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【書籍化】毒親育ちの俺、異世界で優しい家族を得る~不運な男爵家ですが、錬金魔法で辺境領地を発展させます~  作者: 夢・風魔
5章

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212/213

212:ごめん、エヴァ。

「砂漠の特等席ですね」

「源泉はこの下にあるんだよ。湧き出すお湯の成分を調べるのも兼ねて、いったんここに浴槽を置いたんだ。しばらくはここまで通って風呂に入ってたんだよ」

「まぁ!? お風呂のためにここまで歩いて、また汗をかかれていたんじゃ」

「はは。まさにその通りでね。ま、ここへは汗を流すためというよりも、疲れをとるためって割り切ってたからさ」


 温泉第一号でもある砂漠の風呂場はまだ残してある。

 周りには源泉を溜めて成分を沈殿させるための貯水槽が並び、ゆっくり上澄みだけが町の方へ流れていく、そんな仕組みだ。


「そうだ。せっかく来たんだし、沈殿しているものを抽出して帰ろう」

「何が沈んでいるのですか?」

「鉄と塩。他にも土とかもね。どうしても一緒に噴き出てくるんだよ」

「鉄が入っているのですか!?」


 貯水槽のひとつの蓋を錬金で分解して魔法陣の中へ一時保存する。中にたまっているお湯は茶色く濁り、まるでサビているようにも見えた。


「凄いお色ですわ。これが鉄?」

「この水槽は源泉から直で出たお湯だから、一番鉄分が多いんだ。そこの方に溜まって見えるのが鉄粉の元だよ。沈んでいる部分を取り出してから乾燥すると、鉄の粉が採れるんだ」


 今回は錬金するけどね。

 魔法陣を展開し、成分抽出する。一ヵ月近く溜めていたから、結構取れたな。といっても、鉄鉱石を採掘した方が早いレベルの微々たる量だ。

 ま、鉄の鍋数個分にはなるかな。


「ちょっぴりなんですね」

「まぁね。大量のインゴットが作れるほどお湯に鉄分混ざってたら、それはそれで嫌だろ?」

「ふふ、確かにそうですね」


 残りの水槽も全部、成分抽出しておく。鉄と塩はそのまま一時保存で持ち帰って、鉄の方はあとで親方に渡す。塩はフィッチャーだ。

 フィッチャーが「温泉塩」なんて名付けて売りに出すらしい。さすが商人だな。


「不思議ですねぇ」

「ん? 不思議って、何が?」


 エヴァは砂漠を見つめ、ほぉっと溜息を吐く。

 新しい水着は白だ。フリフリしたのがいっぱいついている。

 前世で聞いたことがあるんだけど、白い水着は透けやすいって。

 誰が言ったんだ、そんなこと。

 透けてないじゃないか!

 いや、透けてなくていいんだよ! 透けてたらダメだろ! いいんだよこれで。いいんだ!


 そんなエヴァの横顔を見つめた後、俺も砂漠へと視線を移した。


「このずっと先に、恐ろしい蛮族が暮らす大地があると思うと。ゼナスでのんびりお風呂に入っているのが、不思議でなりません」

「……エヴァ。怖い?」


 そう尋ねると、エヴァは「いいえ」と首を振る。


「ディル様がいますから」

 

 そう答えるエヴァが、どうしようもなく愛おしいと思ってしまう。

 

 俺は今年で十五になる。この世界ではひとまず書類上は成人って奴だ。ま書類上はね。

 成人だと言っても、見た目はまだ子供だし成長途中でもある。都合のいい時だけ「成人」扱いして、普段は子供扱いのままなんだよ。

 

 エヴァは今年で十二歳だ。前世だとようやく小学六年生。

 中三と小六……ロ、ロリコンじゃないよな!?


「どうなさいましたか? ディル様」

「え? あ、いやぁ……ははは」


 俺はロリコンですか?

 なんて聞いて、答えてくれるわけがない。そもそもこの世界に、ロリコンなんて言葉はないからね。


 でも、成人かぁ。

 成人したら俺、父上殿から独立するんだろうか。

 まだ早いよな。まだまだずっと先でいいよ。

 まだ……家族でいたい。


「ディル様?」

「あ、いや……。今年さ、俺、成人だろ? 父上殿は侯爵になって、俺は独立して辺境伯にって……。でも、まだ?その、早いと思うんだ! 十五だって言っても、俺、まだまだ子供だし!」


 あ……婚約者の前で、自分はまだ子供だとか何言ってんだ。不安にさせるだろ。

 頼りない男だって、思うよね。エヴァ。


 少し不安な気持ちになって彼女をチラっと見ると、ほっこりした笑みを浮かべていた。


「ディル様は、ご家族が大好きですものね」

「い、いや、あの」

「私もです。私も……ディル様と早く、その……け、けっこ……したい、と思っていますが、同時に、家族と離れて暮らすには、私はまだまだ子供で……」

「エヴァ……」


 そうだ。家族と離れるのは、何も俺だけじゃない。エヴァだって同じなんだ。


「お兄様やお母様、おじい様……それに、お父様とも離れ離れになるのは、寂しい、ですから」

「ヴァルドヒリ様とも? いつもはそっけない態度なのに」

「べ、別にお父様のことを嫌っているわけじゃないんです。むしろ……大好きです」


 だ、大好き!?

 ヴァルドリヒ様……よかったですねぇ。


「三歳の時にお父様は北部に行かれましたし、物心つく頃でしたから。普段はいない、年に一、二度帰って来ても、十日もしないうちにまた出て行かれていたので。お父様の記憶が、ほとんどないのです。お兄様やお母様の態度で、この方が父なんだってわかる程度で」

「滅多に会えないと、そうなっちゃうよね。仕方ないよ」

「でも、七つを過ぎたあたりから、お父様がお父様だって理解できるようになったのですが……そうすると今度は、いつもそばにいてくださらないことが寂しくなって……。やっと、やっとお父様が家にいてくださるようになったんです。私、嬉しくて。それなのに、どう接すればいいのかわからなくって」


 わからないから、どこか冷たくしてしまう。

 乙女心というより、子供心だな。


「このままでいいと思うよ。外から見ていたら、仲の良い親子に見えるしさ」

「そ、そうでしょうか? お父様が悲しまれていないか、心配で」

「いやぁ、ないない。それはないよ。心配なら本人に伝えたら? 口で言うのが恥ずかしいなら、手紙で伝えるとかさ」

「そ、それも恥ずかしいです! ディル様。今の話は絶対、お父様には内緒にしてくださいね!」

「ははは。わかったよ。じゃ、お互い本当の意味で大人になるまでは待とう。あんまり待たせられると、俺が寂しくなるけどね」


 できれば俺が二十歳、いや二十一ぐらいには結婚したいなぁ。そうすればエヴァは十八歳だ。

 貴族の令嬢の結婚適齢期が十八から二十歳っていう、随分若い年齢だけど、その範囲には入るしね。


「も、もちろん、です。ディル様」

「うん。それまで待ってるよ」


 そう伝えてから、エヴァのおデコに口づけをした。


「ひゃう!?」


 真っ赤になったエヴァがおデコを抑える。


「おっと。茹で上がると大変だ。そろそろ上がろうか」

「ひゃ、ひゃい……ディル様。さ、さっきのお父様のお話、絶対内緒ですからね」

「うん。もちろんだよ」


 ごめん、エヴァ。

 その話はもしもの時の【切り札】として使わせてもらうかも。

 

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