213:――した。
ゼナスに春が訪れた。
「はぁ……暑くなってきたなぁ」
「兄さま、春だもの。仕方ないわ」
春だから暑くなるのは仕方ない。春って……こんなだったっけ?
むしろゼナスでは夏しかない気がする。
三月と四月が初夏。五月から十月までは夏真っただ中。十一月から翌年の二月までは残暑。
残暑と初夏が繋がってるけど、他に季節がないから仕方ないね!
ただ、ハルテリウス宰相から見せてもらった魔導具の中に、いいものがあった。
空気を冷やす、まさにエアコンだ!! まぁ正しくは冷風機かな。
魔導具は転送装置と同じで、二つでワンセット。片方を水に入れ、もう片方を側に置く。水に入れた方の魔導具で水を冷やしつつ、側に置いた方で風を発生させる仕組みらしい。
面白いのが、水を冷やしながらも霧状にして周囲に充満させること。まぁ周囲といっても、狭い範囲だ。だから風で冷たい空気を拡散させてやると、室内が涼しくなるって言う。
魔導具にセットした魔石に魔力を溜めておく必要があるから、魔力補充店がさっそくオープンしている。
これには冒険者や、魔力はあるけど魔法は使えないような人がバイトとして来ることがあるそうだ。
一度、魔石に魔力を満タンに込めておけば、三、四日は持つ。
ゼナスには何百という家が建ち並ぶし、天変地異でも起きないとここが涼しくなることはないだろう。魔力補充店の需要は、この先もずーっと続く。
「あぁ~、涼しくって、気持ちいぃ~」
「大昔の古代人様さまだねぇ」
「ほんと~。古代人の中に、兄さまみたいな錬金魔法を使える人がいたのかなぁ」
「錬金魔法は、それそのものの構造がわかってないと作れないからね。たぶん、地道な手作業で魔導具を作ったんだと思うよ」
俺はあくまで、出来上がっているものを解析して構造を丸っとコピーしているだけだからね。解析なしで錬金する場合、頭の中でその構造を理解していないと無理だし。
いくら前世の記憶があるからって、知らないものは知らないんだ。万能な魔法でも、知らないと作れないからね。
「冷風魔導具、これは爆売れするで!」
「でも残念。ミスリルが必要なんで、販売価格は住宅一軒相当になるよ。誰がそんなもの、買うんだよ」
「せやけど、ミスリルはディルムット様価格で安く仕入れとるやないですか!」
「だからって安くしたら、ミスリルの相場が崩れるだろ。魔導具の中に使われているミスリル目的で買い占める奴らだって出るだろうし。それに」
それに、ゼナスで使う分には黙認してもらっているけど、ミスリルで商売してはダメ――と、王様からも言われているんだよね。さっき言ったように、相場が崩壊してしまうから。
だからって適正価格にすると、とてもじゃないけど貴族や富裕層でもないと手が出ない。
魔導具を使わないものなら作れるけどね。魔石に風の魔法を込めたものと、水、あと水を湿らせるタオルでもあればね。実際、前世でも扇風機に保冷剤や水を使って、少し冷たい風を送るってのはあったし。
それなら魔石次第だからね。一般家庭向けに販売もできるだろう。
ただ……風を送るだけの魔石装置ならもう売ってんだよ!!!!
「ま、諦めることだね、フィッチャー」
「せっかくの商機や思うたのに……」
「ミスリルで商売は無理だって。さ、俺は町の仕上げに行こうっと」
町はほとんど完成している。あとは一番北側の一角を完成させるだけだ。そこには二層目に新しく作った農地で働く人たちが暮らす区画になる。
農地にも小屋を錬金し、収穫した野菜をその場で洗って町へ持っていけるよう、人工池も用意した。
あとは――。
「本当に馬とか牛とか、いいんですか?」
「いいですよ、坊ちゃん。浮遊石のおかげで軽いんですから」
「そうそう。これなら山盛り積んでも、片手で押せるぜ」
引っ越しの時に使った荷車は、収穫した野菜を運ぶ用に使う。軽いからって、馬も牛もいらないってさ。まぁ人の手で押せるようにって作ったものだけどさ。
その荷車を収納するための小屋を、町側にも錬金する。他の農機具もここに全部片づけるため、大きめの小屋だ。利用する人の意見を聞きながら、棚を錬金して設置した。
「こんな感じでいいかな?」
「えぇ、十分です。これまで以上に、ガンガン耕しますよ!」
頼もしい。
開墾も随分進んだし、全ての農地で作物が収穫できるようになれば、自給自足率も八割ぐらいになるだろう。気温のせいで、どうしても栽培できないものもあるし、そこだけは相変わらず他所に頼ることになるけど。
でも、それはそれで他の領地といい関係を築けるから、悪いことじゃない。
「さぁて。みなさんの家を完成させますか。――錬金魔法」
この日、ちょっと頑張って二十三軒を錬金。
そして――。
「ふぅ。ゼナス完成っと」
――した。




