒ様が、
「さ、さっきの子はエリンと言ってね。エヴァやわたしの従妹、なんだ」
「従妹……なるほど。それでどこか雰囲気が似ていらっしゃるのですね」
髪は黒いけど、瞳は赤かった。エヴァンゼリン嬢と同じ色だ。
「人見知りの激しい、恥ずかしがり屋さんなんだ。しばらくの間、わたしと一緒に世話になるよ」
「承知しました。いやぁ、それにしてもお強いですね」
「それがなかなか、困ったことにね。どうやらわたしより才能があるらしく」
女剣士かぁ、カッコいいなぁ。
「では、片付けにいってまいりますので」
「うん」
既にうちの騎士たちが死体を集めてくれている。二十五頭かぁ。結構な群れだったんだな。
まずは死体を錬金する。皮を剝ぐためにだ。剥いだ皮はみんながまとめて紐で包んでくれる。
もちろん、血をこびりつかせていないし鞣しも完了してある。
あとは、土を錬金して死体をずぶずぶと地面に沈めて……かなり深い位置まで沈んでいくイメージが頭の中に浮かんだ。
「よし。これでニオイは出ないだろう」
あまりにも血だまりの多いところも、土を錬金して混ぜ混ぜ。多少はニオイが薄くなるだろう。
「お待たせしました。では、出発しましょう」
「あぁ。案内、よろしく頼むよ、ディルムット」
馬車の窓越しにエーリヒ様が頭を下げる。
その向こう。エーリヒ様の隣で、チラりと俺を見るエリン嬢と目が合った。
「ひゃあぁっ」
悲鳴を上げて窓からフェードアウト。
俺……彼女に失礼なことでもしたっけ?




