209:今から……とほほ。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「すっげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
「真っ白だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
うん。初めて雪を見る子供たちの反応って、きっとこんなもんだろうね。
十二の月の頭に、ゼナス生まれのゼナス育ち、それから今やゼナスの領民となった砂漠の民の子供たちを連れ、北部辺境へとやってきた。雪を見せるという、ただそれだけの理由で。
そのために王宮にある大容量の魔導具を北部に持っていって起動するっていう、面倒くさいことまでしたんだ。大いに楽しんでもらいたい。
まぁ、明日には全員、風邪引いてるだろうけどね。
「いやぁ、毎日雪ばかりで見飽きていたけれど、子供たちの新鮮な反応を見ると、まだまだ雪もいいもんだと思えるものだな」
「アッセンポロ辺境伯様。子供たちの雪見学、叶えてくださってありがとうございます。アッセンポロ様はもう見飽きたのですか?」
「元々ベリエンシャ公爵領も、積雪の多い土地でね。雪には慣れているから、北部辺境領主がベリエンシャ家から選ばれたっていうのもあるみたいなんだ」
「慣れてないと、これは辛いでしょうからねぇ」
子供たちは大喜びで雪にダイブしているけど、大人は喜ばないだろう。
「こ、これが……ゆ、雪……」
「おお、お、おおおおおぉ」
訂正。付き添いでやってきた大人たちも大興奮だ。
はぁ……まったく。
「いいですかぁ~、新雪は柔らかくてすっぽりと埋まってしまうかもしれませんから、小さな子には必ず大きな子が側にいてあげるように!」
「「は~い」」
まぁ今は積雪五十センチぐらいだし、大丈夫だろうけどね。
「ほぉ。新雪の危険さをご存じか。この時期ではまだ人が埋まるほどの積雪量にはならぬが、気をつけることを覚えておくのはいいことだ」
「い、いえ。本で読んだだけなんですよ。元の男爵領でも少しは雪が降ってましたが、まだ多くても五センチとか、そんなもんでしたから」
スキー場で、コースを外れて新雪に埋まって死亡する事故をニュースなんかで見て知っている――なんて言えないもんなぁ。
本で見ました~が、この世界で最適な嘘だ。
で、今回は別に雪遊びに来ただけじゃない。
ミスリル――それはドワーフ族にとっても魅力ある鉱石だ。
まぁドワーフ族の場合、その価値というよりもそれを掘りたいという鉱夫魂と、それを使って何かを作りたいという職人魂から来ているんだけどね。
「一度はここから出て行った身だが、また雇ってくれんですか。辺境伯の旦那」
「もちろんだ! ドワーフ族が来てくれるというなら、採掘も捗るというもの。だがゼナスの方は大丈夫なのかな、ディルムット殿」
「はい。実は――」
実はドワーフ族っていうのは、案外いるもんで。ゼナス近隣の領地から噂を聞きつけたドワーフ族たちが集まってきたんだ。その数、ざっと三百人。もちろん女性や子供もいるため、実際に採掘作業ができるのは百二十人ほどだ。
それでも、うちの地下坑道で働くには人数が多過ぎる。
砂漠の民もいるしね。彼らにも仕事をしてもらわないといけないし、鉱山に入ってもらっている人たちもいる。
だからってせっかく来てくれたドワーフ族は追い返せない。
そこで思い出したのが、ミスリル鉱山だ。
定期報告で父上殿が王都に行ってるけど、どうやらミスリル鉱山での採掘作業が捗っていないらしい。以前はドワーフ族がいて、それで採掘作業がスムーズに運んでいたらしい。
そのドワーフ族が王弟に全員解雇されて、ゼナスに来たわけだからね。
彼らと、新規でうちに来たドワーフ族の半数が北へ移ることになった。
採掘道具もたんまり錬金してきたので、採掘場近くに小屋でも建ててそこに保管してもらうつもりだ。
あと、ドワーフ族の住居もね。
「なるほど。どこまでも採掘好きなドワーフ族らしい。いや、こちらとしては大歓迎だ。実はこちらにも良い報告があってな」
「良い報告ですか?」
「うむ。新しい鉱脈が見つかったのだ」
「なんだって!? そりゃ本当ですかい、旦那!! こうしちゃいられねぇ。ディルムットの坊ちゃん。今すぐ坑道に行くぜ!」
「え……い、今からですか? 明日って話だったんじゃ」
「「今だ!!」」
そんな、みんなで合唱しなくたっていいじゃないか。
この雪の中を、今から……とほほ。




